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このFrontierを最新作とする、超時空要塞マクロスシリーズは、板野サーカスやミンメイvs未沙の戦い等、日本のテレビアニメ史に名を残す有名な作品である。
さて、法律の世界で「マクロス事件判決」というと、様々な分野の専門家が「あ、この判決か!」と思うが、その想定される判決が、いずれも違うものであるという特徴がある。
1.金融商品取引法の「マクロス事件判決」
東京地判平成4年9月25日(判例時報1438号151頁)
(1)事件概要
谷藤機械工業は東証二部上場企業であったが、臨時取締役会で社長が「実は売り上げが架空で、営業資金が不足してしまう。」という爆弾発言があった。取締役会でこの発言を聞いていた専務は、「これは大変だ!」と考え、公式発表前に持っていた自社の株式を売り抜けた。
(2)解説
会社の内部情報を利用して、利益を上げた*1専務取締役が有罪となったのが、この「マクロス事件判決」である。
もっとも、「なぜ、マクロス?」という疑問があるところだろう。その理由は簡単で、直後に同社が株式会社マクロスと社名変更したからであり、超時空あ要塞マクロスシリーズとはまったく関係がない。
この事件は、初の正式裁判になったインサイダー取引事件として、金融商品取引法の中では非常に重要な判決である*2。
2.著作権法の「マクロス事件判決」
東京地判平成15年10月20日(判例時報1823号146頁)
(1)事件概要
「映画の著作物」である「超時空要塞マクロス」の著作権は誰にあるのかが争われ、結局総監督(チーフディレクター)である石黒昇氏に著作権が認められた事件。
(2)解説
映画の著作権は、映画の著作権は、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が持つとされている(著作権法16条*3)。普通は監督がそれにあたるが、「監督」という名前がついてればいい訳ではない*4。実質的な判断が必要であり、マクロスについては「シナリオの製作からアフレコ、フィルム編集にいたるまで、本件テレビアニメの現場での政策作業全般にかかわり、そのできばえについて最終的な責任を負い、実際にも(中略)フィルム編集等に関する最終的な決定を行っていた」として、石黒氏が「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされた。
こちらが、本当のマクロスに関する事件。
3.不正競争防止法の「マクロス事件判決」
知財高裁平成17年10月27日(コピライト542号14頁参照)
(1)事件概要
超時空要塞マクロス製作に関与したタツノコプロが、タツノコの許可なく、他のマクロス関与会社が、「マクロス7」等の続編を作成することは、不正競争防止法2条1項1号、2号が禁止する「他人の商品の表示として広く知られているものと類似するものを使用する」不正競争行為であるとして提訴。
(2)解説
これは、続編に関する事件であるが、主に2つの理由でタツノコの請求が棄却された。まず、「マクロス」という表示は,アニメを特定する題名として広く知られているが、「タツノコ」の商品等を表示するものとして周知になっているわけではない。また、「マクロス7」等における「マクロス」は、それらの続編を特定する題名として表示されているのであって、自社の商品を識別させる商標等*5として表示しているものではない。
結局、続編については、放映等が認められることになった*6。
注:本事件については、http://animeanime.jp/law/moe14.html様に詳しいので、ご参照あれ。
4.結論
「マクロス事件」には、マクロスシリーズの権利関係から生じた事件と、ぜんぜん関係ない会社がインサイダー事件を起こした後「マクロス」に名前を変えたためにそんな名前になったという事件がある。それぞれ分野が異なるため、マクロス1事件、2事件*7といった呼び方はされず「マクロス事件」と呼ばれている*8。
まとめ
「マクロス」は、このように重要な判例を生んできているが、
今回のマクロスFrontierには、トラブルなく進み、よい作品となってほしいものである。
*1:損を回避した
*2:法的論点としては、1号違反か4号違反か等の論点はあるのですが、カット。
*3:なお、著作権法29条により映画製作者に帰属するとされることが多いことに注意
*4:たとえば「超監督」という肩書きがついているからといって、ハルヒシリーズの著作権が涼宮ハルヒにあるわけではない
*5:商品等表示
*6:そこで、現在も再放送等がされている
*7:痴漢事件だと、西武新宿線第1事件、第2事件...という名前になっています。
*8:なお、著作権の事件について、三山裕三「著作権法詳説判例で読む16章」136頁は「超時空要塞マクロス事件」と呼んでおり、金商法の事件との違いは明確になる。もっとも、不正競争防止法の事件も「超時空要塞マクロス」に関する事件であり、根本的な解決にはなっていない。