アホヲタ元法学部生の日常

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民訴ガール第1話 いつも両手にJKを 〜平成18年その1

重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版

重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版

1.高度に発達した法律は魔法と見分けがつかない


  JS, JC, JK。クラシックが好きな人にとっては、バッハ家が産んだ天才達の名前であろう。しかし、法クラは違う。法クラがJSといえば、『受験新報』*1、JCといえば、『実務知的財産法講義』又は『実務詳説著作権訴訟』、そして、JKと言えば、何と言っても『重点講義民事訴訟法(上)(下)』である。


 『重点講義民事訴訟法』は、元々は法学教室という学生向けの法律雑誌への連載をまとめたものである。しかし、学生向けのはずが高度な理論が展開されており、分厚い本は改訂の度に膨張を続ける。そんな本だから、サクっと読んで終わりのはずがない。受験生時代から、民訴が好きだった僕は、いつも両手にJKを持って、暇があれば参照していた。


 「さて、どう考えるべきか。」「新堂説でよいのではなかろうか。」「読者諸氏もぜひ読むべきである。」独特の言い回しに、読んでいくうちに、まるで、高橋教授が耳元で語りかけてくるような錯覚を受ける。公法系と刑事系で大失敗をしてしまったのに、もう後が無い5回目の受験で最下位の1500番に滑り込み、なんとか合格できたのは、重点講義のお陰、と感謝している*2



20××年*3、司法改革によって、法の光が世の隅々まで行き届いた社会地方公共団体、病院、図書館、そして学校にまで弁護士がいるのが当たり前の時代*4。若手弁護士は、みな「ニーズ」に応えようと、必ずしも採算の取れる訳ではない案件を、無償奉仕に近い形で大量にこなしている。


 僕は、ロースクールを出て、司法試験に合格し、司法修習を終えた。僕のような5回目合格の修習生は、基本的には弁護士になるなら即独するしかないのだが、学部の頃に無理して高校の教員免許を取っていたこともあって、4月から、弁護士登録をすると共に、ここ、星海学園高等部に、法学の教師として赴任することができた。もちろん、ロースクール奨学金と貸与金計1000万円以上*5を返済しなければならない以上、どこか就職先をみつけないと、人々のお役に立つ前に文字通り成仏*6してしまうという経済的理由もある。でも、僕には、ここで叶えたい、夢があるんだ


2.可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである


 はっ!法学科研究室で重点講義を読んでいたら、いつの間にか時間を忘れてしまった。星海学園高等部の法学担当の講師は僕一人。だから、法学科研究室とその本達を一人で独占できる。でも、その代わり、法学科研究室は旧校舎の一角という辺鄙な場所だ。先々代かその前の先生が本を持ち込みすぎたために、移転しようにも移転できなかったという噂もある。


 キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪


 もう、予鈴が鳴りだしている。初授業から遅刻では、格好がつかない。僕は、慌てて1年3組の教室に駆け込み、扉を開ける。どこからともなく漂う甘酸っぱい香りの中で、36人のセーラー服の女子高生の目線が一斉に僕の方に集まる。


 自己紹介を済ませると、早速初めての授業に入る。何しろ、法学部生時代に教育実習をやったきり、教育現場からは10年近く離れていた。10歳以上年下の少女達を教えるなんて、不可能に近いが、この高校唯一の法学の教員。まずはできるところまでやってみるしかない。


現代日本法化社会である。このご時世、法律知識は全国民必須の常識だ。小学校高学年で法学基礎、中学校で憲民刑の上三法、そして、高校で商法訴訟法等の下三法を勉強する。


「皆さんは、既に中学校で、民法の勉強をして来たと思います。今日から1年間、僕と一緒に民事訴訟法を勉強していくことになります。これまで、民法等の実体法の授業があったと思うけど、民法上代金や損害賠償を請求できるとなっても、相手が支払いをしなければ、『民法上権利がある』といってみたところで、ただの絵に描いた餅です。そこで、私人間の紛争を国家が関与して解決する民事訴訟制度が作られました。民事訴訟法は、この民事訴訟の手続を定めた手続法になります。今日は、民事訴訟法の入門ということで、大事なことを3つ勉強してもらいます。」


こう言って黒板に大きな文字を書く。

・具体的な民事訴訟のイメージ
・原理原則の深い理解
・対立する価値への配慮

「この3つ以外にも『実体法と手続法の緊張関係』なんてものもあるけど、まずはこの3つをきちんと理解すれば大丈夫です。」



「先生!」


元気よく手を上げたのはショートカットの少女。


「はい。僕はまだみんなの名前を覚えられていないから、発言する時は自分の名前を言ってもらえるかな。」


「はい、律子(りつこ)です。」


「律子ちゃん、質問は?」


民事訴訟の経験もない私たちは、どうすれば具体的イメージが分かるんですか?」


「いい質問だね。まあ、未成年者は法定代理人を通じてしか訴訟行為ができない絶対的訴訟無能力者民事訴訟28条、31条)ではあるけど、傍聴はできるから、裁判傍聴は1つの方法だね。その他、この教室でも、裁判のイメージをつかめるように、具体的に説明していこうと思う。」


こう言って、黒板に図を書く。

訴えの提起→送達→口頭弁論(→弁論準備)→証人尋問等→判決


民事訴訟は、まず、原告が、訴状という紙に、裁判所に何をして欲しいか(請求の趣旨)と、その根拠(請求の原因)を書いて提出し、訴えを提起する。裁判所は、被告に訴状を送達して、訴状に対する被告の回答(答弁書)を提出し、裁判所に来るように伝える。裁判所では、第一回は口頭弁論といって公開の法廷で双方の主張を聞くことが多いけど、その後は、弁論準備といって、裁判所と当事者だけがいるところで、胸襟を開いて議論して何が本当の争点なのかを整理していくことが多い。このプロセスで残った争点については、証人を公開の法廷で原被告双方が尋問して、その結果を踏まえて、裁判所が判決を下す。大まかに言えば、民事訴訟はこういう流れで行われる。」



すっと手を上げたのは、黒く長い髪が印象的な日本人形風の少女。



「志保(しほ)と申します。『原理原則の深い理解』や『対立する価値への配慮』が分かり易いような例はありますでしょうか。」



「これを説明するために、今日は司法試験の過去問を持って来たんだ。だけど、過去問を学ぶ前に、前提として、多数当事者訴訟について話をしようと思う。」


「当事者が一人いるだけでも難しそうなのに、多数当事者訴訟なんて…。」


律子が不満顔を浮かべる。



「もちろん、司法試験レベルということであれば、『教科書に載っている類型全部』を押さえないといけないけど、まずは、以下の類型を押さえるといいんじゃないかな。」
といって、黒板に書く。

最初から複数
・通常共同訴訟
・固有必要的共同訴訟
・類似必要的共同訴訟
訴訟開始後の複数
・補助参加
・独立当事者参加(詐害防止参加、権利主張参加)
・共同訴訟参加


「今日は、そのうちの、通常共同訴訟について話をしよう。通常共同訴訟に適用される原理・原則は分かりますか?」


共同訴訟人独立の原則民事訴訟法39条)でしょうか?」


即答する志保ちゃん。


「そのとおりだね。『共同訴訟人独立の原則』はどういう意味かな。」


「通常共同訴訟について共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為、及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさないという原則です*7。」


「えっと、具体的に言うとどういうことですか。あ、沙奈です。」


沙奈ちゃんは、ツインテールの女の子。志保ちゃんの簡潔な回答が、よく分からなかったようだ。


「例えば、原告が、2人の被告に対して損害賠償を請求した場合に、一方の被告だけが『和解をしたい』と言って単独で原告と和解してしまってもいい。この場合、残った被告は、原告と訴訟を続けることになるよね。また、例えば、負けた被告のうち、一人だけが上訴して、もう一人が上訴しなくてもいい。上訴しない方の被告との関係では判決が確定するね。」


「どうして、共同訴訟人同士でバラバラになってもいいのかなぁ?」


律子ちゃんが疑問を口にする。


「通常共同訴訟の要件は民事訴訟法38条に規定されていて*8権利義務共通*9同一の事実上・法律上の原*10権利義務が同種で同種の原因の3つがあるけど、特に最後の権利義務が同種で同種の原因は非常に広いから、例えば、家主が数件の借家人に対して賃料請求をする場合でもいい*11。借家人が賃料を払わない原因は、全員共通の原因であることは実務上多くなく、むしろ個別の原因があることが多いんじゃないかな。まさに、バラバラの訴訟がたまたま一緒に審理されているだけだ*12。そうすると、それぞれの被告が他の共同被告の行動に影響されずに訴訟活動をする*13ことができるべきなんじゃないかな。」


「先生、そんなバラバラの訴訟を一緒に審理することにどういう意味があるんですか?」


沙奈ちゃんの質問は鋭い。


「この理由としては、訴訟経済という利益があるね。共通の期日で、一緒に審理をして1つの判決書で判断するのだから、当事者側及び裁判所側のコストが安くなるということ。例えば、債権者が保証人のいる債権について弁済を求める訴訟があったとして、弁済が争点となっていたとしよう。2つの訴訟を別々にするのであれば、弁済の状況について、債務者との訴訟でも、保証人との訴訟でも別々に証人尋問とかをする必要があるよね。これは無駄じゃないかな。一緒に審理することで、証人尋問が一回になれば、裁判所と当事者の負担が減るよね。じゃあ、これを前提に、司法試験の問題を考えてみよう。」

注:民法の問題に関する部分を知らなくても解答できるように若干冒頭部分を改変している。
1. ABが機械部品売買基本契約を結び、YがBの債務を保証する保証契約を結んでいたところ、XはAに3600万円を貸し、AB間の売買代金債権を譲渡担保に取った。Aが支払をしないので、Xが、保証人Yに対して保証債務支払を請求した訴訟においてYは、Aが売買代金債権をZに二重に譲渡し,Bは,Zに対して,その債務を弁済したと主張した。これに対し,Xは,Yが主張する事実を否認した。また,Xは,AからXへの債権譲渡に関する文書を証拠として提出した。Yは,AからZへの債権譲渡に関する文書及びBからZへの金銭支払を示すBの出金伝票を証拠として提出し, A及びBの各担当社員の証人尋問の申出をした。
裁判所は,X及びYが提出した上記各文書を取り調べ,A及びBの各担当社員を証人として尋問する旨の決定をして,争点整理が終了した。
その後実施されたA及びBの各担当社員に対する証人尋問において,両名は,AのBに対す る債権がX及びZに二重に譲渡された旨を証言し,さらに,Bの担当社員は,BがZにその債 務を弁済した旨をも証言した。
2. 上記証人尋問終了後,Xは,Zに対し,BのZに対する弁済が有効にされたことを前提とする不当利得の返還を求める訴えを提起した。これに対し,Zは,BのZに対する弁済の事実を否認し,Bから金銭の交付を受けたことはないと主張して争った。そこで,Xは,BのZに対する弁済の事実について統一的な判断を得たいとして,裁判所に対し,Yに対する訴訟とZに対する訴訟について,口頭弁論の併合を求めた。
3. K修習生は,XY間の訴訟及びXZ間の訴訟を担当するJ裁判官から,Xが提出した口頭弁論の併合を求める書面を渡されて,以下のような会話をした。
J裁判官: Kさん,Xは,Yに対する訴訟とZに対する訴訟の口頭弁論を併合すれば,両方の訴訟で,Bの弁済の事実について統一的な判断が得られるとしていますが,その理由は分かりますか。
K修習生: 口頭弁論の併合により,事実上,訴訟進行も一様となり,共同訴訟人間でも,いわゆる証拠共通の原則が認められているので,判断の統一をかなり期待することができ るとされているからです。
J裁判官: そうですね。ところで,民事訴訟法第39条が定めている,いわゆる共同訴訟人独立の原則は,どのような考え方を基礎にしているものか分かりますか。
良い機会なので,1共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則が,それぞれどのような考え方に基づくものか整理して報告してください。その上で,2仮にXのYに対する訴訟とZに対する訴訟とを併合して審理したとして,共同訴訟人間の証拠共通の原則が働くとの見解を採った場合に,どのような問題点があるか,また, その問題点についてどのように考えるべきかを検討して報告してください。
〔設問2〕 あなたがK修習生であるとして,J裁判官の前記12の質問に対してどのような報告 をすべきかを述べなさい。なお,解答に当たっては,後記III以下の事実は考慮しないこと。


