#杉原千畝プロジェクト 第2弾 これで完璧!ブラック事務所対応
1. はじめに
昨日公表した「 #杉原千畝プロジェクト 」、すなわち、ブラック事務所からの救済プロジェクトは、望外の好評を頂いた。
短時間に大量のアクセスを頂きこのブログ記事を紹介するツイートをご拡散いただいた。
「 #杉原千畝プロジェクト 始めます〜パワハラ事務所からの解放を目指して〜」と題して、アウシュビッツにも擬えられる、ブラック事務所の回避と、ブラック事務所に入った場合の逃走方法をアドバイスするブログ記事を書きました。メッセージは「死ぬな。逃げろ!」 #ブログhttps://t.co/eKVPlVhHbm
— QB被害者対策弁護団団員ronnor (@ahowota) 2021年1月2日
ご好評に応えて、第2弾は、
これで完璧!ブラック事務所対応
と題して、第1弾で書けなかった内容の補足や深掘りをしていきたい。
なお、この「第2弾のブログ記事だけで完璧」という意味ではなく、第1弾に加えて、色々な補足をするこの第2弾の記事を「合わせて読めば」かなり多くのブラック事務所問題についての知見が得られるはず、という意味ですので、予めご了承ください*1。
2.あなたを迎える準備ができているか
ブラック事務所について、少し前に、「職印、業務上のメールアドレスをこれから自分で作れと言われた」ら危ない、というツイートが話題を呼んだ。
これから弁護士になる73に言いたいこと。初出勤で職印、業務上のメールアドレスをこれから自分で作れと言われた場合、特段の事情がない限り2か月以内に辞めた方がいい(笑)
— まーやん (@masayar2) 2020年12月16日
基本的には、「あなたを迎える準備」ができているか、そもそもそのつもりのある事務所なのか、というのは、「あなた」に対する事務所の重視の程度のバロメーターだろう。もちろん、内定が入所直前に決まる等で準備ができていないことはあり得るが、名刺、印鑑、メールアカウント等の修習中に内定していれば作れるだろう、というものを「あなた自身」に作らせるのは違和感がある。
後述の「絶対アウト」に至っていない場合、こういう「違和感」的なレベルのポイントや、第1弾で紹介したポイントが総合して「数え役満」になっていないかに注意すべきである。
3.合意内容の変更には注意
もちろん、やむを得ない変更はゼロではないものの、契約条件その他の「あなた」と事務所間の合意内容を不利益変更してくる、ないしは、「内定時はあえて内容を曖昧にし、良い感じの内容を匂わせて、入所後や入所直前に『牙を剥く』」事務所は、その後どうなるかはお察しである。
例えば、「若手募集!月40万円!」と言って内定を受諾させておいて、二回試験の合格を報告した頃に(つまり、もう他の事務所という選択肢がなくなった頃に)「具体的な条件を説明します。原則として売り上げに応じた歩合制ですが、最初の6ヶ月は歩合額が月40万円に満たない場合には差額を貸し付けます。」みたいな事務所は、入所後どうなるかは想像しやすいだろう。
そこまで激烈でなくても「個人事件可は可であるが、100%上納であった」とか「確かに個人事件自由で上納もないが、午前9時から午前5時まで事務所事件が降ってきて、個人事件などできるはずがない」といった事務所もある。
だからこそ、第1弾で言及した「条件を明確化する」ことと、その明確化した条件からの変更の有無に気をつけることが有効なのである。
ここで吹いた。
— ぽぽひと@wordタケノコ粒あん党 (@popohito) 2021年1月3日
どう考えてもパワハラ事務所だ。 https://t.co/PLBzX13Fsj pic.twitter.com/laSFT3C5J3
結構第一弾で示したこの条件の趣旨がわかりにくかったようなので補足すると、基本的には、「条件自体は悪くなく、多くの修習生が『良さそうな事務所』と寄ってくる」ようなイメージで作っている*2。ただ、多分ボスはそういう条件だと「匂わせている」だけで、言質を取られないようにしてくるはず(なお、平気で嘘をつく人もいます)。そうすると、 メールで「明確に雇用条件を確定させる」というのは有効な手段であり、
・そのメールに対してボスが反発してきたら、それはまさに「本性を暴く」ことができて良かったということ
・そのメールでOKといったのに、後で条件を変えてくれば、その事務所の「おかしさ」の何よりの証拠になる。
