アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

DMCA(デジタルミレニアム著作権法)と同人誌無断転載に関する法的考察

注:私は、アメリカ法につき弁護士(attorney, lawyer)資格を含め一切資格を有しておりません。本エントリはただの1法学徒としての調査結果のまとめであり、本エントリに依拠した行動についての責任を負うことは一切できないこと、予めご了承下さい。

アメリカ著作権法 (LexisNexisアメリカ法概説)

アメリカ著作権法 (LexisNexisアメリカ法概説)

1.DMCAで同人誌無断転載対策?
 同人誌作家としては、「作成した同人誌の流通のコントロールに関心をもたずにはいられない。例えば、コミケ限定とか、即売会と同人ショップのみ等*1。ところが、第三者が同人誌をスキャンしてネット上にアップしたり、酷い時には、他人の同人誌を「自分が作った」といって、電子書籍販売サイトで売られたりもする。こういう同人誌の「無断転載」*2に対し、どう対応すればいいのだろうか。


 誤解が多いところ*3であるが、後述のとおり、日本法上、 同人誌作家は、その同人誌について著作権を持ち、無断転載した第三者に対し、「法的」には、削除しろ!と言える。ただ、相手に拒絶されれば、最後は裁判をしないといけないので、このような「法的権利」を背景に実務的にどう削除まで持って行くかは、悩みの種である。


 ところで、この「無断転載対策」としてDMCA(Digital Millenimum Copyright Act、デジタルミレニアム著作権法)を使おうと言う話を最近よく聞く。簡単に言うと、無断転載先(サーバー運営会社、電子書籍販売会社等)や、Googleに対し、「このサイトは私の同人誌の著作権を侵害しているので、削除して下さい(take down)」と要求すると、これに応じてくれるという話である。その具体的な手続については、既に様々なところで説明がされていることから、本エントリでは「具体的な手続」ではなく「法的背景」について簡単に説明し、この手法が孕む法的問題点について検討してみたい。


2.DMCAの仕組み
  DMCAというのは、デジタル化する社会に対応するため、1998年に議会を通過した著作権法改正であるが、本エントリで問題となっている部分はほとんど17 USC 512(アメリ著作権法512条)に条文化されている
 DMCAにおいて導入された制度は、要するに、インターネットサービスの提供者に対する「セーフハーバー(これをやっていれば免責されるという規定)」を提供するという仕組みになっている。例えば、YouTubeを考えてみよう。YouTubeには、毎日のように著作権侵害動画がアップロードされる。しかし、その度に、YouTube著作権侵害として民事刑事の責任を負うとしたら、多分YouTubeのビジネスモデルは成り立たないだろう。サービス提供者の定義は512(k)に記載されているが、要するに受動的に第三者のアップロードするファイルを転送したり接続を提供したりする業者のことである。この、サービス提供者が、一定の要件を満たす限り、著作権侵害について責任を負わなくていいというのがDMCAのセーフハーバーの仕組みである。


 ただ、単純に免責するだけでは、権利者の利益が守られない。そこで、「通告と削除(notice and takedown)」という手続が規定されている(512(c)(1)(C)以下)。要するに、権利者が「権利侵害です」と通告すると、サービス提供者はこれに応じてファイルを削除しなければならない。この場合、正式な通知が来れば、実務的にいえば、「ほぼ自動的」に削除されると考えて差し支えない。実際、後記のLenz事件などはどう見てもフェアユース(子どもの姿を映したホームビデオでバックグラウンドで音楽が流れていただけ)なのに、それに対する通知が出され、Google*4はそのままファイルを削除した。削除しない場合、サービス提供者は免責を受けられない。


 もっとも、例えば、ファイルは確かに権利者の作品を使っているが、それはフェアユースであるといった場合もあるだろう。また、単純に、権利者が「侵害」というが、類似部分については単なるアイディアであって表現は類似していないので侵害ではないという場合もあるだろう。そこで、単に通告に応じて削除するだけではファイル作成者の利益が守られない。そこで、「反対通告(counter notification)」という制度も規定されている(512(g))。要するに、サービス提供者は、ファイル作成者に対し、「今回削除したのは、こういう通告があったからですが、ご異議はございますか?」と通知する。単にテレビ番組をYouTubeにアップしただけといった反論ができない場合*5は、ファイル作成者は異議を唱えず、削除が確定する。これに対し、異議があるファイル作成者は、「権利者の権利を侵害していない」という内容の反対通告をすることができる。その後は、ファイルが再度復活され、権利者側に異議があれば、法廷で決着をつけるということになる。