共同訴訟人間の証拠共通の原則ってなんですか? 共同訴訟人は独立なはずなのに、共通ってどういうことなんですか?」


沙奈ちゃんのツインテールが激しく動く。



「例えば、こういう事例を考えてみてはどうかな。」

事例 債権者である甲は、主債務者乙と、保証人丙に対し貸金返還請求訴訟を起こした。乙も丙も弁済を主張し、乙が領収書を提出した。ところが、丙はこの領収書を証拠として援用するとは言わない。


「もしも、丙自身がこの領収書を(自分の訴訟における)証拠として援用するとの意思を明らかにしたのであれば、甲乙間の訴訟との関係だけではなく、甲丙間の訴訟においても、領収書を用いることができます。しかし、援用をしない場合において、裁判所が、領収書を甲丙間の訴訟において証拠として用いることができないとすれば、1通の判決において、主債務については弁済により消滅したとして請求を棄却し、保証債務については、弁済があったとの証明がないとして請求を認容するという矛盾した事実認定を強いられます。認定事実となる歴史的事実は1つしかない以上、自由かつ合理的に証拠資料を判断して心証を形成できるはず(自由心証主義民事訴訟247条)の裁判官が矛盾した事実認定を強いられるべきではありませんから、援用をしない丙との関係でも、領収書を証拠として使用できると解すべきです*14。この、共同訴訟人の一人が提出した証拠は、援用の有無にかかわらず、他の共同訴訟人についても証拠として裁判所の事実認定の資料とすることができるという原則*15を、共同訴訟人間の証拠共通といい、確立した判例・通説です*16。」


志保ちゃんがすらすらと答える。


判例、通説が証拠共通を認める背景には、せっかく訴訟経済のために併合審理を可能としたんだから、統一的な事実認定を可能とすることでその効用を高めようという発想があるんじゃないかな*17。問題は、本件において、口頭弁論を併合してしまうと何が起こるかだね。」


「本件で、弁論を併合すると、通常共同訴訟訴訟になる、つまり、共同訴訟人間の証拠共通が働くってことですよね。あ、そうすると、例えば、『Zに弁済した』というBの従業員の証言も、Zの関係で証拠として使えることになってしまいます。」


律子ちゃんが、1つ1つ、ステップを追って考えている。


「よく考えているね。このBの従業員の証言はZに取って不利なのは間違いないね。でも、XY間の訴訟の全部の証拠について証拠共通が働くのであれば、その中には不利な証拠だけではなく有利な証拠もあるかもしれない。不利な証拠についてもZの関係で使えるということが、どうして不当といえるのかな。」


ちょっと難しい質問を投げかけてみる。


「訴訟経済と同様に、場合によってはそれ以上に重要な『手続保障』を守るためと思われます。Bの証言の際、Zは反対尋問をする機会を与えられていませんでした。そのような反論の機会もないまま提出された証拠について、証拠共通が認められてそれに基づく事実認定をされるべきではないということでしょうか*18。」


「志保ちゃんのいうとおり、裁判は、私人間の紛争を国家が関与して解決する手続であり、裁判を受ける権利の観点からは、手続保障が守られないといけない、同時に、国民の税金を使って裁判をする以上、訴訟経済も大事だ。民事訴訟の問題を考える上では、そういう異なる価値を考えながら、各事案をどう解決すべきか考えて行くのがいいんじゃないかな。」


「そうすると、本件のように共同訴訟人間の利害対立がある事案では、手続保障のため、Zに証拠調べに関与する機会が与えられていなければ、Zの援用がない限り、Zに対する証拠としては使えない、つまり、証拠共通は適用されないと考えるべきだということですね*19!」


沙奈ちゃんのツインテールが踊る。


「そういう見解もあるけど、証拠共通を認めないと、自由心証主義との関係で不合理な結果を生む可能性がある*20、もう少し具体的に言うと、Yとの関係では、Bは弁済したが、Zとの関係ではBは弁済していないという事実認定を裁判官が強いられる可能性があることに留意が必要だね。」


「これ、まさに『こちらを立てればあちらが立たず』じゃないですか。解決方法はないんでしょうか?」


律子ちゃんが、頭を抱える。


民事訴訟法152条2項は、『裁判所は、当事者を異にする事件について口頭弁論の併合を命じた場合において、その前に尋問をした証人について、尋問の機会がなかった当事者が尋問の申出をしたときは、その尋問をしなければならない。』としていますので、ZがBの証人尋問を申し出た時には、再度尋問をすることによって、弊害を除去できるのではないでしょうか。」


志保ちゃんが1つの解決策を提示する。


「そうだね。民事訴訟法と理論は、過去の実務経験を踏まえて、色々な事態に対応できるように精緻化が進んでいるよ。また、出金伝票等の書証については、民事訴訟法152条2項では対応できないけど、併合後に信用性を争うこともできるし、Bが作ったのであれば再尋問の中で、どういう趣旨の証拠か等を確認できるよね。そのような弊害がどうしても除去できそうもなければ、そもそも併合をしない(「できる」(民事訴訟法152条1項))、併合を命じた後であれば、口頭弁論の分離(民事訴訟法152条1項)をすることで、2つの訴訟で別々に争ってもらうしかないということではないかな。」



 キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪ キンコンカンコ〜ン♪



「じゃあ、チャイムも鳴った事だし、また来週!」


教室の外に出てドアを閉めると、ホッと一息つく。初めての授業の緊張が、今になって出て来たらしく、身体がガチガチになっている。



バタバタになりながらも、一つの事をやり遂げたという達成感と共に、法学科研究室に戻った。



3.高名だが年配の法学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違っている。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違いない。*21


伝説は、「その者蒼き衣を纏いて金色の野に降りたつべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を清浄の地に導かん。」と伝えている。金色の旧版の基礎の上に降り立った、蒼きの衣を纏うJK第2版は、新堂説との絆を結び、「新堂説でよいのではなかろうか」と読者を導く*22




 法学科研究室。狭い研究室なのに、本がうずたかく積まれていて、いっそう狭く感じる。でも、僕一人だけなので、十分な広さだ。


トントンとノックの音がする。


「どうぞ、入って。」



「失礼します。」そういって、志保ちゃんが入って来た。



「あれ、今日はどうしたの?」


「今日はお願いがあって参りました。私の姉が作った部活の、『みんそ部』は、今年の春の卒業生が卒業したことで、部員がいなくなってしまって、休部状態になりました。顧問をされていた法学の先生も、退官されてしまって。私は、もともと、あまり、みんそ部の活動には興味を持っていなかったんです。でも、今日の先生の講義では、『眠素』といわれる民事訴訟法の講義なのに、全然眠くなりませんでした。原理原則や対立する価値といったツールを使って民事訴訟法を具体的に解き明かしていく講義を拝聴して、もう一度『みんそ部』を再興したいと思ったんです。先生、顧問になって頂けませんか。」


「それはいいけど、みんそ部って何をするの?」


民事訴訟の模擬裁判が主要な活動内容です。後は法律相談をしたり、小学校や中学校に法教育活動に行くこともあります。スローガンは『社会の隅々まで法の光を届ける』でした。」


「面白そうだけど、部員は、志保ちゃん一人なのかな。」


「えっと…」うつむく志保ちゃん。



「志保ちゃん!」急にドアが開いて、ショートカットの女の子が研究室に突入する。



「さっき、志保ちゃんに、突然『みんそ部に入って』と言われて、最初は良くわからなかったけど、でも、やっぱり、私も志保ちゃんみたいに、法律ができるようになりたい。だから、私もみんそ部に入る!」律子がまくしたてる。


「今の所二人ですが、仮入部期間終了までにもう少し増やすつもりです。」志保ちゃんが胸を張って僕の質問に答える。


「よし、分かった。君たちの役に立つ仕事をできるなら、それは嬉しいよ。みんそ部の顧問に就任しよう!」


「「ありがとうございます!」」



「いつも両手にJKを」。こうして、いつも両手にいる女子高生のお役に立てるよう仕事をする、奇妙な学園生活が始まった。高名だが年配の法学者の例の発言は「僕」にとっては正しいようで、どうやら飢え死にをせずに人に感謝される人生を送れそうである。

「民訴ガール」とは、司法試験民事訴訟法過去問を小説形式で解説するプロジェクトです。
難解な民事訴訟を、気楽に、ウェブ小説でも読む感覚で勉強できればと思っております。
第1話の原型は1年くらい前には既にできていたのですが、その後長期に渡り寝かせておりました。
しかし、もうすぐ今年の司法試験でもありますので、なんとかしなければと、GWを使って執筆いたします*23
「これはオリジナル作品ではなくて、『巻頭言 成仏』の二次創作だろう」って? えっと、そういわれると反論の余地はございません。
毎日1本を更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します。

*1:最近の大島義則「合憲限定解釈のハイブリッド」がオススメである。「受験新報」平成26年6月号

*2:本人が司法試験対策のためには読み込む必要がないと言っていたという情報もある。

*3:公式設定では流石に近未来を考えております。

*4:http://www.houterasu.or.jp/cont/100180471.pdf参照

*5:http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-aeef.html参照

*6:http://ci.nii.ac.jp/naid/40007223080参照

*7:伊藤眞「民事訴訟法」第4版(以下「伊藤」と略する)610頁

*8:以下の例は、藤田広美「講義 民事訴訟」第3版(以下「講義」)440頁参照

*9:例えば、連帯債務者への支払い請求や、数人に対する同一物の所有権確認

*10:例えば、同一事故に基づき複数の被害者が損害賠償を請求する場合や、債権者が主債務者と保証人を共同被告とする場合

*11:その他の例としては、数通の手形の各振出人への手形金請求、同種の売買契約に基づく数人の買主に対する売買代金請求

*12:重点講義下366頁参照

*13:「それぞれの原告が他の共同原告の行動に影響されずに訴訟活動をする」という場合もあることに注意

*14:伊藤611〜612頁、講義441頁

*15:伊藤611頁

*16:5/2修正いたしました。ありがとうございます。

*17:講義441頁参照

*18:手続保障に対する配慮をもって証拠共通の許容性を基礎付ける見解については、講義442頁参照

*19:伊藤612頁

*20:伊藤612頁

*21:5/1 誤記を修正しました。ありがとうございます。

*22:読者の皆様、「20XX年になってもなぜ未だ2版なのか」という疑問はとりあえず忘れてください。設定では、一流法律事務所において、潤沢な研究資金の提供を受けながら、元気に民事訴訟法の研究と司法改革の理念の唱導を続けられております。

*23:というか、今の生活スタイルだと、正月休みとかGWとかしか、執筆の時間が取れないのが申し訳ないです..。

環境ガール22パートB 「評価」は永遠の課題〜平成25年第2問

魔法少女まどか☆マギカ 佐倉杏子 (1/8スケール PVC製塗装済み完成品)

魔法少女まどか☆マギカ 佐倉杏子 (1/8スケール PVC製塗装済み完成品)




注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


完結を期に、法学ガールまとめを更新しましたので、ご参照下さい。




「う〜ん…、あれ?」なんか変な感じがする。「え、え?」状況が良くわからない。自分の身体が何か柔らかいものの上に乗ってる??


