アホヲタ元法学部生の日常

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被告人月宮あゆは無罪!〜鯛焼き問題の刑法的考察(Kanon法学の形成と発展V)

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1 鯛焼き問題

 あゆは、屋台の鯛焼き屋Aから鯛焼き5個を買おうと考え、その旨Aに注文したところ、Aは注文通り鯛焼き5個をあゆに手渡した。これを受けて、あゆは代金を支払うおうとしたものの、財布をどこかに忘れてきたことに気が付いた。ところが、あゆは空腹から、何としても鯛焼きを食べたいと思い、鯛焼きを持ったまま、Aの隙を突いてその場から逃走した。
 途中、あゆは祐一に出会い、「うぐぅ。話はあとっ。追われてるんだよ。とにかく走って。」と告げたので、祐一はあゆの身に何か危険が迫っていると思い、隠れ場を探して、付近のファストフード店Bに入った。あゆと祐一は、無断でB店内の座席に座って、何ら注文せず、食事客であるかのように装い、これによりAの追跡を免れた。
 B店から出た後、あゆは上の事情を祐一に打ち明けた。あゆが「後でちゃんとお金払うもんっ。」と告げると、祐一は納得し、あゆが「ボクからのおすそわけだよっ。」と差し出た鯛焼きを受け取り、あゆと祐一はその場で鯛焼きを食べてしまった。この場合におけるあゆ及び祐一の罪責について論ぜよ。*1

2 この問題の考え方 
 この事例について、「名無しだよもん」様から、どう考えるべきか相談を受けた。
(1)あゆの罪責
 ア たいやきについて
  たいやきを手に入れて代金を払わないことが社会常識に鑑みて「悪い」ことであることは明らかである。民法上も債務不履行責任を追及される(民法412条以下)。問題は、刑法的にどんな犯罪が成立するかである。
 (ア)1項詐欺罪の成否
  まず、「Aが『はいどうぞ』と鯛焼きをあゆに交付した」という側面をとらえて考える。この場合、Aが持っていた鯛焼きがあゆの下に移転しているので、もともと占有していたものについて成立する犯罪である横領罪は成立しない(「刑法の犯罪カタログ」参照)。また、Aはあゆに(売買契約に基づいて)自己の意思にもとづいて交付しているので、窃盗・強盗罪は成立しない(「刑法の犯罪カタログ」参照)。自己の(瑕疵ある)意思による交付がある場合に問題となるのは、詐欺罪(246条1項)である*2
 詐欺は騙して(欺罔行為)、相手を誤解させ(錯誤に陥れ)、相手に物を渡す等の処分をさせ(財産的処分行為)、これにより物を手に入れる(財物入手)ことが必要である。そして、詐欺というのは故意犯である*3。つまり、「わざと」騙ないといけない。すると、金もないのに「鯛焼き下さい」とあゆがAに言った時点では、あゆは「財布にお金が入っていると信じていた」のだから、わざと*4金がある振りをして鯛焼きを注文したわけではない。そこで、故意がなく、詐欺罪は成立しない*5

 (イ)横領罪の成否
 また、「お金がないことに気付いたあゆが鯛焼きをもって逃走し、鯛焼きを食べた」という側面を捉えると、鯛焼きはあゆが持っている場合であるので、詐欺罪や窃盗罪ではなく、横領罪を考えることになる(「刑法の犯罪カタログ」参照)。しかし、横領(252条)というのは、例えば「AがBから預かったBのパソコンを中古ショップに売り払ってしまった」というように、「他人の物(252条)」を勝手に売る、消費する等して横領*6しなければいけない。しかし、売買契約が成立したことによって、鯛焼きはあゆの物になる(民法176条)ので、「自分の物」である*7。そこで、横領罪は成立しない*8
 なお、落ちている財布をネコババした場合等に成立する遺失物横領罪(254条)の成立も考えられなくもないが、遺失物とは「占有者の意思にもとづかずにその占有を離れまたはまだ何人の占有にも属していないもの」であり、占有者(A)の意思にもとづいて占有を離れている(=Aがあゆに手渡している)本件においては成立しないだろう。

