アホヲタ元法学部生の日常

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znkさんの法務系アドベントカレンダー便乗企画ー小ネタ法務入門

小ネタ法務入門

 

 

**2023年1月3日にznkさんが補足エントリを出して下さいました!

 

blog.livedoor.jp

大変素晴らしい内容ですね!!

 
*2023/1/1にznkさんのツイートを参考に加筆しました。

 

 

 

znkさんが法務系アドベントカレンダーで秀逸な記事を公表された。

blog.livedoor.jp

znkさんは、まさに「小ネタ法務」の実践者である。ここでいう「小ネタ」とは、エッセイや論文等を指す。基本的には企業法務パーソンによるエッセイや論文等の執筆のことを想定しており、学者を想定していない。また、ガチの「在野研究者」(研究者が企業に所属しているだけ)というよりは、メインが法務業務であることを想定している*1

 

 
1.目的
なぜ小ネタをやるのだろうか。
・趣味派
に分かれるのだろう。
 シナジー派は、業務に関連する業績を公表できる形で積み上げ、業務に繋げると共に、転職時の分かりやすいアピールとする。自分の業界や業種を踏まえて専門特化していく方向性もあれば、業界横断的な「法務で共通して必要となる知識・ノウハウ」といった方向性もあるだろう。
 趣味派は、純粋に楽しいから行う。なお、この趣味派の中には、趣味が高じて「社会人院生」になり、修士論文や博士論文を書いてしまう人もいる*2
 
2.小ネタの書き方をどう学ぶか
 難しいのはどうやって「小ネタ」の書き方を学ぶかである。
・(実務家の多い)研究会・勉強会で報告をしてレビューしてもらう。
・社会人修士やLLM留学の機会を活かす
・ブログを書いて色々な人の意見を求める
等があり得る*3
 
3. 内容
内容は様々であり、
・純粋なエッセイ(学術度合いゼロ)
から、
・学術論文(質は兎も角)
まで、それぞれの興味関心に応じてあり得る。
テーマも、業務に関連したものから、純粋に理論的に面白いと思うテーマまで色々ある。
数千字の短いものから、数十万字のもの(書籍として出版)もある。・
 
4.投稿先
大学に所属すると、何かを描いたら投稿できる先として「紀要」があるが、基本的には、そのような「媒体」がないのが小ネタ法務の前提である。そうすると、
・ブログ等
・勉強会・研究会等で口頭発表
・投稿(投稿を受付ける雑誌、又は懸賞論文)
・依頼原稿
・書籍企画を持ち込んで通す
 辺りが一般的だろう。報告したものが雑誌等に掲載されるような勉強会・研究会等に参加できると小ネタの発表の機会が増える。
 小ネタが多くなり、レピュテーションが生まれると、依頼原稿が来るようになるが、その領域に至るまでは沢山の投稿等の経験を積む必要がある。
 
5.時間の捻出方法
 さて、小ネタ法務の1番の悩みは「どうやって小ネタの時間を捻出するか」であろう。
 一つは、シナジーを最大化するため、「仕事での勉強をそのまま小ネタに活かす」という方法であり、これがシナジー派の典型的な時間の捻出方法である。
 もう一つが、「ホワイト企業」を狙うことであり、9時-5時で月160時間だと、月260時間勤務(残業月100時間)の生活をしてるブラック企業の人よりも毎月100時間分多く「小ネタ」の時間を捻出できる。これは、「趣味」派の典型的な時間の捻出方法である。それ以外の趣味がない方がいいという説もあるが、少なくともブログに毎年書いている #経営アニメ法友会 の小ネタは趣味のアニメと法律の結合なので、他の趣味があってもいいと思われる。
 加えて「企業派遣留学」や国内の大学院等の学費補助等の会社の福利厚生制度を活かして、小ネタに集中する、という方法もある。
 なお、研究会や勉強会で話して、その発表原稿を論文形式に手直しするのも効率が良い。勉強会・研究会等によっては、法務系交流団体の一部のように企業が勤務時間認定してくれるものもあるので、給料をもらいながら小ネタ活動ができることもある。
 
 私の小ネタの例は以下のとおりである。
 
 
お前も小ネタ法務パーソンにならないか?( by 猗窩座)

*1:但し、学部卒だけではなく修士号取得者、博士課程修了者、博士号取得者等アカデミックバックグラウンドは様々であろう

*2:修士課程や博士過程の経験があれば、既存のテーマの小ネタ執筆を継続するパターンもある

*3:修士課程や博士過程の経験があればそこで既に学んでいるかもしれない

#経営アニメ法友会 ラブライ部会活動 ラブライブ!から得られる法務に生かせるノウハウを語る!