 アメリカ国内でサービスを提供する会社や、アメリカベースの会社では、*6権利者が日本人であっても、アメリカ法が外国で作成された著作物も保護する*7ので、DMCAに基づく通告をすれば、ファイルが削除される。多くの「同人誌無断転載」と言われる類型は、同人誌をそのまま何も修正も加えずにコピーしたもの(verbatim copy)がほとんどであるから、実務上反対通告もなく終わることが多いというのが、最近DMCAが同人業界で注目されている理由である。


3.実務は必ずしもDMCAで動いていない
 後の議論との関係で、1点だけ実務的な指摘をすると、実務は必ずしもDMCAで動いていない。例えば、前掲のYouTubeでは、Contents IDという制度を導入しており、DMCAに基づく通告書等ではなく、比較的簡単な手続で通告し、逆に、通告された方も比較的簡単な手続で反対通告ができる。


 その理由は、DMCAに基づく通告書の要件がいろいろと厳しく面倒くさいからである。1つだけ例を挙げるとPerfect 10, Inc. v. CCBill LLC, 488 F.3d 1102 (9th Cir. 2007) *8では、DMCAが定める形式要件を満たさない2万ページにも及ぶ削除要求書は、DMCA上の適法な「通告」ではないとしている。


 こういう状況を踏まえ、DMCAの精神を導入した簡易な通告方法を認めていることが多い*9。ネット上に紹介されている「DMCAで通告しよう!」というサイトのすべてを見た訳ではないが、本当のDMCAではない、簡易な通告方法を利用している場合でもDMCAと総称されていることが多いことには留意が必要であろう。


4.「法律上」同人誌に使えるか
 ここで、オリジナル同人誌について、DMCAが利用できることは論を待たない。素晴らしいオリジナル同人誌については、本サイトでも
今年一番笑った同人誌!「大嘘判例八百選」 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
LAW&LITE〜今後が楽しみな法学系同人誌 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
等、多々紹介してきたところであり、万が一これらの同人誌について権利を侵害する輩がいればDMCAが使える*10


 問題は、二次創作同人誌である。DMCAの通告手続を利用できるのは権利者である(512(c)(3)等)。例えば、甲のAという作品を元に、乙がBという作品を作り、これを丙が勝手にアップしたとしよう。甲と乙の関係で、乙のBが、甲のAの著作権を侵害しているかどうかは、ケース・バイ・ケースで判断される。


 そして、日本法上は(著作権侵害にならない場合はもちろん、)仮にBが甲のAに関する著作権を侵害していても、Bの作者である乙にBの著作権が帰属すると解される*11。もちろん、乙に権利が帰属するのはBの全体ではなく「元作品に対し乙が加えたオリジナル部分」に過ぎない訳であるが、少なくとも*12、いわゆる「無断転載」に多い、「丙が何ら改変を施さずにBを勝手にアップする」という行為が、乙の持つBに対する著作権を侵害すること自体は、日本法上では間違いないと言っていいだろう。


 ところが、アメリカの著作権法では、違法な二次創作に著作権が発生しないのである。法律上の根拠は103(a)が著作権が存続する既存の資料を利用した作品に対する保護は、当該資料が違法に用いられた部分につき及ばない*13とするところであり、実際、Pickett v. Prince 207 F.3d 402 (7th Cir. 2000)では、プリンスのシンボルを使ったギターを作った原告が、プリンスがそのギターを無断で複製したとしてプリンスを訴えた事件について、この理を説いて原告の請求を拒絶している。仮にBがAの著作権(特に二次的ないし派生的作品を作成する権利)を侵害する違法な作品であれば、丙のアップロード行為は、「甲」著作権の侵害にはなるが、乙にはBに関する著作権がないので、乙の権利侵害にはならないということになる。


 アメリカ法でもケースバイケースの判断になるが*14アメリカ法上乙のB作品が甲のA作品の権利を侵害した違法なものだとすれば、本当は、乙はアメリカ法上の「著作権者」ではなく、DMCA通告を送ってはいけないのではないかという点が、アメリカ法の厳密な解釈から問題となり得る。特に512(f)が、DMCA通告について「重大な虚偽説明(material misrepresentation)」を禁止し、制裁を定めていることからも問題となる。