 (ウ) 2項詐欺罪の成否
  更に、「お金がないことに気付いたあゆが鯛焼きをもって逃走し、債務を事実上支払わなくて済むようになった」という側面を捉えると、鯛焼き屋を騙して「代金債務免除を受けるという利益」を手に入れたという別の詐欺(2項詐欺、246条2項)の成立も考えれないわけではないが、あゆは逃げただけで、債務免除をするよう特段の働きかけをしたわけではない*9上、鯛焼き屋も債務を免除したわけではない*10ので、2項詐欺罪も成立しない


 なんと、あゆは無罪なのである。


 これは、一見不当な結論にも見える。

 しかし、判例を探しても、こんな事例は出てこなかった。その理由は、ソフマップの店頭で美少女ゲームを買うような日常の買い物を思い出しても明らかな通り、普通は客が代金を出してから店が商品を渡すからである。法はこのように、売主に「代金と引き換えでなきゃ商品を渡さない」と言う権利を認めている(同時履行の抗弁権、民法533条)。お互いに約束の物が相手の手元に準備されていることを確かめ合った上で、それらを受け渡しする、という当事者間の公平を実現する制度があるのである。

 どんな商売でも、売主にとって最悪の事態とは、買主に商品を持っていかれた揚げ句に代金が貰えないこと(支払債務の不履行)である。そうならないために、売主は確実に代金を受け取れるようにしたい、すなわち債務の履行を確保したいし、また確保するよう努力すべきである。この点、銀行で住宅ローンを組んで不動産を買う(銀行に対し貸金の支払債務を負う)ような場合には、連帯保証人を付ける、土地建物を抵当に出す等、嫌というほど履行確保手段がとられることになるが、ソフマップの店員が客に同じことを言っていたら客はゲーマーズに逃げてしまう。そんな場合の売主にとっての最初で最後の履行確保手段が、「代金と引き換えでないと品物は渡さないよ」と言う権利、すなわち同時履行の抗弁権なのである。

 では、鯛焼き屋Aはどうしたか。ゲーム本編では具体的には書かれなかったが、ラジオドラマでは詳しい描写がなされた。

あゆ「これはね、ボクが商店街を歩いていた時のこと。ふと気付くと、とてもおいしそうな匂いが漂ってきたんだ」
祐一「うんうん、それで?」
あゆ「ボクがその匂いに誘われるままに近づいていくと、そこはたい焼き屋さんだった。あまりにおいしそうだったから、ボクはたくさん注文したんだ」
祐一「はぁ…」
あゆ「そして、ボクの手にたくさんのたい焼きが乗せられたそのとき、お店のおじさんがこう言うんだ。
『500円です』
って…。財布を忘れたボクは思わず走って逃げた! だけど…おじさんが追っかけて来るんだよ〜!」*11

 そう、鯛焼き屋Aは、債務の履行確保に最も重要な権利である同時履行の抗弁権をあえて放棄し、代金支払を受ける前に鯛焼きをあゆの手に乗せてしまっている。鯛焼き屋Aは、鯛焼きを手渡す前に「500円です」と言って、あゆが支払えるのを確認してはじめて鯛焼きを渡すべきだったのである*12。自分から権利を放棄して、特にそうすべき理由もなく代金後払いとしたんだから、そのことによる債務不履行の危険は鯛焼き屋Aが甘受すべきであろう。

 この意味で、あゆが無罪という結論もあながち不当とは言えないだろう。

 イ ファーストフード店に入ったことについて
  あゆは、ファーストフード店Bという建物に無断で入っている。建造物侵入罪(130条)というのは、管理権者の許可*13を得ずに勝手に*14建造物に入った場合に成立する。
 まず、ファーストフード店は「誰でも入っていい場所」なので、管理者(たぶん店長)は承諾しているのではないか問題があるが、盗撮目的で公衆トイレに入るのが建造物侵入罪なように、あくまでも「ファーストフード店で料理を購入・飲食する」目的での立ち入りが許されるのみであり、追っ手をまくための立ち入りは許可されていないだろう。特に、販売部分ではなく、レストラン部分への立ち入りである点からは、許可がないと言ってよい。
 もっとも、たった1,2分、誰でも入れるファーストフード店にいただけのことが建造物侵入罪として処罰するだけの価値があるかという問題がある。侵入時に誰も注意しなかったことからも分かるように、この程度の極短時間の立ち入りは軽微であり、店の迷惑の度合いは低い。こんな軽微な立ち入りに刑法が入って処罰する必要はない。こう考えれば、可罰的違法性がなく、無罪となるだろう。