#経営アニメ法友会 ラブライ部会活動 ラブライブ!から得られる法務に生かせるノウハウを語る!

 

 

これは #legalAC #裏legalAC 裏リーガルアドベントカレンダー12月15日のエントリです。ぼっち法務(Shun Yamashita)さんからバトンを引き継ぎました!

 

私は法務関係主要4団体*1の一角を占める団体である、経営アニメ法友会の会員である*2。ゲーム部会*3、ぬい部会等の部会に分かれて、それぞれ緩く活動しているが、私が所属しているのはラブライ部会である。その名の通りラブライブ!から法務に生かせるノウハウを抽出して語る部会であり、既に以下のエントリをあげている。

 

ronnor.hatenablog.com

ronnor.hatenablog.com

2020年はラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会1期、2021年はラブライブ!スーパースター!!1期をご紹介したところであるが、2022年放映のラブライブ作品が、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2期とラブライブ!スーパースター!!2期であったので、この2作品をご紹介したい。これまで「ちくわ先生が毎回10作品も20作品も紹介されている中で自分は1作品だけ」だったのが、なんと「前年比2倍に増量」してお送りすることになった!!

 

なお、初心者向けのラブライブ!とは何か、という説明として以下テンプレを*4

 

高校生が部活や同好会活動としてアイドル活動を行う、「スクールアイドル」という形態が一般化した世界線。最大3年の活動期間の中、スクールアイドル日本一を決める伝統ある大会「ラブライブ!」の優勝に向けて、多くのスクールアイドルが日夜切磋琢磨を続ける。そんな世界線におけるそれぞれの学校の、それぞれのスクールアイドルの物語。

 

第1 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、トキメキの物語。主人公*5の高咲侑が「推し」であるスクールアイドル達にトキメキを感じながらも自分自身も成長していく。

 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、今年の春に2期が放映されたが、ラブライブ!シリーズの中では、ラブライブ!の優勝を目指さないと言う点において「異色」の物語である*6

 また、視聴者*7具現化キャラとして侑という非スクールアイドルのキャラが主人公ポジションで描かれていることが特徴である。

 

1 規定演技と自分らしさ

 法務、いや、社会においては、多数の「規定演技」が存在する。要するに、「求められるものに忠実に答える」(byミア・テイラー)ことが必要だと言うことである。

 自分が「世界を変える」という自負や自信を持って社会に出た新人は、頻繁に、「あれ、自分の個性を出すことは求められていないのかな?」と戸惑うだろう。

 この点は、守・破・離の精神が問題となる。まずはきちんと「型」を覚える。型を覚えた上で自分を出せば型破りになるが、型を知らないと「型なし」になってしまう。最初の過程はそうやって規定演技の規定を理解し、それを少なくともこなせるという最低ラインを超えることを目指すべきである。

 ただ、規定演技をこなすことは最低ラインであるが、規定演技はこなせる前提で、それを超えた「自分らしさ」を出せればもちろん更に良い。その「自分らしさ」を、侑が「NEO SKY, NEO MAP!」(1期エンディング)を作曲することを通じて表現した(3話)。2期の各話は「全部実質最終回!」というような魅力的な回が多かったが、3話の最後に侑が(自分で作曲したものを披露するという体で)「NEO SKY, NEO MAP!」を弾き出したところは感動し、ついついピアノを再開してしまったくらいである*8

 そしてその「自分らしさ」は、自分だけで考えるのではなく、周囲のみんなに教えてもらう。QU4RTZ(中須かすみ、近江彼方、エマ・ヴェルデ、天王寺璃奈のユニット)がみんなで合宿をする中、意外な自分を周囲が指摘してくれる。みんなと一緒になると新しい自分を見つけることができる、みんなで新しい色を作れる。 この世界に「私」は「私」しかいない。 上手くできなくてもいい、 「私」にしかできないものを(by侑)!

 段階的な目標を設け、一つ一つクリアしていくという考え方は何にでも通じる。ミアと侑から、そのような段階的な発展を通じて自分らしさを打ち出すことの素晴らしさを学ぶことができる。

 

2 始まったなら貫くのみ?

