アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

待望の改訂版! 「刑事弁護Beginners ver2」〜本年11月の新判決とその刑事弁護における意義

刑事弁護ビギナーズver.2

刑事弁護ビギナーズver.2

1.ついに登場! 改訂版
改訂が待望されていた「刑事弁護ビギナーズ」の改訂版がついに出版された。


7年前、まさに司法改革が実行に移され始めた時期に、右も左も分からない多くの「初心者(Beginners)」の刑事弁護人を救ってくれた救世主、刑事弁護Beginnersは、まさに伝説の本といってもいいだろう。特に「若手」を編集・執筆の中心とするという編集方針は、若手の先生方が「あの時これを知っていれば」という生きたノウハウがふんだんに盛り込まれるという意味で極めて画期的である。



ただ、7年が過ぎてしまった。裁判員裁判に対応していない等、内容の「古さ」に、刑事弁護の良書の紹介を依頼される場合に、流石に他の本を探さないと行けないだろうということで書いたのが、以下のレビューである。
刑事弁護人としてのスタートラインに立つための新しいスタンダード「事例に学ぶ刑事弁護入門」〜「刑事弁護人あるある」付き書評 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常



 そのような状況下、ついに出版された「刑事弁護ビギナーズver2」は、「実務で求められる技術と情熱を凝縮した刑事弁護の入門書」という初版の良さを引き継ぎながら、新しい編集者・著者が新しい時代に対応して大幅に記述を書き換えており、刑事弁護に従事した人なら誰でも失敗し、なしは失敗しかけたであろう点に先回りする「実用性」は圧倒的である。




このように素晴らしい「刑事弁護ビギナーズver2」は、その完成度は高く、私が言える事など、基本的には「買って下さい」「読んで下さい」「弁護活動の際に手元に置いていつでも参照して下さい」の3つだけであるが、一応ツイッターで気になった若干の点を補足してみたので、ご興味のある方はtogetterをご覧頂きたい。
私家版刑事弁護ビギナーズ補足 - Togetter
 そして、このうち、身柄拘束に関する2つの最決と接見交通に関する東京地判は、本年11月に出ており、出版時期との関係で同書がフォローできないのは当然であるが、刑事弁護において重要なので若干敷衍して補足したい。


2.身柄拘束に関する2つの最決*1
 勾留に関する最決平成26年11月17日*2と保釈に関する最決平成26年11月18日*3は、結論としては、最高裁が自ら被疑者/被告人の身柄拘束からの解放を認めたということで、刑事弁護人にとって有利なようにも思えるがなかなか解釈が難しい。


1つの解釈は、あくまでも準抗告審の判断構造を明示したに留まるというものであり、要するに、準抗告審は原審の判断がその裁量に違反していると判断するならば、その理由を具体的に説明すべき*4というものである。


ただ、刑事弁護人としては、異なる解釈の可能性を追求すべきであろう。

被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。
最決平成26年11月17日

この「罪証隠滅の現実的可能性の程度」への言及は、この点を強調すれば、(少なくとも逃亡の恐れがない事案においては)罪証隠滅の現実的の可能性が高くない限りは勾留をしてはならないと最高裁が判断したという主張も可能になってくるだろう。



 この点は、最決平成26年11月18日が、原々審が「被告人がこれらの 者に対し実効性のある罪証隠滅行為に及ぶ現実的可能性は高いとはいえないこと」「現実的でない罪証隠滅のおそれを理由にこれ以上身柄拘束を継続 することは不相当であること等を考慮して保釈を許可した」ところ、そのような「原々審の判断が不合理であるとはいえない」と述べていることからも補強をする可能性がある。