「先輩、気づいたんですね。よかった。」振り向いたのは、さくらちゃん。まだサンタの帽子をかぶっている。


「いったい、どうなっているの?」


「先輩が突然倒れちゃったから、心配で。あの部屋に残す訳にもいかないですから、私がかついで来たんですよ。」


「ありがとう、本当にごめん。あの時とはちょうど反対だね。」そういいながら、さくらちゃんの背中から下りる。


そこは、風力発電所が予定されていたこともある、僕たちの町の近くの丘だった。辺りは真っ暗で、湾の対岸の光が明るく輝いている。


風力発電所が沖合になってよかったですね。環境影響評価制度のお陰ですかね。」


「現行の環境影響評価制度では、環境に優しくなるような微調整はできても、陸上風力発電所を建築するかどうかといった判断の段階でのアセスメントはまだ導入されていないから、陸上から洋上に変えて場所も大きく移動するような変更を促す効果は弱いね。むしろ、洋上風力発電の買い取り価格が上昇することが決まって、採算が取れるという判断があったんだろうね。」


「環境影響評価制度って、まだまだ不十分なんですね。」


「環境影響評価制度について、もう一度、一緒に検討してみようか。」

環境影響評価について,以下の設問に答えよ。
〔設問1〕
A県は,同県B市に3000メートルの滑走路を持つ本件空港を設置する事業(環境影響評価 法の第一種事業に当たる。)を計画し,2003年,B市内のC岳の北側陸上案を採用すること を決めた。A県は,2005年,本件空港設置事業について環境影響評価法に基づく環境影響評価手続を開始した。この環境影響評価手続の中では,C岳の北側陸上案しか対象とされず,複数案は検討されていなかった。本件空港予定地周辺の海域には種々の希少なさんご礁が形成されて いた。
2008年,A県は,本件空港の許可権者である国土交通大臣宛てに環境影響評価書(以下「本 件評価書」という。)を送付し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付して意見を求 めた。国土交通大臣は,環境大臣の意見の内容を勘案した上でA県に対して,本件評価書についての環境保全の見地からの意見を書面により述べた。その後,A県は,本件評価書について補正 を行い,国土交通大臣に対し,補正後の環境影響評価書(以下「本件補正書」という。)を送付 し,国土交通大臣は,環境大臣宛てにその写しを送付した。A県は,環境影響評価書を作成した 旨その他の事項を公告するとともに,本件評価書等を所定の期間,縦覧に供した。
国土交通大臣の本件評価書についての環境保全の見地からの意見の中では,本件事業実施区域への降雨及び流入水が海域に浸出する場合の水質及び水量並びにそれによるさんご礁への影響に ついて把握し,その結果を評価書に記載することが求められていたが,本件補正書の中では答え られていない。
その後,A県は,本件空港の設置の許可の申請をし,2009年,国土交通大臣は,本件空港 の設置を許可する旨の処分を行った。
これに対し,本件空港予定地の敷地の一部の土地を所有するDは,A県が実施した環境影響評価手続に問題があったとして許可の取消訴訟を提起したいと考えている。Dはどのような主張をすることが考えられるか。
〔設問2〕
複数案の検討に関して,2011年に改正された環境影響評価法及びその後に改正された「基本的事項」(環境省告示)(【資料1】参照)ではどのように扱われているか。その趣旨はどこに あるか。
〔設問3〕
【資料2】は,2008年に制定された生物多様性基本法の規定である。
(1) 2011年の環境影響評価法の改正によって導入された仕組みは,生物多様性基本法第25条とどのような関係にあるか。
(2) 生物多様性基本法が想定する環境影響評価の仕組みは,環境基本法においてどのように位置付けることができるか。
【資料1】 環境影響評価法第3条の2第3項,第3条の7第2項,第11条第4項,第12条第2項及び第38条の2第2項の規定による主務大臣が定めるべき指針並びに同法第4条第9項の規定による主務大 臣及び国土交通大臣が定めるべき基準に関する基本的事項(環境庁告示第87号(平成9年12月1 2日)。最終改正:平成24年4月2日環境省告示第63号)(抜粋)
第一 計画段階配慮事項等選定指針に関する基本的事項
一 一般的事項

(1) 第一種事業に係る計画段階配慮事項の選定並びに調査,予測及び評価は,法第3条の2第3項の規定に基づき,計画段階配慮事項等選定指針の定めるところにより行われるものである。

(2) 計画段階配慮事項の範囲は,別表(略)に掲げる環境要素の区分及び影響要因の区分に従うものとする。

(3) 計画段階配慮事項の検討に当たっては,第一種事業に係る位置・規模又は建造物等の構造・配置に関する適切な複数案(以下「位置等に関する複数案」という。)を設定することを基本とし,位置等に関する複数案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする。
(4) 計画段階配慮事項の調査,予測及び評価は,設定された複数案及び選定された計画段階配慮事項(以下「選定事項」という。)ごとに行うものとする。(以下略)
【資料2】 生物多様性基本法(平成20年6月6日法律第58号)(抜粋)
(事業計画の立案の段階等での生物の多様性に係る環境影響評価の推進)
第25条 国は,生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っており,一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であることから,生物の多様性に影響を及ぼす事業の実施に先立 つ早い段階での配慮が重要であることにかんがみ,生物の多様性に影響を及ぼすおそれのある事業 を行う事業者等が,その事業に関する計画の立案の段階からその事業の実施までの段階において, その事業に係る生物の多様性に及ぼす影響の調査,予測又は評価を行い,その結果に基づき,その 事業に係る生物の多様性の保全について適正に配慮することを推進するため,事業の特性を踏まえ つつ,必要な措置を講ずるものとする。


「取消し訴訟の中で、環境影響評価手続に問題があったという主張をするんですか。」


「そうみたいだね。その場合に原告がどう主張するかが問われている。どう考えればいいのかな。」


「『この環境影響評価手続の中では,C岳の北側陸上案しか対象とされず,複数案は検討されていなかった。』とか、なんか怪しくないですか。」


「いい視点だね。こういう、問題文にある『怪しい』記述をきっかけに、基礎知識を使って論じて行くのは、いい論じ方だよ。」


「環境影響評価手続における複数案の必要性については、確か、明文規定がないと聞いています*1。」


「そうだね、そうすると、明文規定はなく、手続上の瑕疵にはあたらないと結論づけていい訳?」


「えっと、14条1項7号ロが『環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)』としいて、これは代替案がある場合にはその検討状況も含むと解されています*2。この点は評価書でも再検討すべきとされています(21条1項柱書の「準備書の記載事項」参照。)。そうすると、実質的に複数案検討が要請されており、少なくとも代替案が存在しないことが明白以外には、これを怠ったことは手続的瑕疵というべきです*3。」



「3条の2第1項は?」


「先輩、ほむら先生みたいなこと言わないでください。同項は『一又は二以上の当該事業の実施が想定される区域』としており、実質的に、代替案検討の義務付けと言われます*4。でも、これは平成23年改正で入ったもので、問題文の時期の後ですよね。」


「よく問題文を読み込んでいるね*5問題文に時間の記載があったら注意が必要だよ。」



「次の瑕疵の候補は『国土交通大臣の本件評価書についての環境保全の見地からの意見の中では,本件事業実施区域への降雨及び流入水が海域に浸出する場合の水質及び水量並びにそれによるさんご礁への影響に ついて把握し,その結果を評価書に記載することが求められていたが,本件補正書の中では答えられていない。』ですかね。」


「評価書に対する許可権者の意見(24条)に対し、補正書での回答をしないことは、手続的瑕疵になるのだろうか。」


「確か、25条で『再検討』はしなければいけないけれど、この意見に基づき対応を求めるのは行政指導に過ぎず*6、その部分について事業者が補正を要しないならそれでよいのであって、後は横断条項(33条)に基づき許可権者が判断するんじゃないですかね。」


「結論は両様あり得るから、きちんと理由をつける事が必要だよね。25条1項の『当該事項の修正を必要とすると認めるとき』という文言に即して論じてはどうかな。」


「事業者の義務を規定しているから、『認める』の主語は事業者ですよね。要するに事業者が『修正が必要であると判断する場合』ってことではないですか。つまり、事業者が不要だと思えば直さなくていい、ってことですよね。」


「これが裁判例の議論だね*7。でも、この結論は絶対ではなくて、許認可権限者が『環境保全の見地から』補正が必要として述べた意見であり、これを無視するというのでは、環境影響評価を左右する重要な環境情報が収集されていない重大な手続瑕疵だという議論もあり得ないではないよ。」


「理由付けが大事なんですね。あとは、手続的瑕疵ですから、最高裁判所は、聴聞手続の瑕疵が結果に影響を及ぼす可能性がある場合にのみ、処分の違法をもたらすとしていますが*8、本件は、複数案を検討しておらず、複数案を検討すれば、こちらの方が良いということになって結果に影響を及ぼす可能性があるので、これに準じて考えるとしても違法であることに問題はありません。これで終わりでしょうか。」


「そもそも訴訟では環境評価そのものを争っているのではなくて、設置許可処分を争っているんじゃないかな。」


「あ、そうか。設置許可処分に環境評価の『違法』がどう承継されるかということを考えないといけないんですね。」



「原告からすれば、国土交通大臣が許可をするに当たっては、環境保全に適正な配慮をした審査を行わなければならない(33条1項)ことから、この配慮義務違反の違法があったと論じるんだと思います。」


「じゃあ、被告からすれば?」


「えっと、あ、裁量です。裁量があると言います。」


「そうだね。環境保全に適正な配慮をした審査を実施すべきところ、国土交通大臣が代替案の検討のない違法な評価書を看過し、そのまま処分を出してしまったことにつき、裁量の逸脱濫用があるという議論をしないとだめだね。」


「はい。」


「じゃあ、第2問に移ろうか。」


「これは、先ほどの改正点ですね。実質的に複数案を義務付けたんですよね。」


「この点については、『法的に厳密な議論をすれば、改正後もなお複数案の検討が義務付けられている訳ではない』という議論もあるんだけど*9。」


「どうしてですか?」


「ここは、色々な考えがあり得るところだけど、告示一(3)に『位置等に関する複数案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする』とあるのはヒントになるね。」


「そうか、理由を明らかにすれば、複数案を設定しなくていいんですね。」


「もちろん、告示レベルの話だから、告示の有無にかかわらず法律が複数案検討を義務付けていると解することはできるけど、この点に気づいてフォローする必要があるよね。」

「そうだったんですね。資料があればきちんと読み込まないといけないんですね。」


「資料はヒントの宝庫だからね。ところで、この改正の趣旨は何かな?」


「確か、平成23年改正で、環境影響評価の目的が合理的な意思決定へとシフトしたという話を聞いた事があります。」


「そのとおり、計画段階のような早い段階で複数案を検討することによって、合理的な意思決定という環境影響評価の目的に資することだね。」


「最後の問題は簡単ですよ。だって、資料に『計画の立案の段階から』とあるんですから。」


「そうだね。その意味は?」


「つまり、生物多様性基本法25条は、環境影響評価法より未然防止ないし予防的な観点から踏み込んだ記載をしていて、『そもそも陸上型風力発電所を建設するのか』という実施の決定段階についても射程を拡げているんです*10。」