 1期で優木せつ菜が述べた「始まったら貫くのみ」という台詞は、2期6話で悩めるせつ菜のところに返ってくる。

 法務が全社的なリスク管理を行う上で、どの場面で「始まったなら貫くのみ」を使い、どの場面で「柔軟なプランB発動」を使うのか。それこそが実務における本質的な問題であろう。

 基本的には、戦略や長期目標を練り上げ、それに向けての行動を開始したら貫くのみ、但し、各局面における戦術については、事前にプランB以下を準備しておいて、それぞれの局面に応じて柔軟なプランBへの転換を行うということが1つ考えられる。

 ただし、最近はアジャイル・ガバナンス*9が言われており、VUCA時代においては、ゴールを柔軟に変更する方が良い、という考えもあるところである。

 

3 法務の役割論

 侑はスクールアイドル同好会にいる唯一の「スクールアイドルをやらない」部員*10である。そのような侑は同好会でスクールアイドルをやるか、同好会を離れるべきではないか、これが鐘嵐珠の疑問である。嵐珠は、侑に対し、「周りに自分の夢を重ね合わせているだけで何も生み出していない」のではないか、という疑問を提起する(5話)。

 この問題は、まさに法務の役割論である。法務パーソンもビジネスパーソンであるべきである。しかし、法務はコストセンターであって、プロフィットセンターではない。「法務はコストを発生させるだけで、何も生み出していない」このような批判は、法務に対する典型的な批判である。

 

 ここで、興味深いのは、スクールアイドルにならない侑に加えて、最初は「裏方」として、スクールアイドルフェスティバルと文化祭の共同開催の成功に向けて紛争していたものの、スクールアイドルに転身した三船栞子の存在である。栞子は、スクールアイドルになった後も、生徒会長として「裏方」の仕事も続けている。

 

 栞子的な法務のあり方は、ビジネスパーソンであることを強く打ち出し、同じプロジェクトに入った上で、法務的な知識や経験を生かしてプロジェクトがより良く進むように貢献する存在である。例えば、事業部門に法務担当者がついている場合の法務担当者等は組織的には*11これに近いだろう。

 これに対し、侑的な法務のあり方は、法務とビジネスとの間で一線を画した上で、それでも、パートナーとして共に歩むという姿である。法務の仕事はビジネスそのものではない。だから、侑は最後までスクールアイドルにはならず、ステージでは歌わない。しかし、同じステージの違う場所でピアノを弾く(8話)。ビジネスが活躍するステージ。それと同じ時間に、近くで自分も活躍する。確かに、全く同じステージの上ではなく、後ろで伴奏としてピアノを弾いている。でも、バックオフィスにも、舞台と同様に光が差し込み、協力の輪も広がる。ビジネスと法務は目標を同じくするものの、法務とビジネスでは付加価値の発揮の仕方が異なる、というのが侑の示した「答え」なのである。

 もちろん、会社によって、または人によっては、栞子的な法務を実践する人もいるだろうし、栞子的法務と、侑的な法務は同じ人の中でもそれぞれの要素があるという形で、二律背反ではなく、あくまでも模式図的なあり方に過ぎない。

 しかし、いずれにせよ、「中途半端なのって見ててイライラする」(5話)という嵐珠の言葉もあるように、自分としての「軸」を見つけて、その軸に従って、自分の考える法務のあり方を実践していくべきである。

 

4 支援型リーダーシップ

 かすみは部長であるが、自分が部長であることを分らせようと、リーダーシップを発揮しようと同好会で旅行に行って色々と試行錯誤する(10話)。かすみが考えていたリーダーシップの発揮方法は全て失敗に終わったものの、周囲としてかすみが部長にふさわしいことを認めていることが再確認できた。

 かすみは、いわゆる支援型リーダーであり、同好会のみんなが楽しめるように、いろいろな手配をして支援をする。もちろん失敗や思うようにいかず「ぐぬぬ」となる局面もあるが、それも含めて同好会のみんなが「かすみさんがいるだけで同好会がとても華やぎます」(by栞子)等と高く評価している。

 もちろん、トップダウンのリーダーシップもあり得る。ただ、組織ごとに、そしてリーダーごとにあるべきリーダーの姿は変わり得るところ、かすみの支援型リーダーの姿は、1つのリーダーの姿としてロールモデルになり得るだろう。

 

5 トキメキ

 法務には、「常に勉強をし続けなければならない」というプレッシャーがある。

この辺りは、「法務だけではなく全ての分野でそうだ」というツッコミもあるところであるが、法務の分野の知識の陳腐化の速度(エスカレーターの速度)の速さは特徴的である。

 その中で、トキメキというのは重要だと考える。輝く「推し」の姿等を踏まえ、自分も前進したいという向上心なくして法務として成長しないどころか、むしろ下降していくだろう。法律にトキメくことは必須ではないが。

 そして、頑張りを続ければ、最後は自分にも「晴れ舞台」がやってくることがあり得る。スクールアイドル同好会の単独ライブで、侑は、スクールアイドルの上原歩夢に手を掴まれて、ステージに引き上げてもらう(13話)。

 法務の「晴れ舞台」が何かは人によるだろう。会社の中の花形案件に関与して社長賞をもらう、昇進するといった社内での活躍かもしれないし、社外での登壇・公刊・Twitterスペース等かもしれない。何であれ、コツコツ努力していれば必ず花開く。

 トキメキは広がっていく(13話)。そう、次は「あなたの番」(by侑)である!