 もちろん、現実的な可能性というのが具体的にどういうものかは、事案によって異なるだろうが、最決平成26年11月17日を参考にすると、「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立」するいわゆる痴漢否認事件において、被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことにも鑑みると罪証隠滅の現実的可能性が低いと判断されているらしいこと、最決平成26年11月18日を参考にすると、共謀も欺罔も争っているいわゆる「組織的取り込み詐欺の事案においても、「被告人と共犯者らとの主張の相違ないし対立状況,被告人の関係者に対する影響力,被害会社担当者の主尋問における供述状況等に照らせば,被告人がこれらの 者に対し実効性のある罪証隠滅行為に及ぶ現実的可能性は高いとはいえない」と言い得る場合があり得ること等が参考になるだろう*5


3.写真撮影を理由とする接見中止
 東京地判平成26年11月7日は、手元に判決文がなく、報道ベース*6だが、要するに弁護人が接見の際に様子がおかしいから写真撮影をしたところ、拘置所職員から撮影した写真の削除を求められるとともに、これを拒否したことにより接見を中止させられたという事案である。


 裁判所は、写真撮影を接見交通権の一部として正面から認めるのではなく、写真撮影等を理由に接見を断ることが刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(収容法)の観点から正当化されるかという枠組みに「逃げ」て、接見を断ってはならないとして国に賠償を命じたものである。


 まず、刑事弁護人としては、この判断の後でも、写真撮影は、接見交通権の一部に入るとの主張をし続けるべきであり、同地判は、収容法違反が認められたことから、収容法違反を捉えて拘置所の行為を違法とした判断に過ぎないと解釈することになるだろう。
 次に、この判断のうち、写真を撮影し、これを消さなかったというだけで接見を中止させてはならないというものは、刑事弁護において非常に重要なものであり、今後の写真撮影を止めようという施設職員の行動に対して「接見を中止させたらまた国賠が認められますよ」と言えるという積極的先例として捉えるべきだろう。


 更に、同判決の写真撮影そのものに対する態度は不明確であるが、もしも、「写真撮影は証拠保全でやることが原則」という趣旨なのであれば、これは逆に言えば、証拠保全刑事訴訟法179条)を申立てる際に、このままだと傷が消えてしまって証拠保全の意味がなくなるから早くやってくれと言う場合に、この判決を援用することができる可能性も否定できない。


 そして、あまり重視されていないが、個人的に重要だと思うのは、裁判所が収容法に「逃げた」ことである。これは、厚くそびえ立つ接見に関する判例学説と正面から向き合いたくないという消極的評価もあり得るが、逆に言えば、クリエイティブな刑事弁護人は、「収容法の問題として議論をすることで、これまでの実務にない有利な判断を導き出す」ことができる余地があるということである。もちろん、収容法を使うことで、接見交通権に基づく主張が弱く感じられる等デメリットもあり得ることから、各事案に応じた臨機応変な対応が肝要だが、今後は、このような使い方も検討に値する。収容法・監獄法を考慮した最近の刑事弁護に関する判断として、例えば、最判平成25年12月10日民集67巻9号1761頁、東京高判平成26年9月10日、東京地判平成24年11月14日、東京地判平成23年3月30日判例タイムズ1356号237頁、東京地判平成22年1月27日判例タイムズ1358号101頁等がある。

まとめ
 「刑事弁護ビギナーズver2」は、今後刑事弁護を行う上で欠かす事のできない、いわば「バイブル」である。
 ただし、出版時期の関係で、本年11月に下された重要な判断についてフォローできていないことは残念であり、その観点から、「100%の私見」としてこれらの3つの判断について刑事弁護人に与える可能性のある意義について試論を展開させて頂いた。
 刑事弁護に詳しい諸先輩方からのご批判を賜ることができれば幸いである。

*1:なお、本稿を作成するにあたって、特に野田先生(@nodahayato)のツイートを参考にさせて頂いた。ここに感謝の意を表させて頂きたい。

*2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/640/084640_hanrei.pdf

*3:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/641/084641_hanrei.pdf

*4:17日の「原々審と異 なる判断をした理由が何ら示されていない」。18日の「受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある」参照。

*5:なお、本件については、最決平成26年3月25日判時2221号129頁も参照のこと。

*6:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2014/141107.html参照