(2)祐一の罪責
 ア ファーストフード店に入ったことについて
  まず、建造物侵入罪の点はあゆと同じであり、あゆが無罪というのであれば、同様に無罪となるだろう。
 次に、あゆを逃がした点について「犯人の逮捕を免れさせた」として犯人隠避罪(101条)が成立するか。この点は、「犯人*15」の意味が問題となるが、判例は「真犯人」はもちろんあたるが、真犯人ではなくともその嫌疑を受けて捜査の対象となっている者も入ると考えている。ところが、あゆは前述のように単なる債務不履行者であって「真犯人」ではない。また、追っかけてきたのが鯛焼き屋のおじさんだけで、警察ではないことからも明らかなように、捜査の対象にはなっていない*16。すると、この点についても祐一は無罪だろう。


 イ 鯛焼きを食べたことについて
  仮に鯛焼きが「盗品等」(256条)、つまり窃盗罪・詐欺罪等の財産犯によって取得されたものといえれば、これをただで譲り受けた祐一に、盗品等無償譲受罪が成立する。犯罪が成立してしまえば、後でお金を払うと思っても盗品等であることに変わりはない。
 もっとも、前述のように、鯛焼きの取得は何ら犯罪を構成しないので「盗品等」とはいえない。そこで、この点においても祐一は不可罰である。