 

第2 ラブライブ!スーパースター!!

 ラブライブ!スーパースター!!は、私を叶える物語、つまり自己実現の物語である。ラブライブ東京予選2位で敗退した当時一年生の渋谷かのん達のスクールアイドルグループ、Liella。彼女達は、一度も1位を取ることができないまま、2年生になった。そう、1年生の後輩が入ってくる時期が来たのである。

 

1 後輩指導の難しさ

 3年目以上の法務になれば、「後輩を指導してやってくれ」という話が必ず出てくる。これほど難しいことはない。

 後輩とのレベルの差があるのは当たり前であり、特に最初は「圧倒的」な差がある。むしろ問題は、それを前提にどうやっていくのかである。

 一定の経験を有している普通にやっている日常のルーチン。例えば、法律相談業務、契約審査業務、プロジェクト等々。これらはいわゆる案件の「回し方」を覚えれば、「はいはい、例のあれね!」で終わるのであるが、新人にとっては、その1つ1つが新しく、はるか高く聳え立つ「壁」のように感じてしまう。

 だからこそ、いかに新人に心理的安全性を持って学んでもらうかが大事である。自分のペースでやるべきで、無理が一番良くない、と言っても当然焦るのが新人。単にレベルを下げれば良い、という話ではない(2話)。むしろ、先輩としては、その焦りを前提に、安心させるための対策を講じるべきである。

 例えば、2年生の唐可可は、体力がない桜小路きな子を安心させるため、自分の入部当時の体力ないエピソード等を語って、新人時代に立ち戻って安心させる。

 また、それぞれのキャラクターに応じた後輩指導も重要である。自信がない後輩に対し、まずは先輩のやったのを見せて、意見をもらうとか、先輩が悩む姿をあえて見せることで、後輩の奮起と自律を促す等々(10話)。

 必ずしも、一人の後輩に対する「成功事例」が全員に対してうまくいくものではない。そうではなく、きめ細かくその後輩のパーソナリティーを見ながら、試行錯誤しながらフィードバックをかけて修正していく。

 ラブライブ!スーパースター!!には、「後輩指導に悩める先輩の等身大の姿」があるのだ!

 

2 ステークホルダー

 突然ラブライブ!予備予選に登場して、前回優勝のサニーパッションを予備予選落ちに追い込み、「本物の歌」を教えると言ったウィーン・マルガレーテ。ここでいう、何が「本物の歌」(10話)かは、「ステークホルダー」論である。

 ウィーンのような、あくまでも自分が満足する歌を追い求めるというのは、ステイクホルダーの利益を考えない、視野狭窄に陥った考え方である。

 やはり、かのんが周囲と共に歌い上げる歌で予選を突破し、ウィーンを東京予選2位で落選させることで示したように、自分だけが良ければそれで良い、という考えではダメであって、グループの全員、観客、ファン、同じ学校の関係者等々の多くのステークホルダーの利益を考えるべきである。

 そして、それは会社でも同じである。その時点では自社にとって最善のように思えても、それが従業員、取引先、環境(周辺住民)等のステークホルダーの利益にならなければ、長期的な発展はおぼつかない。まさに法務は、ウィーンのような誤りを避け、かのんのようなステークホルダーへの配慮を示すべきである。

 

3 ビジネスにいる法的リスク感覚に優れた人との連携

 企業における法務機能の実現は、法務部門だけではおぼつかない。例えば、コンプライアンス的に問題がある事態があっても、それが法務に連絡がなければ、法務が知らないまま事態が悪化し、最悪「訴状が届きました」とか「不祥事をマスコミが報じています」という段階で初めて法務が認知するということにもなりかねない。

 そこで、平安名すみれのような、ビジネスにいる法的リスク感覚が優れた人の存在というものがとても大事である。すみれは「ショービジネス」の世界に長くいた。そこで、鬼塚夏美が持ちかけた、「夏美がLiella!をプロデュースして動画を撮影し、プロモーション活動を行う。動画の広告収入は全部夏美のもの」という契約の怪しさを感覚で分かっている。そのようなすみれのリスク検知がきっかけに、夏美をLiella!に取り込むことで、混同によって契約を消滅させる、という法務対応が実現した。