「そう、実質的に戦略的環境影響評価を指向しているね*11。ただ、その意味で、異なっているという点は重要だけれども、改正の時期にも気をつけて。」


「あ、生物多様性基本法は平成20年に規定されました。」


「そう、だから、配慮書制度自体は不完全ではあるけど、生物多様性基本法のこの規定は、平成23年改正で配慮書制度が入るきっかけになっているよね。」


「なるほど、後は、環境基本法との関係ですか。」


「そうだね。この仕組みはどのように位置づけられるのだろうか。」


「たしか、環境基本法20条が『事業の実施に当たり』としている以上、戦略的環境影響評価を指向する生物多様性基本法25条はこれを超えていると評価できるのではないでしょうか。ただ、環境基本法19条の環境配慮義務の具体化として、環境基本法20条とは別に生物多様性基本法25条が規定されたと整理すれば明快です*12。」


「もちろん、これは1つの整理であって、生物多様性基本法25条は、あくまでも環境基本法20条のレベルでの早期のアセスメントを求めているにすぎないとの見解もあり得るから、これは絶対的見解ではないけど*13、全体的に、さくらちゃん、法解釈論も政策論もよくできているね。大学の学問に正解がなくて苦しんでいた頃からは見違えるようだよ。」



「うふふ、ご『評価』頂きうれしいです。私も今年予備試験受かったんですよ*14。」


「僕たちが同時に受かるなんて、びっくりしたよ。合格者が350人を超えたからかな。」


「そういえば、私、まだ、先輩から合格祝いもらってませんよ。」


「何が欲しいの。」


「先輩が欲しいです。」真剣な目で見つめるさくらちゃん。


「だめだよ。」答えは1つだ。


「ど、どうしてですか。先輩の私に対する評価は、かなめ先輩やほむら先生よりも低いってことですか。」泣きそうな顔をするさくらちゃん。


「僕の、さくらちゃんへの気持ちは、『合格祝い』なんていうような軽いものじゃないからね。15年越しの約束、今、果たさせてもらうよ。」


子どもの頃以来、15年ぶりにさくらちゃんを抱き寄せた僕を、夜景の光が照らしていた。

まとめ
ということで、パラレルワールドエンディングでした。パートAとパートBは独立しておりますので、それぞれ違う世界としてお楽しみ下さい。これで、環境法ガールは終わりです。ご愛読、ありがとうございました!

*1:北村343頁参照

*2:北村320頁

*3:「本法は『複数案』の検討について法律上は義務付けておらず、『基本的事項』でそれを実質的には要請する規定をおいている。法律の明文ではっきりと義務付けるべきであったといえよう」という大塚274頁、「代替案が存在しないことが明白であるなら別であるが、そうでない限り検討は義務的と解すべきである」とする北村320頁参照。ただし、「改正前の本法では、複数案の検討は準備書及び評価書の作成にあたって法的な義務付けはなされておらず、ただ、事業者も環境負荷をできる限り回避、低減するよう勤めなければならないと言う努力義務はある(3条)と考えられた」とするBasic109頁参照

*4:北村315頁、なお、後述参照

*5:「問題文がいつの時点の事件かを明確にしていることを無視して,2011年改正後の環境影響評価法の適用を前提として答案を作成しているものが散見された。重大な誤りである。」との採点実感参照

*6:北村322頁

*7:東京高判平成24年10月26日訟月59巻6号1607頁、なお、25条1項の解釈については原審である東京地判平成23年6月9日訟月59巻6号1482頁が「法は、当該事業について免許等を行う者は、必要に応じ、評価書について環境の保全の見地からの意見を書面により述べることができると規定し(24条)、事業者は、同条の「意見が述べられたときはこれを勘案し、評価書の記載事項に検討を加え、当該事項の修正を必要とすると認めるとき」に、各号の修正区分に応じた措置を採ることとすると規定する(25条1項)。この規定からも明らかなとおり、免許等を行う者の意見(24条意見)が述べられた場合、事業者は、その意見を勘案し、まず評価書の記載事項に検討を加え当該事項の修正を必要とするかどうかを判断すること、修正が必要であると判断する場合に評価法に規定する措置を講じることを要求しているのであって、評価法に規定する措置を講じるかどうかの判断は事業者に委ねられている。評価法は、24条意見について、その指摘に従ってそれに沿う措置を必ず講じるよう求めているものではなく、例えば免許等を行う者が環境保全措置等として必要と考えて指摘した事項であっても、事業者による検討の結果、その指摘に係る事項の修正を必要と考えないという判断を許容するものであるから、免許等を行う者が考えるところの評価書の不備・不足等が修正・補完されていないからといって、事業者が24条意見に対応したといえないということになるわけではない(すなわち、24条意見に対応したといえるか否かは、評価書の不備・不足等が修正・補完されているか否かという観点からみなければならないことになるわけではない。)。」とする。

*8:塩野I320頁

*9:Basic109頁

*10:北村318頁

*11:北村318頁

*12:北村316、317頁

*13:「同法第19条については,それが生物多様性基本法第25条とともに戦略的環境アセスメントについて規定しているとする答案と,同法第25条はあくまでも環境基本法第20条のレベルでの早期のアセスメントを求めているにすぎないとする答案とに分かれたが,この点については両方の考え方が認められる。」という採点実感参照

*14:予備試験の最終合格者の最低年齢が19歳だといったツッコミはしないでください。あくまでもフィクションです。

環境ガール最終話パートA〜「宴の後」は裁判所? 平成25年第1問


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.「宴の後」
「…なさいよ。…起きなさいよ。」女の人の声。体が揺すられる。


頭がガンガンする。何が起こっているんだろう?


「本当に手間かけるんだから、バケツの水でもぶっかけてやろうかしら。」


あわてて起きると、そこには、まだサンタ服のかなめさんがいた。



「う〜ん、おはよう。どうしたの?」大きなあくびをする。


「もう、心配したんだから…。」突然泣き出すかなめさん。



「ど、どうしたの。」



突然研究室で倒れて…。しょうがないから、タクシーでうちまで連れて来たのよ…。



「そ、そうだったんだ、ごめんね。」そういえば、クリスマスパーティーをやっていて、あるところから記憶がないなぁ…



「もう、シャンパンをあんなにがぶ飲みするなんて、信じられない!」


「ご、ごめんなさい…。」


「もう午前11時よ。必修の授業終わっちゃうわね。」そういえば、今日の午前中は必修の授業があったはずだ。


「授業さぼらさせちゃって、ごめんね。」


「午後からは授業ないでしょ。『責任』取って、どっかに連れて行ってもらいますからね。」


「どっかって、どこに?」


「もう、それくらい、自分で考えられないの?」


「そんな事言われても…。じゃあ、あそこに行こうか?」ロースクール生が連れ立って行くといえば、あそこしかない


「ちょっと、マフラーを忘れているわよ!」そうだった。昨日はかなめさんの手編みのマフラーをプレゼントしてもらっていたんだ。


2.裁判傍聴デート!?


「え、ここなの?」


地下鉄の駅を下りると、かなめさんが失望の声を上げる。僕たちが来たのは東京地方裁判所*1だった。


「え、ロースクール生が連れ立って行くところといえば、ここでしょ。」


ムードもへったくれもないじゃない。まったく。」


「なら、別のところにする?」


「別に。ここでいいわ。」


不機嫌なかなめさんと一緒に、玄関ホールの開廷表で環境法関係の事件がないか探したところ、一カ所だけ水質汚濁防止法違反事件というのがあった。早速、法廷に向かう僕たち。

A社は,B県C町の海沿いにD製鉄所を設置して操業をしているが,その岸壁に幾つかの亀裂があり,そこを通して排出水が数か月にわたって海に漏出している事実が,海上保安庁によって確認 された。同庁の分析によれば,D製鉄所に適用されるpH(水素イオン濃度)に係る排水基準値を はるかに超える高アルカリ水であった。D製鉄所は,公有水面を埋め立てて造成した土地に立地し ているが,捜査の結果,原因は,造成の際に用いられた埋立材料であることが判明している。D製鉄所には,場内で発生する汚水の処理をする水処理施設があり,これは水質汚濁防止法の下の特定施設となっている。その設置届出において,A社は,埋立地全体を特定事業場の所在地とし ている。D製鉄所の工場長E及びA社は,「特定施設が設置されている工場である特定事業場から, 排水基準値違反の排出水を,排水口を通じて排水した」として,水質汚濁防止法違反で起訴された。
〔設問1〕
A社及び工場長Eは,以下のように主張している。このような主張に対して,どのような反論 をすることが考えられるかを論ぜよ。
水質汚濁防止法が規制対象としているのは,特定事業場内で発生する排水が特定施設の排水 と合流してパイプの先から排水されたものに限定されるはずである。本件では,特定施設以外の 部分から直接に公共用水域に排水されているのであるから,同法の規制対象外である。したがっ て,水質汚濁防止法第31条第1項第1号及び第34条に該当しないから,A社及び工場長Eは 無罪である。」
〔設問2〕
結局,工場長E及びA社のいずれに対しても,罰金刑が確定した。ところで,A社は,D製鉄 所の場内で発生する産業廃棄物である廃プラスチックを焼却処理するための施設を設置し,B県 知事から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づく中間処 理施設許可を得ている。
(1) A社が,水質汚濁防止法上,有罪とされたことにより,D製鉄所の許可に対して,廃棄物処 理法上,どのような影響があるか。【資料】を参照しつつ説明せよ。
(2) 法律相互の上記の連携措置を,廃棄物処理法はどのような趣旨から設けたのかを説明せよ。
【資 料】
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第4条の6 法第七条第五項第四号ハに規定する政令
で定める法令は,次のとおりとする。
(法律番号は省略)
大気汚染防止法
二 騒音規制法
三 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
水質汚濁防止法
五 悪臭防止法
六 振動規制法
七 特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
ダイオキシン類対策特別措置法
ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
〔設問3〕
大気汚染防止法の下でのばい煙に係る排出基準の遵守が求められる場所は,水質汚濁防止法の 下での排水基準の遵守が求められる場所とどのように異なっているか。その相違及び理由を説明せよ。


「弁護人は、無罪を主張しているね。」



理屈の上からは、無理よ。」一瞬で否定するかなめさん。


「えっと、31条2項、同1項1号、12条1項だから、過失によって*2『排水基準に適合しない排出水を排出し』たんだよね。弁護人のいうとおり、造成の埋め立て材料から汚染物質が漏出しただけで排出といえるかは1つの論点じゃないの?」




「環境法ローヤーなんだから、きちんと条文にもとづき判断しなさい。」機嫌の悪いかなめさん。


「えっと、12条1項は『排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。』って言っているけど…だから?」



「本当鈍い男ね。大気汚染防止法13条1項を見なさい!」


「『ばい煙発生施設において発生するばい煙を大気中に排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は、そのばい煙量又はばい煙濃度が当該ばい煙発生施設の排出口において排出基準に適合しないばい煙を排出してはならない。』だけど、あれ? 大気汚染防止法は『当該ばい煙発生施設』だけど、水質汚濁防止法は、『特定施設』じゃなくて『特定事業場』だなぁ。」


「気づくのが遅いわね。水質汚濁防止法8条1項と大気汚染防止法2条7項は?」


「えっと、排水口は『排出水を排出する場所』で、排出口は『煙突その他の施設の開口部』だ。」


「そのとおりよ。つまり、これは、どういうことを意味しているの?」


「えっと、水質汚濁防止法は特定事業場から排出水が排出されれば、それが特定施設からかどうかや、パイプの先からかとは関係なく、どこでも規制されるけど、大気汚染防止法は、ばい煙発生施設の煙突その他の開口部からの排出だけを規制しているってことかな。」



