アホヲタ元法学部生の日常

アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。頻繁にツイッター(@ahowota)に出没しております。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

「裁判傍聴」本串刺しレビュー

 最近「裁判傍聴」をテーマにした本や、「プロ傍聴人」(ウオッチャー)の方が書かれた本が盛んに売り出されているようである。
 これらの本を独断と偏見でいくつか選び、「串刺し」レビューしてみた。


裁判長!ここは懲役4年でどうすか―100の空論より一度のナマ傍聴

裁判長!ここは懲役4年でどうすか―100の空論より一度のナマ傍聴

<この本を一言で!>
 一人の「一般人」が「プロ傍聴人」になるまでの成長の記録
<ここが見所!>
 素人傍聴人であった筆者が少しづつ、少しづつ傍聴を続けながら裁判に詳しくなり、裁判の「面白さ」を知り、プロ傍聴人になっていくドラマは面白い。また、時系列で並んだ傍聴記の末尾に、「現在の筆者」からの一言コメントが入っており、それがかなりグッとくるものが多く、各章を締まったものとしている。
<注意点等>
 かなり文字数も多く、それぞれの内容が読ませる内容で、読みごたえがあります。

<傍聴一口メモ>
 東京地裁に入る際は、ボディーチェック&荷物チェックされる。
修習生・法曹三者は専用入り口があり、バッヂを見せるとノーチェックで通れる。

被告人、前へ。―法廷で初めて話せることもある

被告人、前へ。―法廷で初めて話せることもある

<この本を一言で!>
 尋問の描写が長くかつ正確*1なのがすごい!
<ここが見所!>
 有名傍聴人で新聞コラムも書いている著者の本。「新聞記事→法廷へ→尋問内容」という構成なのだが、尋問の描写が非常に長く、かつ臨場感あふれる内容が続いている。事件選択もうまいが、筆者の尋問描写は一読の価値があるだろう。
<注意点等>
 新聞記事にされる*2事件を原則として扱っているため、それ以外の「本当に小さい事件」はあまり本には掲載されていないところがあります*3

<傍聴一口メモ>
東京地裁であれば、入ってすぐの受付っぽいところに、当日の裁判一覧が出ている。
刑事であれば、法廷の名前と時間以外に、罪名、被告人名、初回か判決か継続中か位の情報しかなく、これらの情報から「面白いかどうか」を推測しなければならない。
地裁と違って高裁では、一審判決が覆されるか否かだけを審理する。あんまり証人尋問はないし、あっても短時間。
「初回」の裁判は「冒頭陳述」といって、検察官が、検察官が考える事件の概要を説明するので、比較的わかりやすい。
時間としては、1回結審(判決以外が一回で終わる)なら普通1時間、即決裁判(猶予が前提の裁判)であれば30分位。たとえば「(即決のない重い罪名で)初回に30分しか時間をとっていないというのは、罪状認否*4と甲号証*5提出で終わりだろうな。」といったおおよその目安がつくようになれば、プロ傍聴人も近い。

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか

<この本を一言で!>
 構成がうまく、筆者の直筆法廷イラストがいい味を出している
<ここが見所!>
 「裁判長ここは懲役4年で〜」の筆者の本。時系列ではなく、「涙」「嫉妬」といったカテゴライズをしている。最初の事件は、「はずれ」でも、辛抱強く傍聴を続ければ、いつかは「当たり」の事件に来る。こういう「法廷傍聴の醍醐味」が感じられるような構成になっているところがうまい。直筆法廷イラストも「似ている」絵ではないが、特徴を突いていて文章の説得力を増している。
<注意点等>
 あえて言えば、他のプロ傍聴人と同じく筆者は「法律」のプロではないので、その辺りはあまり気にしないで読むことがよいと思います。

<傍聴一口メモ>
 傍聴の際の主な注意点は、
・服装は過度に派手なもの、プラカードゼッケン系、帽子等が禁止
・私語禁止。録音撮影録画は原則禁止。メモは可。
・眠くなったら席を立ちましょう*6
・明らかに証人がうそをついていても、「異議あり!」と叫ばない。

<この本を一言で!>
 3000の裁判の中からベスト30シーンをピックアップ!
<ここが見所!>
 著者は東京地裁で3000の裁判を見てきたウオッチャー。この中の1%のエッセンスを切り出してきただけあって、面白い話が多い。また、著者の面白い「法廷」の場に切り出されたドラマの欠片から、全体像を想像する著者の想像力(妄想力)がすごい。珍しく民事がよく出ている。
<注意点等>
裁判官Who’s Who (東京地裁・高裁編)のような、裁判官・検察官の実名入りのものを想像したが、すべて仮名処理されていたのは(プライバシーへの配慮とはいえ)ちょっと残念である気もしなくはない。また、想像力がたくましすぎるきらいもなくもない。文字が大きく、あまり頭を使わずに「手軽」に読める。ただ、その「手軽」さに対する賛否両論はあるだろう。