 法務だけが法律知識を持っていればいいのではなく、ビジネスの法的リスク感覚を涵養していくことも、法務の重要な仕事である。

 

4 自己評価と他者評価

 Liella!は期待されながらも、一位を取れない時期が長く続いた。特に、期待された2回目の代々木スクールアイドルフェスでは、ウィーンに1位を奪われ、特別賞をもらっただけ。意気消沈していたメンバーに対し、七草ナナミ、ヤエ、ココノ達が「Liella!はこの学校のスーパースターなんだよ」「いつか一番輝くって信じてる」「だからこれからも優勝目指してほしい」と口々に高い評価を伝え、励ます(3話)。

 これはタイトル回収回として名作というだけではなく、自己評価と他者評価の乖離という重大な問題を提起している。自己評価と他者評価は理想的には同一であるべきである。自己評価が他者評価と比べて過剰に低いとモラールに問題が生じたり、やった方がいい挑戦をしないという状況が生じ得る。逆に自己評価が他者評価と比べて過剰に高いと、何もできていないのに自分はできていると勘違いして周囲に迷惑をもたらす。

 だからこそ、周囲とのコミュニケーション*12の中で、自己評価と他者評価をすり合わせていく

 客観的にはスーパースターなのであれば、周囲はきちんと「あなたはスーパースター」だというべきだし、逆も然りである。

 

5 自己実現と周囲の助力

 転職が容易な法務。自分の将来像を想定しながら、留学等を含む社内・社外の複数のキャリアの可能性を踏まえ、戦略的に動くことで自己実現が可能となる。そして、上記のとおりラブライブ!スーパースター!!は、「私を叶える物語」、つまり自己実現のストーリーである。

 かのんは、ウィーンへの留学を持ちかけられ、最初は断った。しかし、ウィーン等の周囲と話して熟考をする中で、最後は留学に行こうと決意する。かのんの幼なじみである嵐千砂都は、本当は一番かのんと一緒に過ごしたいはずなのに、あえて、「私たちがかのんちゃんの夢を叶えるチャンスを奪ったんじゃないかって、みんな後悔するんじゃない?」(12話)と、かのんの留学の背中を押しにいく

 周囲よりも突出した才能を持っている人の自己実現は、その突出したものを伸ばそうとすると、必然的にコンフォートゾーンから離れていく必要が生じる。だからこそ、周囲が背中を押す必要がある。この点は、虹ヶ崎学園スクールアイドル同好会の歩夢の留学のところでも出てきている点であるが、 「自己」実現であるが、そうだからこそ、周囲の助力が不可欠である。

 

第3 まとめ

 2作品の法務に役に立つところを5つずつポイントを絞って説明してきたが、クゥすみとか、嵐珠の成長等、すごく良いが紙幅の関係で省略したところは多い。是非皆様も、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2期とラブライブ!スーパースター!!2期をご覧いただき、自分なりに法務に活かせるところを見つけて頂きたい。そして、是非経営アニメ法友会 ラブライ部会の活動にご参加頂きたい!!

 

なお、2023年にはにじよん(ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会スピンオフ)と、幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR(ラブライブ!サンシャインスピンオフ)が予定されている。次のラブライ部会活動が始まるのです!

 

ということで、明日16日の表は「真打」経営アニメ法友会ちくわ会長の登場です!また、裏はななみさんの「アラサー非法学部未経験者が法務を3年やってみたらちょっとだけ自信が持てた話」です。楽しみにしましょう!!

*1:経営法友会、JILA、INCA、経営アニメ法友会

*2:他の団体の会員であるかは黙秘します。

*3:法務にも役立つゲーム紹介|tku|note は、個人的にはゲーム部会活動だと考えている。

*4:世のラブライバーの皆様にとっては、突っ込みどころ満載だと思いますが、お許しください..。

*5:なのかは異論があるかもしれない

*6:なお、単に虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が目指していないというだけで、他の高校がラブライブ!の優勝を目指す姿は描かれている。

*7:原作的なゲームの「プレイヤー」

*8:ほぼ弾けません。きっと青春が聞こえるとかがやっとです...。

*9:

https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220808001/20220808001-a.pdf 等参照

*10:結果的に同好会のまま「部」にはならない(11話)ことになっているが、部長がいる。

*11:そのような組織構成だからといって、当該担当者がそういうメンタリティであるかは別の話である。

*12:正規の評価面談以外の機会も含まれるし、むしろそのようなフランクな場のコミュニケーションの方が固い評価面談よりも適切かもしれない

『若手弁護士からの相談』シリーズ第三弾出版の宣伝&若手弁護士・若手法務パーソンのための難局を打開するための5つのポイント

『若手弁護士からの相談』シリーズ第三弾出版の宣伝&若手弁護士・若手法務パーソンのための難局を打開するための5つのポイント

 

これは法務系Advent Calendar 2022の2日目の記事です!

adventar.org

 主催者のkanegoonta様からバトンを引き継ぎました!