「そうよ、判例実務は排出や排水口を広く捉えていて、特定施設に起因しない場合でも、排出基準違反罪としているわ*3継続的に事業活動をする以上、その敷地全体から公共用水域のへの排出を規制することが可能だし、汚染者支払原則や未然防止アプローチを取ればこういう広義の規制には合理性がある*4。」


「そうすると、大気汚染防止法でも、汚染者支払原則や未然防止アプローチからは、同じように考えるべきなんじゃないかな」



大気汚染防止法の場合、事業場をドームで覆ってその頂上からの排出の規制を観念することはできるけど、非現実的でしょ*5。」


「今回は、埋立地全体を特定事業場の所在地としているから、やっぱり有罪なのか。」


「そうね、これで有罪が確定するとどうなるのかしら。」


「確か、廃棄物処理法7条5項4号ハ、廃棄物処理法施行令第4条の6第4号により、水質処理法で罰金刑に処せられると、廃棄物処理法の欠格事由だよな。欠格事由になると、確か、許可が取消されるはず…。」


「7条は一般廃棄物*6。産業廃棄物であれば、廃棄物処理法14条5項2号イで欠格事由が定められ、これにあたると、15条の3第1項1号で取消ね。取消の有無のところで、行政に裁量がある?」


「『その許可を取り消さなければならない』とあるから、義務的で、裁量はないのかな。」



「そうね。ここは、悪貨が良貨を駆逐するという逆選択現象に歯止めをかけるために悪質な業者を追放しようと平成12年改正で義務的取消になったわ*7。そもそも、関連する生活環境保全法違反の場合にこれを欠格事由、許可取消し事由とするのは、社会的にコンプライアンスが強く求められる廃棄物処理法に関して、生活環境保全という共通目的を持つ法令の重大な違反者に廃棄物処理に関する業や施設の許可を与えるのは不適当であるという法政策意図がある訳よ。」


「そうすると、ミスで埋め立て材料から汚染物質が出てしまうだけで、同じ会社の全ての工場での廃プラスチック焼却が全部できなくなっちゃうわけか。ちょっとかわいそうじゃないかな。」



「そこは、義務的取消であるが故に硬直的だとして問題視される現象の1つね*8。裁量的取消なら、まあこういう事情ならいいことにしましょうっていう裁量が働く余地があるけど。」


「この問題は、どうやって解決すべきなのかな。」



「立法による改正もあるけれども、現行法を前提とすると、例えば、検察官には起訴裁量があるわ。公訴権濫用とされる場合は限定されている*9けど、こういう『重大な効果がある事』と、悪質な環境法令違反に対して『毅然と対応する必要性』の双方を衡量しながら、過失の重大さや、汚染が生じた理由がA社側の選択によるところが大きいのか、埋め立て業者が真犯人でA社は埋め立て材料確認ミスをした責任はあるけど被害者的立場なのか等を踏まえて、起訴裁量を適正に行使することが期待されているわ。」



「環境刑法も、それを実務で適切に使うのはとても難しいんだね。じゃあ、行こうか。」



裁判が終わった頃には、裁判所の周りは暗くなっている。僕たちは内堀通りを抜けて東京駅に向かう。東京駅前に広がる、イルミネーション。



「素敵ね。」かなめさんが声を上げる。



「これをかなめさんと一緒に見たくてね。寒いでしょ、マフラーに一緒に入るかい。」かなめさんにもらったマフラーの半分をかなめさんにも巻いてあげる。




デートのはずが、裁判所に連れて行かれたから、ショックだったわ。でも、最後はデートらしくなったわね。」



大きな木の根元で自然に足が止まる。



「昨日は答えを言う前に、倒れちゃってごめんね。僕の答えは」そういうと、かなめさんを抱きしめる。


かなめさんだよ。愛してる。」耳元でささやく。


「もう、もったいぶらないでよ。私は、ずっと前から」その言葉が終わる前に、僕は、環境法ガールの口を塞いだ


まとめ
 ということで、環境法ガール最終編パートAが終わりました。あれ、平成25年第2問は? 

*1:A社本社が東京にあるんです、きっと。一応僕たちが住んでいるのはA県の予定ですし。

*2:問題文では、過失か故意かは問題とはなっていないことに留意。

*3:名古屋高判昭和49年8月28日、名古屋高判昭和50年10月20日判時808号111頁、大阪高判昭和54年8月28日判タ399号150頁参照

*4:北村368頁

*5:北村398頁

*6:「設問に「産業廃棄物」と明記されているにもかかわらず,一般廃棄物処理施設と誤認して関係条文を提示している答案が散見された」という採点実感参照

*7:北村488頁

*8:北村489頁の「生活環境保全法違反」の事例、252頁参照

*9:最決昭和59年12月17日刑集34巻7号672頁参照

環境法ガール21〜 誰を選ぶの!?クリスマスパーティーその2 平成18年第2問設問2


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.波乱のクリスマスパーティー
「じゃあ、クリスマスパーティーに移りましょう。」ほむら先生のかけ声で、僕たちは、パーティーの準備をはじめる。


そうはいっても、所詮は文系の研究室。一部の理系の研究室のように、「アルコールランプでイカを炙り、ビーカーでアルコールを飲む」という訳にはいかず、市販品をベースに簡単な細工をするだけだ。器用にカラメルを「ノリ」にして、市販のプチシューでシュークリームタワーを築いているのはさくらちゃん。ロールケーキをブッシュドノエル化しようと、チョコレークリームを塗るのに苦戦しているかなめさん。あ、僕は、市販品のクリスマスチキンを買って持って来ただけなのですが。


「お茶が入りましたよ。今日はちょっと甘目のお菓子ばっかりだから、ヌワラエリヤがいいんじゃないかと思って。本当は、後数ヶ月待つとクオリティシーズンのが出るんだけどね。」ほむら先生が爽やかな花の香りのするカップを持ってくる。


「『お茶のシャンパン』もいいですけど、クリスマスパーティーなら本物のシャンパンでしょう。」そういってシャンパンを取り出すさくらちゃん。

乾杯をして、美味しいクリスマス料理に舌鼓をうちながら、宴もたけなわになった頃、ほむら先生が立ち上がる。


「じゃあ、プレゼント交換を始めましょうか。」


ほむら先生に、プレゼントを準備するように言われていた。4つのプレゼントに番号が振られ、1〜4の数字を書き込んだ籤を引く。



「まずは、私ね。1番!」高らかに叫ぶほむら先生。


「残念です。先輩にあげたかったのに…」怨嗟の声を上げるさくらちゃん。


「あら、可愛いぬいぐるみじゃない。早速研究室に飾らせてもらうわ。」本棚の上の特等席に飾るほむら先生。

「これ、昔さくらちゃんが好きだったぬいぐるみと同じものだよね。夜はぬいぐるみを抱かないと眠れなかったんだよね。」思わずつぶやく。


「もう、先輩ったら、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいよ。」さくらちゃんは笑いながら顔を赤らめる。


「あの、勝手に盛り上がっているんだったら、私が引くわよ。3番。」かなめさんはちょっとすねた感じだ。


「まあまあ、かなめさんも落ち着いて」ほむら先生が仲介に入る。


「あっ、『憲法ガール』」かなめさんの顔がほころぶ。


「誰にあげても喜んでもらえるプレゼントって考えて、これを最初に思いついたんだ。」


「べ、別に誰が選んだから嬉しいなんてことじゃなくて、ただ、『憲法ガール』が読みたかったってだけなんだからねっ。」聞かれてもいないのに、そういうことを言い出すかなめさん。


「欲しかったな、先輩からのプレゼント。」ぼそっと、寂しそうにつぶやくさくらちゃん。


「まあ、あとプレゼントは2つあるから大丈夫よ。特に私のプレゼントはスペシャルよ。最後は2人同時に引きましょう。」慰めるほむら先生。


さくらちゃんと一緒に、箱に手を入れる。一瞬さくらちゃんの暖かい手に触れてドキっとしていると、さくらちゃんが、その隙にくじを拾い上げる。


「私は2番!」叫ぶさくらちゃん。


「僕は4番だね。」


「べ、別に誰がもらってもいいんだけど。」そんなことを言いながら、4番のプレゼントを渡すかなめさん。開けてみると、手編みのマフラーが出て来た。


「暖かそうだね。ありがとう。」


「寒いんだから、きちんと毎日巻きなさいよ。風邪でも移されたらたまったもんじゃないんだから。」顔を赤らめるかなめさん。


「さくらちゃんには『スペシャルプレゼント』よ。」そういって、封筒を渡すほむら先生。


「まさかほむら先生のことだから、私製手形*1とかじゃないですよね…」警戒を隠さないさくらちゃん。


「そんな訳ないでしょ。」微笑むほむら先生。


「え、試験問題?」さくらちゃんが素っ頓狂な声を上げる。そうか、さくらちゃんは、ほむら先生のプレゼントを経験した事がないのか*2

Aは,B県C町にある自己所有の山林を造成して,ゴルフ場を開発する計画を立てた。Dらは,隣接するB県E市に居住する住民であり,古くから桜や紅葉の名所として名高い上記計画地域にハイキングに訪れ,森林浴を楽しんできた。また,上記計画地域には,絶滅が危ぐされている野生生物が生息している。Dらは何とかこの開発を阻止したいと考えている。この場合について,以下の設問に答えよ。
設問の事例を踏まえて,このような紛争を未然に防止するためにどのような法政策的仕組みが考えられるか。環境法の理念といわれている環境権と関連させて論ぜよ。

「当選したさくらちゃんには、きちんと答えて頂きましょう。」ほむら先生が促す。


「桜や紅葉の名所であり、絶滅が危ぐされている野生生物が生息しているという環境利益を、事業の意思決定に反映させるための法制度が必要です。これは、環境影響評価制度です。」ため息をつきながら答えるさくらちゃん。


「きちんと制度が出ているわね。じゃあ、現行の環境影響評価制度で、Dらの利益は守られるのかしら。」


「現行法でも計画段階、及び事業段階において環境影響評価をすることができ、例えば、野生動物の生息域を外した場所にゴルフ場を作るだとか、野生動物の生態に影響が出にくいような事業内容にするといったことが期待されます。しかし、現行法では、戦略的環境影響評価がないため、そもそも、ゴルフ場を作るべきかといった検討の段階での環境影響評価は義務付けられていません。さらに、現行法では、環境影響評価法の対象は、13の開発事業に限られており、ゴルフ場は入っていません*3。」かなめさんがすらすらと述べる。


「そういえば、地方自治体によっては環境影響評価条例で、ゴルフ場のような環境影響評価法の対象とされていない種類の事業や比較的小規模な事業について環境アセスメントを義務付けているって聞いたな。」


「そうね。環境影響評価は1つの方法だけど、現実の問題に即して現行法を『法の目的を達成しているのか』といった観点から批判的に検討するのは大事ね。ところで、環境権との関係ではどうかしら。」


「環境権は、憲法25条や13条を根拠に主張されており、環境基本法3条や19条の規定はこれを踏まえたものといわれます。もっとも、環境権を私権と見て、これを訴訟で実現するのは難しいものの、環境権の手続的側面を強調し、従来環境権として主張されてきたものを、純粋私人の環境公益形成参加権と、公的市民の環境公益実現請求権と捉え直す考えも提唱されています *4。」かなめさんが難しいことをさらっという。


「景観利益について国立市大学どおりマンション事件判決がいったとおり、何が公益として保護すべき環境上の利益なのかは、社会的に決められるべきだけれども、その決定に参加することができないといけない*5。そして、一度それが保護・尊重されるべき環境公益だということが法律や条例のような形で決まったら、その実現を求めることができる。こういう関係だね。」


