アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

コードギアスの刑法的考察〜虐殺を命じたルルーシュの罪責?

1.日本人虐殺事件
「日本人を名乗る皆さん!」


理想郷を目指す行政特区「日本」で、民衆に呼びかける美しき皇女。その時、皇女の口から、信じられない言葉が漏れる。


「お願いがあります。死んでいただけないでしょうか?」


集まった群衆は、突然の事態に何をすることもできないまま虐殺されていく。


ここで、「日本」*1法を適用すれば、皇女ユーフェミアは無罪である。それは、ユーフェミアはマインドコントロールを受けており、「責任」がないからである*2


ユーフェミアに対してギアスの力を使ってマインドコントロールをかけたのは、ルルーシュである。ルルーシュはどのような刑事責任を負うのだろうか*3


2.間接正犯
 ここで、ルルーシュの行為は、

ルルーシューギアス→ユーフェミアー虐殺→日本人


と図解できるが、これと同じ様な状況が、刑法学でも論じられている。これが、間接正犯である。


例えば、AがCを殺そうとして、毒入りの饅頭を運送業者Bに送らせ、Cがこれを食べて死亡したとする。その場合、Aは自らがCを殺したのと同じであり、自ら殺人罪を犯した者(殺人罪の正犯)として責任を負う。これが、間接正犯の理論である。

A―送らせる→B―配送→C


ここでいうAとBの関係は、ルルーシュユーフェミアと同じである。そこで、ルルーシュは、間接正犯として日本人虐殺事件について、殺人罪の責任を負うようにも思える。


3.ギアスの暴走?
 ところが、ルルーシュユーフェミアにギアスをかけたのは、ギアスの暴走によるものだった。
 ルルーシュは、ギアスを使って命令すればどんな命令でもいうことを聞かせられるという例を出す意味で「日本人を殺せ」という命令の例を出したところ、その瞬間ルルーシュのギアスが暴走していたのである。


 つまり、ルルーシュは、日本人を殺そうと思っていたのではなく、ギアスが「暴走」したことにより、結果的にユーフェミアに虐殺を命じてしまったに過ぎないのである。


殺人罪の責任を負わせるためには、客観的に人を殺しているだけでは足りない。ルルーシュが故意、つまり、わざと殺した場合でなければならない。刑法学では、死亡の結果を認識して認容しなければならないという。


ルルーシュは、日本人の死亡の結果を認識して認容している訳ではないので、故意がないとして殺人罪の成立は、否定される。


4.過失致死?
 じゃあ、ルルーシュは、無罪なのだろうか?


 例えば、自転車事故で相手を殺してしまう場合*4、これは過失、つまり、誤って殺す場合である。この場合は、無罪ではなく過失致死の責任を負う*5。注意義務があるのにその注意義務に違反するのが過失であり、例えば、信号無視をして自転車を走らせて歩行者とぶつかる場合等は、注意義務違反の過失があるといえる。


 ルルーシュは、CCがルルーシュの前にギアスを与えた相手であるマオがギアスを使い過ぎて、周りにいる人の心の声が聞きたくなくともどんどん聞こえてしまうという状況になった事態を知っていた。また、ルルーシュ自身も式根島において左目に圧迫感を覚え、意思と無関係にギアスの文様が浮かんだ経験がある。つまり、自分自身もまたマオと同様にギアスのコントロールができなくなっていることに気づく機会があったのだ。しかも、ルルーシュは、ユーフェミアとの会話中に何度も左目に異常な圧迫感を覚えていた。



そう考えると、ルルーシュは、ギアスが暴走し、安易に発した命令を相手に強制する可能性があることを予見し、そのような事態が発生しないよう、安易な命令をしない注意義務があったといえるだろう。信号のたとえでいえば、「赤信号」とまではいわなくても「黄色信号」くらいはあったはずであり、少なくとも注意すべきであって、「青信号」の場合のような行動をとるべきではなかった。それにもかかわらず、安易に殺人を命じ、その結果虐殺を引き起こしてしまった。


 そこで、ルルーシュは過失致死罪の責任を負う。

まとめ
ルルーシュの行為については、殺人罪は成立しない。しかし、ルルーシュは、過失致死罪の責任を負う。
力を持つこと、それ自体はすばらしいことのように見える。しかし、それをコントロールできない場合には、そもそも力を持っていない場合よりも不幸な結果を招く可能性がある。
ギアスでも、それ以外でも、大きな力を持った者は、(主人公補正に頼るのではなく)それをコントロールできなければならないし、できないなら最初から力を持つべきではない。
コードギアスの日本人虐殺事件は、このことを教えてくれる。

*1:違う意味の「日本」である

*2:なお、行為論における立場によっては、意思に基づかない行為だからそもそも「行為」すら存在しないという理由付けもあり得るだろう

*3:コードギアス・反逆のルルーシュStage -4- ZERO」110頁以下

*4:自「動」車の場合には特別法が適用されます。

*5:本稿では、重過失や業務上過失の問題には立ち入らない。