3 解答例

第1 あゆの罪責
1 あゆは、Aから引渡しを受けた鯛焼きを持って、Aに代金を支払わないまま逃走している。この行為について、あゆはどのような罪責を負うか。
(1) 窃盗罪について
 まず、窃盗罪(刑法235条)の成否を検討する。
 窃盗罪の実行行為である「窃取」とは、占有者(鯛焼き屋A)の意思に反してそのものの占有を自己又は第三者(この場合はあゆの下)に移転することを意味する。ところが、Aがあゆに鯛焼きを手渡したのは、売買契約に基づき、Aの意思により引き渡したものであり、意思に反する引渡しではない。
 よって、あゆが引渡しによって鯛焼きの占有を取得したことは「窃取」に当たらず、窃盗罪は成立しない。
(2) 1項詐欺罪について
 次に、あゆが鯛焼きという財物をAから取得した行為が1項詐欺罪(246条1項)に当らないか。
 あゆが「人を欺いて財物を交付」させたと言えるためには、あゆが欺罔行為(≒人を騙す行為)を行い、それに基づいてA(鯛焼き屋)が錯誤に陥り、財産的処分行為を行い、その結果財産権(この場合はたいやき)があゆの下に移転されなければならない。
 本件においては、あゆが鯛焼きを注文した際、あゆは代金支払の意思があり、かつ能力があると信じていた。そこで、あゆの行為は欺罔行為に当らず、1項詐欺罪は成立しない。
(3) 2項詐欺罪について
 また、あゆが鯛焼きの交付を受けた後、逃走して債務を免れたという財産上の利益を得たことは、2項詐欺罪(246条2項)に当らないか。
 この点、あゆは単に逃走しただけで、これは欺罔行為とは到底言えないし、Aは別に錯誤に陥ったり、債務を免除してやろうと思ったわけではなく、錯誤も処分行為もない。そこで、2項詐欺罪は成立しない。
(4) さらに、あゆが鯛焼きの交付を受けて占有を取得した後、不払いの意思を生じて、これを持って逃走しているが、横領罪(252条)に当らないか。
 横領罪は「委託信任関係」によって自己が占有する「他人の物」を横領しなければならない。ところが、売買契約成立により、特約なき限り鯛焼きの所有権はあゆに移転する(意思主義、民法176条)ことから、逃走時には既に「他人の物」ではなくなっている。さらに、あゆは自己の所有権に基づいて自己のために占有しているので、委託信任関係も認められない。そこで、横領罪も成立しない。
(5) なお、あゆが鯛焼きの交付を受けて占有を取得した後、不払いの意思を生じ、これをもって逃走した行為は、遺失物横領罪(254条)にもあたらないと解する。遺失物は「占有者の意思にもとづかずにその占有を離れまたはまだ何人の占有にも属していないもの」であるところ、鯛焼きは店主の意思により占有を離れているからである。
(6) まとめ
 以上より、あゆが、Aから引渡しを受けた鯛焼きを持って、Aに代金を支払わないまま逃走した行為は不可罰である。かかる結論は一見不合理とも思えるが、Aは現実売買における債務履行確保上最も重要な権利である同時履行の抗弁(民法533条)を自ら放棄して、あゆに鯛焼きを渡してしまっている。このような債務不履行の危険ある行為を自ら行っている以上、その危険が現実化した場合に刑法上の責任を問えないことはやむを得ない。また、このように解してもなおAはあゆに対し民法上の責任を追及できるのであるから、この結論が不当とまでは言えない。
2 あゆは、Aの追跡から逃れるためで、人の看守する建造物たるB店に入り、座席を占拠して食事客を装っている。この行為につき、あゆは建造物侵入罪(130条前段)の罪責を負わないか。
 ここで、「侵入」の意義が問題となるが、本罪の保護法益は、建造物の管理権者が、誰のどのような立入りを許し、または許さないかを決める自由である。そこで、管理権者の承諾を得ない立入りが、「侵入」に当たるというべきである。
 この点、不特定多数の食事客の来店が予定されているB店では、人の立入りについて管理権者の包括的な承諾があるかにも見える。しかし、ファストフード店であるB店において、商品を注文することなく無断で座席を占拠するような立入りに、B店管理権者の承諾が及ぶ余地はないと言える。そこで、あゆの行為は「侵入」に当る。
 もっとも、あゆは1,2分という非常に短時間B店に立ち入ったのみで、B店をすぐに立ち去っている。かかる軽微な許諾権侵害は可罰的違法性があるとまでは言えない。
 そこで、あゆがB店に入り座席を占拠して食事客を装った行為についても不可罰である。
3 以上をまとめると、あゆのいずれの行為も不可罰である。
第2 祐一の罪責
1 祐一は、あゆと同様に、人の看守する建造物たるB店に入り、座席を占拠して食事客を装っているが。かかる祐一の行為も同様に可罰的違法性なく不可罰である。
2 また、祐一は、あゆに対し匿う場所を提供する以外の態様で逃走を助けているので、この行為につき犯人隠避罪(刑法103条)の成否が問題となるも、本罪の保護法益は国家の刑事司法作用であるところ、真犯人及び真犯人でなくとも捜査機関により捜査の対象となっている者を匿えばかかる保護法益を害するので、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」は、真犯人及び捜査機関の捜査の対象となっている者を意味すると解する。
 すると、あゆの行為は前述のように何らの罪を構成するものではないから、真犯人ではなく、更に鯛焼き屋Aという私人によって追跡されているものの、いまだ国家機関たる捜査機関による捜査の対象になっていない。そこで、あゆは「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に当らず、祐一もまた犯人隠避罪の罪責を負わない。
3 祐一は、鯛焼き債務不履行により得られたものと知りながらこれをあゆから無償で譲り受けているが、かかる鯛焼きは刑法上の財産罪により取得された財物たる「盗品等」(256条)に該当しないので、かかる行為は盗品等無償譲受け罪(256条1項)に該当しない。
4 以上をまとめると、祐一の行為も不可罰である。
以上

まとめ
 鯛焼き食い逃げをしたあゆあゆは不可罰である。こう聞くと「おかしい」と思う方もいらっしゃるだろう。しかし、鯛焼き屋は普通は代金を払うまで鯛焼きを渡さないのに、なぜか先に鯛焼を渡してしまっているのだから、そのことによる危険は鯛焼き屋が引き受けるというのはやむを得ない。また、本件では「鯛焼きを手渡されてから逃げようと考えた」ので無罪なのであり「最初から食い逃げをするつもり」であれば詐欺罪である。普通の食い逃げ事例*17は適切な処罰ができるのである。「だって…お腹がすいていたんだもんっ!」というあゆの「言い訳にならない言い訳」は、刑法的には「無罪」という形で通ってしまうのである*18