「先輩の整理だと、市民が持つ具体的権利は、環境公益の形成と実現に参画する公法上の権利(行政手続権)になりそうですね*6。」


「そうすると、このような意味での環境権は、環境影響評価制度にどのように実現されているのかな。」


環境影響評価法においては、市民の意見を聞く手続が入っています。配慮書段階での努力義務(3条の7参照)、方法書の段階での8条意見、準備書の段階での18条意見があり、これらを勘案して準備書に検討を加え、評価書を作成します。評価書には、市民の意見をどのように受け止めてどのように対応したかの見解も求められます(21条2項4号)。」


「そういう意味で、参加的側面も現行法に現れているんですね。」


「でも、不足している部分としては、いわゆるスクリーニング手続に住民参加の機会がないことが挙げられるね*7。」


「じゃあ、他の政策はどうかな。」


「あとは、自然公園法に基づく自然公園の指定をするとか、自然環境保全法に基づく自然環境保全地区*8に指定するとかでしょうか。」さくらちゃんが頭をひねる。


「野生動物の種類にもよりますが、種の保存法に基づく生息地等保護区*9に指定することも考えられるかな。」

「こういうゾーニングは大事ね。保護の必要性の高さに応じて、いわばランキングをつけて、そのランキングを反映して規制の濃淡をつけるのよ*10。」


「環境管理団体指定制度(自然公園法49条以下、75条)や風景地保護協定制度(43条以下、74条)等、現在の自然公園法では、NPO環境保護団体の参加を促進しています。新たな環境管理手法として注目ができます*11。」


「他には、行政や環境保護団体がAと協定を結んだり、場合によってはナショナルトラスト運動ではないですが、その土地を買い上げてしまうことも考えられます。あとは、環境管理計画や、環境団体訴訟等ですかね。」


「よい答えが出たわね。環境権との関係、特に各個別法がどのように市民の参加を促進しているのかという観点から、個別法を見直すのが大事よ。今日はもう遅くなったから、お開きにしましょうか。」


ほむら先生の言葉に時計を見ると、そろそろ終電だ。


「そうですよ。私たちには明日があるんですから、ね。」と同意をもとめるかなめさん。


「えっと、明日って?」


「今日はほむら先生に予定を入れられちゃったんだから、消去法でいうと、明日よね。」かなめさんが真剣な目で僕の方を見ながら迫ってくる。


「あら、明日から冬休みにかけては、本格的に研究計画を作ってもらうわよ。大変な作業だから、私の研究室に泊まって行っていいわよ。酔っぱらっているなら、今日からでも大丈夫よ。」ウィンクをするほむら先生。



「だめです。先輩は、明日は私とデートするんです!」さくらちゃんが二人を押しのける。



「「「で、結局誰を選ぶの?」」」三人の声がハモる。



ゾーニングして3人全員と、って訳にはいかないんだろうなぁ…。

まとめ
ということで、環境法ガールはやっと平成18年まで遡りきりました。後は平成25年ですね。

*1:手形・小切手法を勉強するには、友だちが、『新年会続きでお金ないから、仕送りが届く月末までちょっと1万円貸してくれ』と依頼した際に、私製手形を作るのが一番良い方法です。なお、相手がお金を返さず、手形訴訟まで起こせれば最高です。(私製手形による手形訴訟が却下された事案として東京地判平成15年10月17日判タ1134号280頁参照。なお、これについての解説であるhttp://www.tkclex.ne.jp/commentary/pdf_data/2004-003.pdf最高裁第2小法廷とするが間違い。)

*2:参照

*3:北村312参照

*4:北村53頁

*5:「環境公益は、参画なしには決定できないものである。」北村53頁参照

*6:北村54頁参照

*7:北村343頁

*8:Aの土地であり、原生自然環境保全地区に指定できないことに注意、14条1項、BASIC327頁参照

*9:より実効性があるのは37条の管理地区

*10:北村568頁

*11:北村566〜568頁、Basic322頁

環境法ガール20 誰を選ぶの!?クリスマスパーティーその1 平成18年第2問設問1

環境六法〈平成25年版〉

環境六法〈平成25年版〉



注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。



1.突然のクリスマスパーティー
「じゃあ、来週のゼミはクリスマスパーティーをやるから。」ゼミの終わりに突然宣言するほむら先生。


「ら、来週って、クリスマスイブじゃないですか! 私たちは予定があります。」そういって、僕の方を見るかなめさん。


「あれ、予定なんかあったっけ?」とつぶやくと、


クリスマスイブなのに、私を誘う予定がないなんて、言わせないんだから!」と顔を真っ赤にするかなめさん。


「あらあら、積極的なこと。でも、本人の意思を尊重すべきじゃないかしら。そもそも、毎回ゼミは延長して夜までやっているんだから、来週もゼミを延長して夜までやる、だけど場所は私の研究室ってことでいいわね! プレゼント交換するから一人一つプレゼントを持って来てね!」ほむら先生が押し切る。




そしてその一週間後、僕とかなめさんは、ほむら先生の研究室に来ていた。



「今日はクリスマスだから、サンタの衣装を4着用意したわ。」クリスマスツリーやリースがきれいに飾り付けられたほむら先生の研究室に入ると、サンタのコスプレをしたほむら先生が微笑んでいた。


「コスプレは先生だけで結構です。」と拒絶するかなめさん。


「まあ、こういうのはクリスマスらしい雰囲気作りの小道具だからね。一人だけ『日常』の格好じゃあ、『非日常』を楽しめないわよ。」なんか良くわからない論理で説得するほむら先生。


「あれ、4着って?」四人目は誰だろう?


「とりあえず、私たちは奥で着替えてくるから。」ほむら先生は、服を一着僕に渡すとかなめさんを連れて、奥に去って行った。


一応着替え終わって、ソファーに座ると、奥に続く扉が空いて、見覚えのある桜色の髪の毛が見える。


「あれ、さくらちゃん?」


「私だって、先輩とのクリスマスパーティーに出る資格があると思うんです!」胸のところを除いてちょっとぶかぶかのミニスカサンタ衣装を着るさくらちゃん。


「研究室でやる以上、『放課後のティータイム』に来たいといわれちゃあ、断る訳にはいかないわよね。」ほむら先生もやってくる。


「ど、どうしてこんなにスカートが短いんですか!!」奥から恥ずかしそうに出てくるかなめさん。


「人生において、サービス精神ってのも大事だと思わない?」良くわからない理由をいうほむら先生。


「先輩はこっちの方がお好きですよね。」こういいながら、隣の席に座ってわざとらしく脚を組むさくらちゃん。


「ちょっと、さくらさん、やり過ぎよ。ほら、目のやり場に困ってるじゃないですか。」かなめさんが注意する。


「今日の前半はゼミだから、やり過ぎないように注意してね。」後半ならいいのか


そんな心の中の突っ込みとは裏腹に、今日の検討課題が出される。


2.環境破壊を防ぐ訴訟?

Aは,B県C町にある自己所有の山林を造成して,ゴルフ場を開発する計画を立てた。Dらは,隣接するB県E市に居住する住民であり,古くから桜や紅葉の名所として名高い上記計画地域にハイキングに訪れ,森林浴を楽しんできた。また,上記計画地域には,絶滅が危ぐされている野生生物が生息している。Dらは何とかこの開発を阻止したいと考えている。この場合について,以下の設問に答えよ。
Dらは,Aに対してどのような訴訟を提起することが考えられるか。裁判例の動向とその理由を踏まえつつ論ぜよ。


「Aに対する訴訟としては、人格権ないし環境権に基づく差止訴訟が考えられます。」さくらちゃんが切り出す。



「人格権に基づく訴訟は認められそうなの?」ほむら先生が質問する。



「森林浴を楽しんでいたとか、野生動物の絶滅が危惧されているというだけで、これを人格権とはいいにくいから、無理なんじゃないかな。」


「平穏生活権等、人格権を拡大して、一般通常人を基準として不快感等の精神的苦痛を味わうだけではなく、平穏な生活を侵害していると評価される場合には、人格権の一種としての平穏生活権の侵害として差止が認められるという議論がありますが、開発が隣県に住むDの平穏な生活を侵害しているとはいえません。」かなめさんも同調する。


「そうすると、環境権ということになるんでしょうか。Dは環境を享受し、かつこれを支配する権利を持っていると主張し、これをAが侵害しているという構成です。」さくらちゃんがアイディアを出す。


「でも、そもそもの環境権は、自分の生命健康に影響する前に、生活環境や自然環境に影響する段階で差止を認めさせるという前倒しの効果を狙ったものではないかな*1。そうすると、自分の生命健康に影響しない隣県のDに環境権は認められないのではないかな。」突っ込んでみる。


「そこで、『自然享有権』が出てくる訳です。環境権は公害被害を受けた住民を救済する権利として構成されていたから、権利主体性があるとされる住民の範囲が限定的でした。でも、そういう地域限定的な環境権では限界があるということで、『誰もが持つ権利』として、将来世代からの信託に基づき、現代世代は自然を保護し継承する責務を有し、自然破壊を排除する権利を有するという考えがあります*2。」


「かなめさんのアイディアはいいけど、実務ではどうかしら。」


「確か、個人を基調とする司法システムの下で解釈論としてこういう権利を創出するのは難しく、その実現のためには立法措置が必要と解されている、ってことですよね*3。」


「あとは、景観利益はどうですか。」さくらちゃんがアイディアを出す。


「2つのハードルがあります。1つ目は、そもそも景観利益について、差止を否定したのではないかという問題です。国立市大学通りマンション事件判決*4差止を否定したと解すれば認められません*5。」かなめさんが否定する。


「確か、ここは、最高裁は否定したとはいえないという議論もあったはずだけど*6。」



「うふふ、この辺りは、判例の読み方が論者によって違っているから、注意が必要ね。また、法律上保護される利益による差止を認めるという立場に立った場合でも、権利による差止よりもハードルが高くなるという議論が一般的なことには留意が必要よ*7。」


「2つ目は、本件は、国立市大学通りマンション事件判決の基準からするとそもそも法的に保護される景観利益がDに認められない可能性が高いことです。同判決は、『良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者』としており、隣県に住んでおり、レクリエーションとしてA所有の山林に訪れるだけのDには、景観利益が認められません。」


「野生動物を訴訟の原告にするってのは、確か認められてなかったんですよね*8。」さくらちゃんもあきらめ気味だ。


「結論として請求が認められないというのは、初歩的な環境法の知識がある学生なら、すぐ推察できるところね*9。この問題は、むしろ、人格権で環境保護のための差止等ができる範囲の狭さから、どうやってこれを拡げようかという過去の環境訴訟実務家の苦労の痕跡をたどるという意味があって、司法試験最初の年にふさわしい問題だったわね。環境法を勉強する時は、結論だけを暗記するのではなくて、その過程とその背後にある事情を知ることが大事ね。結局、民事訴訟では難しい。じゃあどうすればいいか、これが大事な課題よ。それじゃあ、パーティーに移りましょう!」ほむら先生が元気に叫ぶ。

まとめ
やっと平成18年第2問にまで来ました。後編をお楽しみに!