 

kanegoonta.hatenablog.com

 

 第1 『若手弁護士からの相談』シリーズ第三弾出版の宣伝


 『若手弁護士からの相談』シリーズについては皆様にご好評頂き、2022年には私(Ronnor)も主要メンバーに入れて頂き、第二弾である『若手弁護士からの相談203問』を出版することができた。

 

ronnor.hatenablog.com



この度、2023年初頭に『若手弁護士からの相談』シリーズ第三弾を刊行することになった!第三弾においては、京野先生とRonnorという第二弾のメンバーのみならず、dtk1970先生に加わっていただくことで、より強い布陣で臨むことができたと考えている。


 元々、2022年のリーガルアドベントカレンダーでは、若手弁護士・若手法務パーソンのため、『若手弁護士からの相談374問』『若手弁護士からの相談203問』では解決できない課題、主に法律以外の課題を解決する方法を説明する原稿を書こうと考え2022年の正月休みに法務の大先輩であるdtk1970先生にレビュー頂いていた。

 しかし、それが相当まとまった原稿になったことから、『若手弁護士からの相談203問』で大変お世話になった京野先生にご相談させて頂き、出版社にお願いしたところ、企画を通して頂いた。概ね「『若手弁護士からの相談374問』『若手弁護士からの相談203問』では解決できない課題、主に法律以外の課題を解決する方法をQ&A形式で説明する」本であるが、具体的なタイトルや詳細については、来年別途告知させて頂きたい!

その上で、以下では若手弁護士・若手法務パーソンのための難局を打開するためのポイントを5つ紹介したい。以下の内容は、第三弾の内容を簡略化したものであり、より詳細な説明は第三弾の書籍版を乞うご期待!!

 



 第2 若手弁護士・若手法務パーソンのための難局を打開するポイント5選



1 はじめに

 若手弁護士・若手法務パーソンは、頻繁に難局に直面する。この難局の打開のポイントを5個挙げたい。

 2 依頼者に「黒を白にしろ」と言われた(弁護士向け)!

弁護士にとって、「黒(違法)に対し白(適法)意見を書け」という依頼者の依頼は頭が痛いだろう。

 企業法務を前提とすると基本的には、「誰が『黒を白にしろ』と依頼しているか」がポイントになる。①依頼者の法務として難しいと分かっているもののビジネスが要求している場合と、②法務としても適法意見を欲しい場合である。

 ①法務として難しいと分かっているがビジネスがそのようにいうので依頼する場合は、ビジネスがこだわっているところ、法務限りで「止める」と法務が「悪者」になってしまう等の状況があり得る。そうであれば、弁護士としては、法務が「悪者」にならないようにサポートすればいい。典型的には、ビジネスと法務と顧問弁護士の三者の会議を設定し、法務として「是非是非適法にして欲しい」と食い下がるものの、顧問弁護士がそれを拒むというような演出をする方法が考えられる

 より難しいのは、②法務としても適法意見を欲しい場合である。例えば、法務は「白でない」でことは理解しているが、それでもなんとかビジネスを進められる旨の意見が欲しい場合がある。その場合の弁護士の立場は、具体的なリスクを踏まえ、最後は会社のご判断です」ということさえ憚れるかを判断すべきことになる。白ではない理由、それがもしブラック(違法)と公式に判断された場合のリスク等を検討することになる。例えば刑罰法令にも触れる内容で、そのようなことを行えば、会社のレピュテーションが大きく下がる場合、場合によっては直接面談の上で、その旨を言葉を尽くして説明するしかないだろう。

 3 依頼部門・依頼者に迅速対応を迫られている(弁護士・法務パーソン双方)

 依頼部門・依頼者から迅速対応が求められ、「もっと早く」「もっと早く」というプレッシャーに悩んでいる人も多いだろう。ポイントは真の意味のスピードは一定の時間がかかる反面、「スピード感」があればある程度満足してもらえるということである。

 そもそも、依頼事項や質問内容に関する専門知識が今自分の頭にあれば、それをそのまま回答することで、実質的な回答を迅速に行うことができる。これが真の意味のスピードの話である。しかし、そのような真の意味のスピードを一定以上早めることは困難である。例えば、一定以上専門的であれば別の人(先輩・上司や法務パーソンであれば顧問弁護士)に聞く必要があるだろう。