謝辞:本エントリも、名無しさんだよもん様のご発案の問題に対し、2人の議論の中で作り上げたものです。名無しさんだよもん様の鋭い問題意識のおかげで、深い議論ができたことを感謝いたします。
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参考:刑法の犯罪カタログ
 刑法は犯罪カタログを作っている。財産犯*19については
財産を取得する領得罪か、財産を取得しないがその財産を壊す等する*20毀棄隠匿罪にまず分かれる。あゆは、たいやきを手に入れただけで壊したわけではないので、領得罪が問題となるだろう*21
 領得罪の中でも、ものを誰が持っているか、占有が誰にあるかで別れる。占有が被害者にある奪取罪と、占有が犯人にある非奪取罪に分かれる。非奪取罪は横領罪である。
 奪取罪の中では、被害者の意思に反して奪う盗取罪と、被害者の(瑕疵ある)意思によって手に入れる交付罪に分かれる。
 盗取罪の中でも、被害者の意に反して奪う方法が*22暴行脅迫によるか、よらないかで強盗罪と窃盗罪に別れる。
 交付罪の中でも、被害者の瑕疵ある意思の発生原因、つまり普通なら渡さないのになぜか渡してしまう理由によって詐欺罪と恐喝罪に別れる。騙して錯誤に陥れて交付させるのが詐欺罪で、暴行・脅迫により畏怖させて交付させるのが恐喝罪である。
 まとめると下の表のようになる*23

犯罪 物を入手? 犯人占有? 被害者の意思による? 暴行脅迫で奪う? 交付方法?
器物損壊罪 ×毀棄罪
横領罪 ○領得罪 ○非奪取罪
窃盗罪 ○領得罪 ×奪取罪 ×盗取罪 ×
強盗罪 ○領得罪 ×奪取罪 ×盗取罪
詐欺罪 ○領得罪 ×奪取罪 ○交付罪 欺罔
恐喝罪 ○領得罪 ×奪取罪 ○交付罪 脅迫

*1:PC版Kanon劇中描写1月7日をベースとした設例

*2:なお恐喝罪も瑕疵ある意思による交付だが、畏怖がないので成立しない

*3:刑法38条参照

*4:=金がないことを知りながら

*5:正確にいえば、欺罔行為、つまり騙す行為の時点において、あゆは「金がない(=支払能力がない)とわかって注文した」わけではない以上「支払意思も能力もないのにそれあるように装った」わけではなく、そもそも欺罔行為がないということになる。

*6:不法領得の意思発現行為といわれる

*7:仮に「引渡し・登記・代金支払のいずれかがあった時点で所有権が移転する」という学説をとっても引渡しがあるのであゆの物であることは変わりない

*8:また、あゆは自分の物として占有しているのだから、Aとの間に委託信任関係がない

*9:欺罔行為がない

*10:処分行為がない

*11:ラジオドラマ「Kanon水瀬さんち」2002年8月3日放送分(CDドラマ「Kanon水瀬さんち 秋子さんのティータイム」所収「あゆの本当にあったコワイ話」)より

*12:もうすこし正確にいえば、あゆが500円をAに渡すのと同時に鯛焼きを渡すべき

*13:推定的承諾を含む

*14:看守ある

*15:罰金以上の刑に当る対を犯した者

*16:なお、私人でも現行犯逮捕ができるが、保護法益は国家の刑事司法作用なので、私人の行為をもって捜査というべきでないだろう

*17:後者が圧倒的多数

*18:民法的には通りません

*19:個別財産に関する罪といわれるものについて

*20:効用を喪失させる

*21:なお、領得罪が成立した後の毀棄行為、例えばバナナを盗んだ後食べるという行為は不可罰的事後行為となることに注意

*22:反抗抑圧に足る

*23:分類につき藤永幸治編「財産犯罪」p10以下を参考にした