*1:北村49頁参照

*2:北村53頁

*3:北村53頁

*4:最判平成18年3月30日判タ1209号87頁

*5:北村220頁

*6:Basic43頁

*7:Basic398頁参照

*8:北村247頁参照

*9:なお、「『請求は認容されるであろう』などと結論付けた答案がいくつか見られた」という試験委員のコメント参照。

環境ガール19 法と経済学ガール登場!?〜平成18年第1問

法と経済学

法と経済学


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


本講義の内容は約1年前のエイプリルフールにツイッターアカウントで行った「法と経済学たん」のネタを下敷きにしております。質問等を下さったフォロワーの皆様にお礼を申し上げます。


1.環境法の経済学的分析?
「すごい先生が講演に来るのよ。」ほむら先生が興奮気味にまくしたてる。


「どういう方がいらっしゃるんですか。」


「まどか先生といって、私の学部時代の同級生なんだけどね。三年で旧司法試験に受かって、卒業と同時に行政法助教に採用されて、この間までイェール大学で客員研究員をしていて、ちょうどこの夏で留学を終えて戻って来た傑出した才能の持ち主よ。研究テーマは、行政法の経済学的分析。今回は、『環境法の経済的分析』ってテーマで講演してくれるから、楽しみにしてね!」


何日か経ち、講演会の日がやってきた。ツインテールの、一見少女にも見える格好の女性が登壇すると、会場は「え、あの人が講師!?」というひそひそ話でざわつく。


「はじめまして、今日の講師をつとめさせていただきます、まどかです。三年間、アメリカに滞在していました。今日は、法と経済学の考え方の基礎と、環境法への応用についてお話したいと思います。」やっぱり、彼女が噂の先生なのか。


「法と経済学というのは、判例法を含む法制度が、社会にどのような影響を与えるのかを経済学の観点から分析することで、主に政策論について*1の色々な示唆を得ることができるという学問です。例えば、環境を守るためにある規制(規制A)を導入したとしましょう。『規制Aに対して、規制対象者Bがどう反応するでしょうか?』という問題に、皆さんはどう答えますか?」


「あ、言い忘れていたけど、まどか先生はアメリカ流だから、どんどん当てて行くので、積極的に発言してね!」ほむら先生が補足する。


「これまで規制Aに似た規制A’があるのであれば、規制A’に対しBがどう反応してきたかを考えることができます。」すらすら答えるかなめさん。


「規制Aに類似する規制がある場合とない場合があるから、その双方の場合を含む説明をすると『入手できた範囲の事実』に基づき『直感』で判断するという感じになります。これは、我々人類が2000年の間ずっと用いて来た方法です。しかし、経済学の手法を導入することで『科学的』に規制が行動に及す影響を予測することができる、これが法と経済学です。」


「質問で〜す! 経済学って、なんか値段が変わると需要と供給が変わるみたいな話だと思いますが、この方法を使うと、どうして、法規制が行動に及ぼす影響を予測できるんですか?」さくらちゃんが質問する。


「鋭い質問ね。これは、法と経済学の本質であって限界でもある点を示しているわ。法と経済学には色々な前提があるけど、非常に重要なのは、『人は費用と便益に反応し、その費用と便益は金銭評価できる』ということね。例えば、人間は、300円で確率2分の1のくじを引く事ができるなら、あたりが500円*2ならやらないし、あたりが700円ならやる*3という、そういう合理的な人間であることが前提になっているわ。また、ある法政策を取った場合、それによる費用と便益の差が『プラス100億円』とか『マイナス50億円』といった金額で評価できるという大前提があるの。そして、こういう前提があるからこそ、規制に対する規制対象者の反応は価格に対する市場の反応に似ているとして、経済学を導入できるのよ。」


「正直なところ、規制によるメリットとデメリットの差は定性的な場合もあって、定量的に金額算定できるというのはちょっと疑問があります。また、人間は時には不合理な行動もするので、常に合理的だという前提にも疑問があります。」つい、思った事を言ってしまう。



「法と経済学には限界はあるわ。でも、例えば、『物理法則は摩擦のない世界という現実と異なる世界を前提に構築されているから無価値だ』なんていう人はいるかしら。確かに、摩擦を考慮しなければならない場合には、その点に配慮が必要という意味で、常に全ての場面でそのまま適用できる訳ではないわ。でも、そういう限界があるからといって、物理法則が不要な訳ではないわよね。多くの場面では有用性があるわ。法と経済学もこれと同じで、一定のモデルを想定しているから、そのモデルがおかしいという批判をすることは可能だけれど、そういう限界を理解した上で使えば、法政策、特に環境政策を検討する上での有用なツールになると思うのよ。」こういうと、まどか先生はコップの水を飲む。


「今日お話しする環境法との関係で、2つのキーワードを説明するわ。1つは外部不経済(Negative Externality)、もう1つは最安価費用回避者(Cheapest Cost Avoider)ね。例えば、工場が汚染物質をまきちらして生産をしているとしましょう。この場合、汚染物質について一切規制がなかったとすると、工場の生産量はどうやって決まるのかしら。」まどか先生の発音は、流石留学していただけあって奇麗だ。


「例の需要と供給の話で、コストを踏まえて利潤を最大化できるだけの生産をするのではないですか。」かなめさんが答える。


「その『コスト』がポイントね。汚染物質について一切規制がなかったとすると、そのコストは、原材料費や人件費等であって、環境への汚染はコストとして参入されない。コストが『安い』から、たくさん生産がなされ、たくさん市場に供給される事は分かるわよね。市場経済を考えると、この事例では、環境汚染によって周囲の人が被る迷惑という話は取りこぼされている、こういう市場を通さないで他の経済主体に不利に働く影響のことを外部不経済というわ。市場を通さないんだから、市場経済の中で最適な水準に落ち着くことは期待できないわよね。外部不経済を是正して、コストを内部化させるというのは、経済学的にいうと、本来自由であるべきはずの私的経済活動に対して政府が規制をすることができる重要な根拠の1つね。もちろん、損害賠償を払えという規制もあれば、排出基準を守りなさいといった規制もあるわ*4。」


「あれ、取引費用がゼロだったら、規制は不要じゃないのかしら。」ほむら先生が突っ込む。


「これは、これから説明しようとしていたところよ。例えば、ある工場が稼働することで2000万円の利益を得ることができるけど、稼働により汚染された排水が出て、周囲の人に計1000万円の損失を与えることになるとしましょう。そしてその損失は、500万円の浄水設備を導入することで、なくすることができる。この場合、もし、住民に(損失を与えるような)排水を出すなという権利があったらどうなるかしら。」


「それは、工場にとっては、1000万円の賠償を払うよりも、500万円の浄水設備を導入する方が安上がりだから、工場が500万円の費用を負担して浄水設備を導入することになるんじゃないかな*5。」思わずつぶやく。



「そうですね、じゃあ、住民にそんな権利がなかったらどうなりますか。」



「そしたら、住民は1000万円の損失を甘受しなければいけない?」さくらちゃんの頭にはてなマークが飛ぶ。


「私が住民だったら、みんなでお金を出し合って、500万円の浄水設備を買って、これを工場に取り付けてもらいます。」かなめさんが答える。


「正解。1000万円の損失を被るくらいなら、500万円払って浄水設備を買った方が合理的よね*6。だから、結局、住民に排水を出すなという権利があろうがなかろうが、浄水設備が設置されて、社会全体の福利が増大することには変わりない、これがコースの定理といわれる考えね。コースの定理があてはまる場面では、私的な交渉だけで十分に社会的に望ましい状態が実現するわ。」


「でも、住民に権利がある場合でも、その権利を実現するのには訴訟等非常に時間とコストがかかる手続が必要ではないですか。住民に権利がない場合には、工場との交渉が必要で、工場は住民との話し合いなんかに時間を取られるよりも、生産に尽力したいんじゃないんですかね。」さくらちゃんが指摘する。



「そう、コースの定理は、取引コストが0という空想上の世界を想定したもので、現実には取引コストは必ず発生するわ。だから、取引コストが非常に低いといえる場面では、コースの定理を応用できるけど、取引コストが高い場合には、『誰にどう権利を割り当てても私的な交渉で最適な状態になる』とはいえず、誰にどう権利を割り当てるか、法的ルールをどうするかがとても重要になってくるのよ。」


「そうすると、どういう法的ルールにするのがいいのかな。」思わずつぶやく。


「色々な方法があるけれども、重要な方法の1つは最安価費用回避者ね。例えば、リサイクルを推進する場合に、消費者にいくらリサイクルしてくださいねといっても、製品がリサイクルしにくい設計だったら消費者の努力に限界があるわ。そもそも、製品のデザイン等を決めることができるのは製造業者等だから、製造業者は、リサイクルに責任を負わせられた場合には、リサイクルをしやすい製品を作ることで、この責任を軽減させることができる。その意味で、最も安い費用でコストを低減させることができるのは製造業者よね。それなら、消費者に責任を負わせるよりも、製造業者に責任を負わせるのが、社会の福利の最大化につながるわよね*7。」



2.具体的検討
「このような法と経済学の議論を使えば、廃棄物処理法の平成12年改正も説明がつくわ。」こういうと、まどか先生は、司法試験の過去問を取り出した。

産業廃棄物に関して,「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)は,1970年の制定時より,排出事業者処理責任を基本的方針としている。ところが,この方針の下で,具体的な 法政策は,変遷している。[資料]は,2000年に改正される以前の廃棄物処理法の,不法投棄に対して原状回復を求める措置命令規定及びその関係条文である。
これを読んだ上で,以下の設問に答えよ。
〔設 問〕
1. [資料]に掲げた措置命令規定に対応する現在の廃棄物処理法の関係規定は,基本的に,2000年改正によるものであるが,それ以前の規定とは,どのように異なっているか。排出事 業者から適法な委託を受けた産業廃棄物収集運搬許可業者が,委託に係る産業廃棄物を不法投棄した場合を念頭において論ぜよ。
2. 2000年改正は,排出事業者処理責任の観点からは,どのように評価することができるか。改正に至る背景に触れつつ論ぜよ。
[資 料]2000年改正前の廃棄物処理
(措置命令)
第19条の4第1項 次の各号に掲げる場合において,生活環境の保全上支障が生じ,又は生ず るおそれがあると認められるときは,当該各号に定める者は,必要な限度において,当該処分 を行つた者(......第12条第3項,......の規定に違反する委託により当該処分が行われたとき, ......は,これらの委託をした者を含む。......)に対し,期限を定めて,その支障の除去又は発 生の防止のために必要な措置......を講ずべきことを命ずることができる。
一 (略)
二 産業廃棄物処理基準......に適合しない産業廃棄物の処分が行われた場合 都道府県知事
(...) (事業者の処理)
第12条第3項 事業者は,その産業廃棄物の運搬......を他人に委託する場合には,政令で定め る基準に従い,その運搬については第14条第8項に規定する産業廃棄物収集運搬業者......に, ......委託しなければならない。
(産業廃棄物処理業)
第14条第1項 産業廃棄物......の収集又は運搬を業として行おうとする者は,当該業を行おう とする区域......を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。......
第14条第8項 第1項の許可を受けた者......は,産業廃棄物処理基準に従い,産業廃棄物の収 集若しくは運搬......を行わなければならない。

「改正前後で措置命令についての規定はどう変わっているのかしら。」


「改正前は、無許可業者への委託(旧12条3項等参照)等の場合にのみ排出事業者に対する措置命令ができました(旧19条の4『第12条第3項,......の規定に違反する委託により当該処分が行われたとき』)。そこで、排出事業さは適法委託をすれば廃棄物処理法の責任を免れます*8。これに対し、平成12年改正により排出事業者が適正な対価を負担していない時や、不適正処分を知りまたは知る事ができる場合には、措置命令ができるようになりました*9。汚染者負担原則の観点からすると、不法投棄による直接の汚染者は処理業者ですが、これを排出事業者にまで拡大したものといえます。」かなめさんがまとめる。



「いい説明ね。それ改正はどうして必要となったのかしら。」


「は〜い! 適法な委託さえすれば責任がなくなるところ、『眼の前のゴミをできるだけ安く持って行って欲しい、後のことは知らない』という安かろう、悪かろうで委託者が選択される事が多く、不法投棄や不適正処理の問題が多く生じたからです*10。」元気なさくらちゃん。