5.2つの可能性
 この点について、残念ながら私の乏しいリサーチ能力では、先行研究を発見することはできなかったが、これを解決するための2つの可能性について考えてみた。



 1つの方法は、512(f)を狭く読む方法であり、これは、事後的処理に使いでがありそうである。最近の重要な判決である、Lenz v. Universal Music Corp., 2013 WL 271673 (N.D. Cal. Jan. 24, 2013)は、フェアユースを考慮せずに通告を送った音楽会社が512(f)の責任を負うかが問題となった事案であるが、要するに512(f)の責任を発生させるために、実質的には虚偽説明に関する故意(scienter)に近いものを要求している。地裁レベルの判断に過ぎず、このような判断に対しては批判もあるが、「日本法で権利があるから大丈夫だと思った」とか、「二次創作ではあるが、フェアユースで救われる適法なもので権利があると思った」といった説明を合理的にすることができれば、この法理で救われる可能性があるのだ。


もう1つは、実務上多いDMCAではない任意の削除制度の利用である。少なくともこのような「任意」の制度について、DMCA512(f)の直接適用はないだろう。そこで、任意の削除制度の利用であれば、それが利用規約違反*15はともかく、DMCA512(f)の適用がないという議論は可能だろう。

まとめ
 確かに、DMCAを使った同人誌無断転載対策は「実務上ワークする」かもしれない。しかし、アメリカ法の厳密な解釈を考えると、本当にワークしていいのか疑問がなくもない。
 本エントリでは、同人誌作者にシンパシーを持つ立場から、2つの解釈の可能性を示したが、私の乏しい調査能力の限りでは、同人誌無断転載の通告案件が裁判までいった事案を見つけられなかったので、上記の2つの解釈が裁判所に採用されるかは分からない。心配な方は弁護士等の信頼できる専門家に相談されてからDMCAを使った同人誌無断転載対策をした方が安全かもしれない。


参考:昔同人サイトの無断翻訳とアメリ著作権法について駄文を書いた事があります。
無断翻訳と著作権法 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常

*1:元の作品のジャンルや、18禁か一般向けか等にもよるが、総合判断して流通経路を限定している。

*2:この言葉は法律用語ではないのですが、この業界でものすごく頻繁に使われています。法的に言うと「改変等がなされていないそのままの複製」ということなのでしょうが、自動公衆送信等も含まれるので、法的に厳密に検討するのは難しいところです。

*3:ある同人誌作家さんが「自分の同人誌が第三者によってアマゾンで売られていて、『こんなのいかがですか?』と薦められる」と嘆いたところ、「法的にはどうしようもないですよ」と知ったかぶりをした回答をした輩がいたが、実務的にどのようなアクションを起こすか、起こすべきかはともかく、「法的」には「どうしようも『ある』」訳である。

*4:YouTubeの運営主体

*5:通告がいく事例の中ではこちらの方が多いだろう

*6:それらの会社がサービス提供者に該当することを前提とすると

*7:特にベルヌ条約加盟以降は形式要件が殆ど撤廃された。

*8:いわゆるPerfect 10事件というと、Perfect 10 v. Amazon.comが思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれないが、Perfect 10は日本でいうロス疑惑の方のように、いろいろな訴訟を起こし、判例法の発展に貢献されているのである。

*9:なお、もちろん、DMCAに基づく通告をすることは可能。

*10:但し、ローリテについてはクリエイティブ・コモンズライセンスであるという特徴がありますが。

*11:記念樹事件・東京高判平成14年9月6日判時1794号3頁

*12:二次創作同人誌であるBに、乙による何らかの創作性が発揮されている限り

*13:protection for a work employing preexisting material in which copyright subsists does not extend to any part of the work in which such material has been used unlawfully.

*14:フェアユースがあり、同人誌が元作品の「パロディ」批判又はコメントと言えれば、Campbellによりtransformativeと認定され、フェアユースとされやすいが、日本で「パロディ」といわれるものが、必ずしもアメリカの裁判所がいう「パロディ」になる訳ではない。

*15:例えば、権利者しか通告してはいけないと利用規約に定められている可能性がある