 これに対し、「スピード感」はこれとは異なる。依頼者・依頼部門として、長期間放置されたと感じてストレスを受けたりイライラすることはよくある。そこで、受領した旨をすぐに伝えるだけで、かなり好感度が上がる。この場合、なすべき対応の内容と期限の明示を行い、今後あり得る事柄(不明点の確認等)を明らかにして、「ロードマップ」を示す。
 この場合、以下の3点が重要である。
 1つ目は、直ちに上司と対応を協議すべきではないかの確認をすべきである。「超ヤバい案件」が「しれっ」と若手法務パーソンのところに来ている場合、普通に「レビューしておきますね」というべきではない。まずは上司と情報を共有すべきである。
 2つ目は、本当に作業が開始できるだけの材料が揃っているかの確認をすべきである。成果物と期限と費用を事前に確認することが基本であるが、レビューの対象の契約書や資料等を全て受領したか(添付漏れとか「引用された見積書・約款等がない」等の確認、スキャンミス(例えば両面印刷の資料の片面しかスキャンされていない)によるページ抜けの有無の確認)、ファイルにパスワード等が掛かっていないか(納期直前にパスワード送付をお願いすることの「気まずさ」と言ったら…。)、メールの下の方が文字化けしていないか(「以下のやりとりをご参照ください」といわれて最初は読めても、下の方が文字化けしているパターンがある)等も確認すべきである。
 3つ目は、誤送信等の単純ミスを避けるということである。例えば、CCのところに間違った人が入っている場合にそのまま返信すると自分自身もまた「誤送信」をしたことになりかねない。

4 答えがない問題に対する答えを求められる(弁護士向け)

 例えば、新しい問題で判例等がない場合等が「答えがない」問題の典型である。この場合、依頼者の意図として、①ある意味では答えがある場合、②依頼者も答えがないと知らない場合、及び③答えがないと分かった上で質問をしている場合に分かれるだろう。

 ①ある意味では答えがある場合として、「白か黒か」という意味でクリアに答えが出なくても「グレーの濃さ」は示すことができる場合が挙げられる。例えば「特定のビジネスモデルのままだとグレーの色が濃いが、それをこう修正すると、かなり白に近くなる」といった対応が可能なことがある。そこで、依頼者には「グレーの濃さ」を示す程度しかできないがそれで良いかを確認し、進めるべきであろう。なお、それが本当に「新しい、答えのない問題」である限り、「真っ白」という回答は難しく、せいぜい「(ビジネス判断として受容することも考えられる程度に)白に近いグレー」であるという回答しかできないという点には留意が必要である。

 ②依頼者として答えがないと知らない場合として、依頼者が、答えがあるとか、その先生なら答えを見つけてくれると誤解している場合が挙げられる。この場合、できるだけ早い時点で、そのような依頼者の期待する「答え」を見つけることは難しい旨を伝えるべきだろう。

 ③答えがないと分かった上で質問をしている場合とし、弁護士の先生に尋ねたものの、弁護士の先生もわからなかった」という答えを期待している場合が挙げられる。例えば、経営者が法的に到底不可能なことを可能にする方法があるはずだ等の無理難題を言うと言った際に、法務部門として顧問弁護士に「そのような方法はない」という回答をもらい、経営者を説得することもあるだろう。この場合でも、依頼者に対し、そのような趣旨の質問なのかを確認するのが良いだろう。

 5 法務・弁護士が「大丈夫」と言った等、言った言わないのトラブルを避けるには(弁護士・法務パーソン双方)

 言った・言わないというトラブルはよく見られる。このリスクを回避する方法としては、コミュニケーションの内容をメールやビジネスチャット等の後に残る方法で共有することが考えられる。

 すなわち、対面、電話、Web会議等でのやり取りについては、会議議事録等が作られることもあるが、そのようなフォーマルな記録が毎回作成されるものではない。そのような記録がない場合に、後から「この会議で大丈夫と言われた」等と、身に覚えがないことを言われることがある。

 実務上、ある事項について相談を受けてから、関連相談がかなり後から来ることもあり(ビジネスモデル相談から契約レビューの依頼まで時間がかかる場合や契約段階で相談を受けた後、しばらくしてトラブルになってから相談を受けることもある)、その際に、「かつてこのような適法意見を頂いている」等と言われて戸惑うこともままあるところである。