<傍聴一口メモ>
刑事は大きく分けて否認事件と自白事件に分かれる。
否認事件のヤマは「証人尋問」。(多くの場合)被害者・目撃者の尋問と被告人の尋問の両方を聞いて「どっちが信用できるか」を聞き比べるのは興味深いだろう*7
自白事件は「猶予になるか実刑になるか」。大まかな予想の方向性として、[1]前科の有無[2]示談・被害弁償等の有無[3]情状証人(監督者・職)の有無[4]保釈されているか等でおおよその方向が推測がつくが、まれに「執行猶予中の犯行だったが、再度の執行猶予がついた」といったこともある。
いずれにせよ、裁判官の最終判断は判決の日にならないとわからないので、*8一回の傍聴では終わらない。

法廷傍聴へ行こう

法廷傍聴へ行こう

<この本を一言で!>
 「あの」元裁判官が書いたまじめな傍聴の本
<注意点等>
 裁判官時代に初版が出ている本だけあって、内容は固い。冒頭の、傍聴人を七種類に分類している所辺りで眠くなるかも。
<ここが見所!>
 手続きの詳細や、たとえば、「訴訟記録は原則として閲覧できる」といったプロ傍聴人があまり書いていない(知らない?)ことが書かれている。少し裁判を傍聴して、「どうしてここでこういう手続きが行われるのか?」といった疑問を持ったころに読むといいかもしれない。

 なお、この本の「裏」の楽しみ方として、端々に現れる「井上薫イズム」を感じるという楽しみ方もないわけではない。

よく支援団体の人が「私たちの努力によりこの裁判が出たのだ」と手柄話よろしく述べる場合がありますが、根拠のない独り善がりに過ぎません。
同書5頁より

 等の些細な文言から、後の狂った裁判官 (幻冬舎新書)等につながる何かを見出してしまうのは、それこそ私の「独り善がり」かもしれませんが。

<傍聴一口メモ>
民事はあまり傍聴人がいない。それは、ほとんどが書面のやりとりで行われており、傍聴人に内容がわからないことが多いからである。
唯一興味深いのは「証人尋問」である。
民事は原則として、時間が短いか、同じ時間にたくさんの事件が入っている。
しかし、1つの事件で「2時間」とか「午後いっぱい」が取られていれば、ほぼ間違いなく証人尋問か本人尋問が行われる。
それまでに争点は絞られているので、その争点がわからないとあまり意味がわからないことがあるが、
争点がわかりやすい事件の中には、刑事事件よりも興味深い事件もあるやもしれない。

裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書)

裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書)

 この本については、裁判官の爆笑お言葉集 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常で紹介しておりますので、そちらをご覧ください。

<傍聴一口メモ>
 法廷では、法曹三者各人の何気ない行動、ずべてに意味(法律上の根拠)があると言います。
 訴訟法、そして民法・刑法等問題となっている法律*9を知ると、その意味が少しづつわかるようになってくるはずです*10

サイコーですか?最高裁!

サイコーですか?最高裁!

<この本を一言で!>
 最高裁という「知っているようで知らない」世界がよくわかる。
<ここが見所!>
 よく取材して書いており、最高裁の裏の裏までよくわかる。「在任中体調を崩して1月以上休んだり、途中辞任した裁判官が3人いる」とか、「最高裁の正義の女神像は、なぜか目隠しをしていない」といった、非常に細かい知識は興味深い。
 また、「最高裁傍聴記」は、かなりレアな最高裁の傍聴の実態がわかり、面白かった。
 この本を読むと、「最高裁裁判官の国民審査」という制度に興味を持ち、きちんと審査したくなる。このニーズにこたえるため、裁判官リスト(主な個別意見付)がついているのは非常にありがたい。
<注意点等>
 「傍聴本」として読むと、少し「傍聴記」の部分が短い気もするが、「傍聴記」以外の部分も充実しているので十分「モト」は取れるはず。

まとめ
 ここに紹介したもの以外にも、「傍聴本」は「ドキュメンタリー」としても優れた作品が多い。
 傍聴は、裁判が公正に行われているか市民が監視するという意味もある(憲法82条参照)。本を読むにとどまらず実際に「傍聴」してみるのが裁判とは何か、傍聴とは何かを知るための一番よい方法だろう*11

*1:に見える

*2:ベタ記事がほとんどですが

*3:著者は本当に小さい事件も好んで傍聴されているようですが

*4:やったかやらないかの確認

*5:検察側提出証拠

*6:右陪席や修習生が寝ていることもありますが

*7:法律的観点からいうと「証人の尋問結果等を総合して被告人が犯罪を犯したということが合理的疑いの余地なき程度に立証されているか」を判断するというのが正確

*8:原則

*9:実体法

*10:まだわかっていないので、「はず」としておきます

*11:なお、聞くところによると、傍聴人が増えたことにより、被告人が「さらし者」状態になり、罪質等によっては情状証人が出廷しにくくなっているらしい(井上前掲書5頁参照)。「単なる野次馬根性で傍聴すべきではない」と考えるべきか、「証人が出れないのは被告人自身が証人に出てもらえないような犯罪をやった結果であり、傍聴人のせいにすべきではない」と考えるべきかは議論があるところだろう