「そのとおりね。市場原理だと、安い所に頼むというのはむしろ当然だけど、委託コストが安い業者は、不法投棄等をしていることが多く、不法投棄により外部不経済が生じていた訳。だから、それを内部化しなさいというのは重要な改正の目的ね。」


「そもそも、力関係上、排出事業者が有利であって、排出事業者が不合理な値引きを求めるのに対し、処理業者はこれを拒む事ができず、その結果、採算割れの価格で受注して、不法投棄の温床になっていると聞いた事が*11。」


「もしそれが事実なら、排出事業者には、そのような優越的な地位が認められるところ、適切な費用負担をすることで不法投棄等を回避できるという意味で、最安価費用回避者(Cheapest Cost Avoider)といえるかもしれないわね*12。」


「処理業者が、『値引きをしたら適正処理はできません。定価でお願いします。お宅も、排出事業者責任を問われるのはいやでしょ』といって高い価格で受注しておいて、不法投棄をするというのが一番儲かるんじゃないか*13、そんなことをする処理業者がいるとすると、本当に排出事業者は、最安価費用回避者なのかといった問題もありそうね。」ほむら先生が突っ込む。




情報の非対称性の問題は応用問題として重要だわね。ただ、今日は学生向けの講演だから、この点は、また別の機会にじっくり議論しましょう。」まどか先生が講義を終える。



法と経済学の考えは完全に納得はできないけど、環境法政策を考える上で重要だと再認識した。

まとめ
 ということで、まどか先生に法と経済学の観点から解説していただきました。実は、この問題が非常に簡単だというのが重要な原因なのですが、まあそれならばということで、環境法政策において重要な法と経済学についての「さわり」を説明する回にいたしました。

*1:解釈論についての示唆を得ることもできるが、基本的には物理でいうところの「摩擦0の環境における、ものの動きを方程式にしてみました!」といった話なので、直接そのまま解釈論に持ち込むのはやや難易度が高い。

*2:期待値は250円

*3:350円

*4:環境法の文脈だと北村23頁参照

*5:工場は2000−1000の1000の状態から、浄水設備を導入することで1500になり、500のプラス

*6:住民は−1000が−500になり、500のプラス

*7:大塚「廃棄物減量・リサイクル政策の新展開(4・完)」NBL631号41頁参照

*8:北村501頁

*9:Basic264頁〜265頁

*10:北村501頁

*11:北村501頁

*12:北村501頁。なお、違う文脈だが、銀行が融資者として環境問題に責任を負う制度について、銀行を最安価費用回避者とみなせるとする山田真由美「環境問題における融資者責任と環境管理システム」早稲田法学会誌49巻321頁参照

*13:阿部新「廃棄物の処理責任に関する経済学的研究」http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~a_abe/research/thesis.html参照

環境法ガール18 ぶっつけ本番、試験問題解説会〜平成19年第2問

逐条解説 水質汚濁防止法

逐条解説 水質汚濁防止法


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.ぶっつけ本番、試験問題解説会
「私の論文指導を受ける以上は、TAをやってもらうわ。」とほむら先生に言われて、学部生の行政法と環境法のTAもすることになった。


「職権を濫用して、勝手に論文指導教官になり、TAにまでするとは、公正な競争の阻害です。」という良くわからない理屈で、自分もTAになってしまったかなめさん。

僕たちのTAとしての初仕事は、一学期の環境Iの授業のテスト問題の解説だ。「今年は認証評価の年なんだけど、評価委員は、ローの行政法の試験の解答を1枚1枚読んで『なんでこれが60点なんだ』とか聞くんだから、本当やってらんないわ」*1と、認証評価対応に忙しいほむら先生は、「まあ、二人ならこれまでの勉強の成果を出してくれれば大丈夫」と言って試験問題を押し付けると、風のように去って行った。


懐かしい、学部の教室。


ロースクールは少人数制だから、こういう大きな教室は、久しぶりだね。」


環境政策といった面を含めると、学部時代の方が環境法に興味を持っていた人が多かったかもしれないわね。」


ガラガラと扉が開いて、学生が集まってくる。


「先〜輩〜♪」さくらちゃんが手を振ってやってきて、一番前の席に座る。「うふふ、特等席です。」微笑むさくらちゃん。


「さくらちゃん、こういう場所で会えるのもなんか新鮮だね。」さくらちゃんの笑顔についつい口角が緩んでしまう。


「それでは、解説を始めます。かなめ先生が急用なので、私たちロースクール生のティーチングアシスタントが解説をします。」僕たちを無視して淡々と解説を始めるかなめさん

A県に居住するBは,長年,B所有の敷地内にある井戸水を飲料水として使用してきたところ,中毒症状を発症した。Bが平成19年4月に調査したところ,井戸水からは環境基準を上回る高濃度のカドミウム及び鉛が検出された。また,B宅の隣にはCが開設した工場があり,Cは,製造工程中で使用したカドミウム及び鉛を含んだ水を,長年にわたり同工場敷地の地下に浸透させてきたことが明らかとなった。Dは,平成19年1月にCから同工場を譲り受けるとともに,A 県知事に対して直ちに所要の届出をし,平成19年6月から同工場を稼働する予定である。
この場合について,以下の設問に答えよ。
平成19年5月の時点で,A県知事はどのような対応をすることができるかについて論ぜよ。
平成19年5月の時点で,Bは,C及びDに対してどのような訴訟上の請求をすることがで きるかについて論ぜよ。

2.知事の対応
「まず、知事の対応ですが、カドミウム及び鉛という規制物質によって、地下水及び土地が汚染されていることから、水濁法と土対法の2つの法律に基づく対応が考えられます。」法律を挙げるかなめさん。


「先輩、質問です! どうして二つの法律が問題になるんですか。1つの法律で包括的に規制してしまえば分かりやすいと思うんですが。」さくらちゃんが元気に質問する。


「そうしたら、この質問は先輩に答えてもらいましょう。」笑顔で振ってくるかなめさん。目の奥が笑ってない気がするのは気のせいだろうか。



「えっと、なんでだっけかな…。」とっさに答えが出ない。



土壌汚染と地下水汚染が併存して起こる事が多く、地下水汚染は拡散しやすいから、日本の土壌汚染対策は、水濁法に地下水汚染対策を規定することからはじまりました*2。でも、特定施設の設置者に対する行為規制という水濁法の規制方法では、施設からの流出以外の多様な原因がある土壌汚染を包括的に規制することが困難です*3。そこで、土対法が制定されました。もっとも、土壌汚染と直接関係のない水質汚濁の問題もありますから、水濁法の規制も存続しています。」


「そういう経緯だったんですね。」納得顔のさくらちゃん。



「本件において、具体的には、水濁法上は、Dに対し、改善命令を出して(水濁法13条の2)施設の構造、使用方法、汚水処理方法等を改善させること、そして、井戸にカドミウムや鉛が浸透し『現に人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがある』として、地下水の水質の浄化に係る措置命令(水濁法14条の3)が考えられます*4。土対法では、『土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがある』『土地』として調査命令を行い(土対法5条)、汚染拡散防止のための地域指定(土対法6条)をして、土地の所有者であるDに汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示し、命じることができます(土対法7条1項、4項)。」


「費用を払ったDは、汚染の原因者であるCに対し、求償を請求できます(土対法8条)。」これは昔やったな。


3.中毒被害者による対応
「Cに対する関係で、Bは何ができそうですか。」かなめさんは、生徒に振る。


「はい、損害賠償を請求します!」元気に答えるさくらちゃん。


「そうね、請求原因は何だったっけ?」また、僕に振る。


不法行為がメインになります。また、水濁法19条には無過失責任もあります。」いい加減、いい所を見せないと。



「無過失責任ね。これは、本件で使えるの?」



「えっと、有害物質の汚水又は廃液に含まれた状態での地下への浸透による被害だから、使えるんだよね?」



「ここは、何を損害として立てるかに関係するところよね、さくらちゃん。」ここでさくらちゃんに振るかなめさん。


「あ、19条は『人の生命又は身体を害したとき』とあります。」


「そう、だから、Bの所有する井戸等を汚染したという財産権侵害を損害として立てる場合は不法行為責任のみ、これに対し、Bが中毒になって身体が侵害されたという場合には水濁法19条が使えるという関係になっているのよ。」ぐうの音も出ない。



「次は、確か、受忍限度の問題ですね。」さくらちゃんが指摘する。


「そのとおりよ。『環境基準を上回る高濃度のカドミウム及び鉛が検出された』ということから、環境基準の意味が問題となるけど、これは環境法を学んでいる人なら、みんな知っている重要な問題よね。もし、環境基準を、国道43号線事件のように捉えれば、受忍限度を超えることをより容易に立証できるけど、環境基本法の本来の意味と捉えれば、単に環境基準を上回っただけでは必ずしも受忍限度を超えたとはいえず、『高濃度』がどの位なのかは1つの問題になるわ。でも、結局、隣家で中毒が起こっていることから、健康や身体に対する被害が現に生じているので、受忍限度を超えることは言えそうね。」


「後は、因果関係ですか。」


「因果関係については、本来は、製造工程中で使用したカドミウム及び鉛を含んだ水を,長年にわたり同工場敷地の地下に浸透させてきたことだけではなく、その浸透した水がB宅の井戸まで到達し、この飲料水が原因となって、中毒になったというところまで立証が必要よね。でも、裁判例は、Bが相当程度の立証をすれば、Cが反証しなければならない等、立証責任軽減の方向に向かっているわ。」


「後は、人身損害については、無過失、そして、財産上の損害については、製造工程でカドミウムや鉛を用いるのであれば、それが第三者を害さないよう適正な処理をしないといけないのにそれを怠った等として過失を主張立証することになります。」


「よくできているわね。後は、Dとの関係ではどうすればいいのかしら。」


「これから工場を操業しようとしているので差止が問題となります。」


「差止には、工場の操業そのものを差し止める方法と、『環境基準を超えるカドミウムや鉛を排出・浸透させてはならない』といった抽象的差止の2つがあるわね。」



「差止の場合にはより高度の違法性が必要という考え方もありますが、仮にそのような考えを取ったとしても、今回のように健康被害が現実に生じていることから、適切な処理等をしないままの工場の稼働再開に高度な違法が認められると思います。」


「うふふ、さくらさんは、この授業のTAができるかもしれないわね。後は、通常の訴訟だと、争っているうちに工場が稼働されてしまうから、差止の仮処分にするという位かしらね。」


「お褒め頂き、ありがとうございます。」さくらちゃんは嬉しそうだ。


解説会が終わった後、かなめさんが、僕を体育館の裏に連れて行く。


「私に無断でほむら先生の論文指導を受けるなんて、私のことを何だと思ってるのよ。しかも、さくらさんに対して、色目使ってるなんて、節操ないわ。これ位で許してもらえるだけありがたいと思いなさい。全部基本的な問題なんだから、勉強不足よ。」よくわからないことを言って、怒濤のように去って行くかなめさん。


このあと滅茶苦茶勉強したのは言うまでもない。

まとめ
 ということで、かなめさん不機嫌編でした。

*1:情報筋によると、おすすめの方法は、記述式とマーク式問題のハイブリッド式にして、(1点刻みの)マーク式の点数+10点刻みの論述式の点数の合計を成績とすることであり、こうすると、適当に採点しても、端数(1の位)の点数が出るので、なんとなく真面目に採点した感が出るらしい。

*2:実務環境法講義112頁

*3:実務環境法講義113頁

*4:なお、実務において14条の3に基づく措置命令が出されていないという点について、実務環境法講義113頁参照