- 作者: 刀禰俊雄,北野実
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
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- 保険を途中で解約した場合に、思ったほどお金が帰ってこない理由
もし、保険料を「次の1年間に保険金支払い(保険事故)が発生するリスク」に基づいて毎年改定したらどうなるだろうか? 最初は非常に安い保険料だが、その後どんどん高くなる。たとえば20歳の時には月2000円、30歳で3000円、40歳で1万円、50歳で3万円等である。場合によっては、50位の、一番「死ぬと困る」「保険が大切」な時期に、保険料が高すぎて、保険料を払えなくなり、保険の役割を果たせない場合がある。
そこで、保険料は一般に平準保険料式で計算される。たとえば、月5000円で20歳から50歳までずっとといった要領である。こうすれば、先ほどのような弊害はない。この場合、当初は、保険料は上記手法よりもずっと高くなる。しかし、後半には、保険料は、上記手法で必要な額よりずっと安くなる。そして、保険期間前半においては、その年の保険金支払いに充当した額の残額を積み立てて、保険期間後半に備えるのである。たとえば、20歳の時なら約3000円、30歳の時なら約2000円である。このように、将来の保険金支払いに備えて準備される額は責任準備金といわれる。
ここで、保険契約を途中で解約したらどうなるだろう。少なくとも、帰って来るべき額は、これまで払い込んだ額と同額ではない。20で加入し、30歳でやめた場合、20の時に払った5000円のうち、2000円は、21歳の時の死亡リスクヘッジに使われている。
「じゃあ、責任準備金をそのまま渡せばいいじゃないか」という人もいるかもしれない。要するに、20歳のときに払った5000円から2000円を引いた3000円を渡せという話だ。
しかし、こんな簡単にはいかない。それは、保険会社の特性による。保険会社は、最初に大量の人件費をかけて、保険加入を促進する。このために必要な額は付加保険料というが、この付加保険料は、最初の方に非常に高額かかり、その後どんどん減っていく。この理由は簡単である。保険は、大数の法則により成り立っている。コインを2個投げて裏表がどれくらいでるかは、期待値1とはいえ、2の確率も25%あり、0の確率も25%である。かなり不明なのである。ところが、コインを1万個、1億個投げれば、ほとんどの場合、裏が5000個、5000万個に近い個数でるだろう。これが大数の法則であり、これにより、リスクを計算して、ヘッジするのだ。そこで、かなり多くの加入者が必要なのであり、それを集めるために莫大な人件費が初期にかかるのだ。
さて、この人件費(付加保険料)を、そのまま保険料に転嫁すると、1年目の保険料がものすごく高くなってしまう。そこで、ほとんどの場合チルメル式保険料積立金といわれる方法をとる。要するに、この1年目の付加保険料を、1年目の保険料でまかなうのではなく、10年等、長期間の保険料からまかなうのである。
すると、たとえば、1年目に責任準備金が月3000円あったとしても、これが責任準備金として残ったのは、「翌年以降の保険料にこの時払うべき付加保険料を繰り越した」からである。もしも、1年目で解約する人が続出し、それにもかかわらず責任準備金全額を返還すれば、残存加入者がこの負担をこうむることになる。これはだめだろう。
こういうことで、責任準備金から相当額が引かれた額しか返ってこない。そのために、解約すると、お金がほとんど戻らないのである。
- 掛け捨てって本当?
よく、満期までつつがなく過ごすと、保険金もおりないし、満期一時金もないといった保険について「掛け捨て」といわれる。しかし、これは用語法としておかしいだろう。たとえば、上記保険(20〜50歳まで、月5000円支払い、死亡により1億円支払い)契約において、50歳までつつがなく生きたとしよう。
この場合、確かにこの生存者は、お金をもらえないが、
この30年間については、万一の保険事故がおきると保険金が支払われるという保障が続けられたのであり、決して保険料が掛け捨てに終わったのではない。
「もしも危険が顕在化したら、この危険による損失を相殺してくれる権利」を保険料で得ることができたのだ。
まとめ
保険を法的視点以外から見てみると、逆に法律の規定の合理性がわかったりして面白い。これは、保険法以外でも同じだろう。