・周りに相談する時に、自信を持って「当時Xだったのに一方的にYに変えられた」と相談できるようになる
等というメリットがある。
4. 丸投げ
第一弾では、「ミスに対して人格否定をされる、場合によっては暴力を振るわれる」といったイメージでブラック事務所を描いた。確かにこのようなブラックもあるが、別の類型として「1年目で何も分からないのに案件を丸投げされ、何の指導もない」というパターンもある。ある意味では、即独みたいな状況なのに、案件だけは大量に振ってくる(即独なら、案件を断る自由があるのに。。。)。
こういう丸投げ系の事務所の場合、「意を決して、『分からない』『教えて欲しい』というと、『修習で何を学んだんだ?』『まずは徹底的に調べたのか?』みたいな感じで、そういう『下らない』質問をするあなたの方がおかしい」という刷り込み、洗脳を図る。
この洗脳にかかってしまうと、「全部自分で調べて自分で解決しなきゃ」、と思うようになって、多くの場合、経験不足からミスをしてしまう。まさにそのミスこそが、「ブラック事務所が待ち望む所」であり、これを「好機」とばかりに恩に着せ*3、「自分がミスをしたのに、素晴らしいボスはその尻拭いをして下さった、今後はもうボスには頭が上がらないのだから、最後までボスの奴隷でいなければならない」という、更に上位の洗脳を行おうとするのである。
5.「会って話すと優しいんです」
パワハラ弁護士の類型として、典型的な「DV配偶者」と同じタイプがいる。
例えば、無理難題が指示され、疲弊してしまう。そこで、どんどんボスが嫌いになる。そしてそれが頂点に達しそうな頃、「やあ、昼はまだかい、一緒に食べないかい?」とか言われて直接話す機会がある。そうすると、ボスが優しい言葉を掛けてくれる。直前まで、「この事務所を辞めよう」と思っていたのに、そういう優しいボスの素振りに、「もう少しこの事務所で頑張ってみよう」と思ってしまう。
これはまさに、「DV配偶者」と同じタイプ*4であって、相談に乗ると「会って話すと優しいんです!」といって、「転職活動はまだ早いかな」、とか「もう少し様子を見たい、ボスも自分の業務処理量を理解して、少しずつ常識的な量を割り合ててくれるようになると信じたいんです。」みたいなことを言い出す。
「それ、ボスの目論見通りですよ!」と声を大にして言いたい。結局、暴力を振るった後に花を買ってくるDV配偶者と同じで、「いいところ」があるからこそ、「悪いところ」に目を瞑って付き合おうと思ってしまう。その考えが間違いなのです。第1弾でも記載したとおり、
・暴力を振るう
・人格を否定する発言をする
・私的な時間まで管理する(電話やLineが四六時中来る)
・重要な約束を破る
等は、「おかしい」のです。おかしい人は「ずっとおかしいまま」で、そのまま付き合うと「あなたの精神がおかしくなります」。
6. 兄弁・姉弁について
(1)兄弁・姉弁がいるから安心?
弁護士2人の事務所に入る新人の方の話を聞くと、「ボスとは父親と子どもくらい年齢が離れていて、うまくいくか分からなかったのですが、間に3つ上の期の兄弁・姉弁がいるので、分からないことはその兄弁・姉弁に聞けるからいいかなと思って。。。」という話をする人が多い。
実際のところ、その理屈は「ブラックでない事務所」ならば確かに有効である。
とはいえ、「ブラック事務所ではブラックが再生産される」ことに留意が必要である。その兄弁・姉弁がブラック兄弁・姉弁だったりするのである。
多分、その兄弁・姉弁も、目下の人との関係をどう作ればいいのか分からない、その中で、「自分が受けた扱いをそのまま新人に適用する」というパターンで、ブラック兄弁・姉弁が再生産される。
また、「ミニブラックボス」みたいな感じで、ボスの意向を忖度し「新人を先回りして締め上げておきました」的なことをしてボスから得点を稼ぐブラック兄弁・姉弁もいる。
なお、違うパターンとして、「ボス」が暴言を吐くが、「兄弁・姉弁」があとでフォローしてくれる、というDV配偶者パターンを複数人でやるパターンもある。
(2)就活の時にいた人が消える
いずれにせよ、特にボスがアラフィフやそれ以上の年齢の場合、ボスと新人のみの事務所だと、なかなか新人が集まりにくい。私が知っている事務所(ブラックではない)では、それぞれ純粋な個人的事情で相次いで勤務弁護士が辞めたが、一度勤務弁護士がゼロとなった後、新人採用に苦労し、長期間1人事務所になってしまった。たまたま、ノキ弁として一人経験弁護士が入ってくれたところ、すぐに新人が採用できて、現在まで居ついてくれているという事例がある。
このような「兄弁・姉弁効果を採用に利用する」というブラック事務所が存在する。要するに、「辞めたいならひまわりに求人乗せるから、うまいこと言って内定受諾させろ」みたいな感じのことをボスに言われ、「自分が辞めるつもりであることをおくびにも出さずに、兄弁・姉弁のいる安心感を醸成して採用活動に協力する」退職予定の兄弁・姉弁がいるブラック事務所があるということである*5。
そういう事務所だと、「就活の時に優しく対応してくれた兄弁・姉弁が、就職して勤務を開始する時にはいない」ということになる。この辺りは、修習生側からも(第●クールが始まりました!等と)定期的に事務所に連絡を入れ、(コロナで色々と制限はあるが)可能な限り「お昼ご一緒させて頂くことは可能ですか」等として事務所の情報収集を行うべきであろう。もちろん、上記のブラックではない事務所のように純粋な個人的事情で辞めるということはあるが、「ボス一人と自分だけならその事務所に就職していなかった」という場合、兄弁・姉弁が辞めたタイミングで、別の事務所への就職の検討も十分に考慮に値するところである。
7. 「パワハラ」と「指導」の関係
最後に、「パワハラ」と「指導」の関係という難しい問題について補足したい。
第一弾で述べたとおり、抽象的基準は、「成果物」に対して理由を付して具体的に修正すべき点を示すことは「指導」である。これに対し、「人格」に対する非難をする理由は何もない。また、「怒鳴る」「晒す」という態様で行うのであれば、仮に「成果物」に対して理由を付して具体的に修正すべき点を示していても、「指導」としては不適切であるということになるだろう。
問題は、本当に具体的場面で、特にそのミスが大きい場合には、「つい声が大きくなってしまう」「嫌味のひとつでも言いたくなる」という部分は人間の心情として考えられなくもない、という点である。ホワイト事務所では、そこを「堪える」訳であるが、そういう人間の心情として考えられなくもない範囲で「必ずしも適当とはいえない」対応をする「グレー」事務所が存在することは事実である。
これに対する基本的な対応としては、「絶対アウト」の線引きと、「そのラインに至らない行為でも、早めに同期等に『こういうのが繰り返されているんだけど、おかしくない』と聞くこと」の2つがあるだろう。
どれだけ重大なミスをしたとしても、なお「あり得ない」であろう「絶対アウト」行為として、
・物理的暴力を振るう
・ミスの代償として、物理的セクハラ等のあり得ない要求する
・長時間怒鳴り続ける
等がある。その領域に至れば、すぐに辞める方向で考えるべきである。
ただ、そこまで至らない場合でも、「自分がミスをしたから、そういうことをされるのもしょうがない」ではなく、複数の同期に「ミスに対する指導って、どんな感じが普通かな?自分のボスはXXみたいな感じなんだけど?」と聞くべきである。これを躊躇すると、今ボスがやっているブラック行為が「標準」になってしまう。そうやって、複数の人の意見を聞いて、自分のボスの「ブラック度」を理解した上で行動すべきであろう。
第1弾の記事を書いた所、
ブラック事務所対応にも詳しいronnor氏,一体何者なんだ・・・?
— サイ太 (@uwaaaa) 2021年1月3日
というコメントを頂戴した。サイ太先生は過去の弁護士の所属事務所データベースをお持ちだという噂ですが、そのデータベース上の「ブラック事務所」所属歴のある人を一人一人洗う、みたいな地道な調査はしないでくださいね!約束ですよ!
以下シリーズ化しております。ご参照ください。
*1:表示法制でいうところのいわゆる「打ち消し表示」です。
*2:なお、年収700万は「悪くない」イメージで作っているが、読者の皆様の「期」によってもイメージが違うかもしれない。
*3:なんだかんだいって、せいぜい、あなたと一緒に頭を下げてくれるだけである。ここで、基本的には、普通の依頼者として、頭を下げられ、場合によって報酬の返還等を申し出られた場合に「次の依頼をすること」には消極的にならざるを得ないが、それ以上に「オオゴト」にしたいという希望は普通はない。依頼者として「オオゴト」にせざるを得ないのは、ミスを認めず、頭を下げない場合の方が多い。
*5:退職予定の兄弁・姉弁も「犠牲者」なので、あまり責められないが。