 そのようなトラブルに対する対応としては、会議等の直後にコミュニケーションの内容をメールやビジネスチャット等の後に残る方法で共有することが考えられる。例えば、会議中に要旨をメモしておいて、それをメールやチャット等に貼り付けて「本日の議事メモです」と言って送っておけば、後で問題となってもその記載こそが自分を助けてくれる「証拠」になる。

 その際は、後から検索しやすい標題にする等の工夫が重要である(チャットの場合には後からの検索に難があり、このような目的を実現する上では各チャットアプリの仕様に応じた工夫が必要である)。また、自分の手元にメモをしておくことも一定程度有用ですが、相手との共通認識を形成して誤解を避けるという意味では、手元のメモよりも相手にメールやビジネスチャット等で送付することが望ましい。



6 会社・事務所におけるキャリアの発展の見通しが暗い(弁護士・法務パーソン双方)

 このような悩みを持つ弁護士・法務パーソンは多いが、自分が要求と期待に応えやすいところに行く可能性を持つために、特に転職を考えていない現段階から市場価値を考えるべきである。
 すなわち、会社・事務所で高い評価を得るためには、現在の要求と将来の期待が重要である。しかし、会社・事務所が要求し、将来的に期待することと、自分自身がやりたいことが本当にマッチするか、というのは常に存在する重要なリスクである。自分でチャンスをもらうために頑張ることで改善する余地はあるが、100%思い通りのキャリアになることはないだろう。加えて、いわば「評価者ガチャ」のように、評価者が変に偏ったりする危険があり、そうすると、これまで頑張って評価を高めてきたにもかかわらず、「新しい上司が異動してきてゼロ評価になる」といった場合もある。

 だからこそ、「今の場所における現在の要求と将来の期待に応える」という選択と「場所を変えて自分が要求と期待に応えやすいところに行く」選択を常に比較し、熟慮の末、場所を変えた方がいいと思えば、変えるべきである。そして、そのような選択をしやすくするため、特に転職を考えていない現段階から、会社外・事務所外の価値(市場価値)を考えるべきである。
 例えば、自分が付加価値を上げたつもりが、その付加価値というのが、今の勤務先でしか有用性のないものだったとしよう。例えば、直属の上司が気難しい人で「その上司の機嫌を取る」ことで価値を上げるといったものである。しかし、それは残念ながら他社では通用しない。そのような他社で通用しない能力だけを高めた場合、市場価値はゼロと評価されるかもしれない。だからこそ、社内の価値と社外の価値を双方上げることが大事である。市場価値を上げ、いわば「逃げ道」を作っておくことで、精神的にも安定できる、という効果も期待できる。
 なお、「熟慮」が必要だ、ということは逆説的に言えば、「正常な熟慮すらもできないような環境」は辞めるべきだ、ということも意味しする。例えば、忙しくて転職を考える時間もない、と言った場合、「石の上にも三年」のような、昭和の考えを励行するよりは、「逃げる」方がいいことが多いだろう。

 

法務系Advent Calendar 2022には裏もあります。

adventar.org

本エントリの「裏」として、dtk1970先生が記事を書いてくださっています。

dtk1970.hatenablog.com

客観的事実関係に概ね争いはないものの、評価については争い(dtk1970先生の買い被り過ぎ?)がある事案、と評することができるのではないでしょうか。

 

そしてdtk1970先生こそ、法務系Advent Calendar 2022の3日目の担当者でもあります。裏から表と、2日連続で大変ですが、頑張ってください!!

 

 

2冊目の商業出版です! 『Q&A若手弁護士からの相談203問 企業法務・自治体・民事編』

ついに2冊目の本が出版されました!!

1 1冊目と打って変わって「真面目路線」に

 このブログを約20年前から見てくださっている方からすると、「あの大学生が真面目な本を出すようになったか」、と隔世の感を覚えられるかもしれないが、2011年の1冊目の商業出版である『アニメキャラが行列を作る法律相談所』からは大幅に真面目な法律実務書を出版させて頂くことになった。

 2011年に1冊目の商業出版をさせて頂いた後、Business Law Journalにおける辛口書評連載等、公的な活動もさせて頂いていたものの、なかなか商業出版ができていなかった。2022年と10年以上間隔が空いたものの、ついに2冊目の商業出版をさせて頂き、大変感慨深い。

 

2 京野先生との出会い

 本書に関してなんといっても感謝しなければならないのが編著者を務めて下さった京野先生である。

 そもそも、本書には『Q&A若手弁護士からの相談374問』という先行する第一弾の書籍がある。

 同書をBusiness Law Journal2019年8月号(No. 137)122頁の「辛口法律書レビュー」で批評したのが全てのきっかけであった。京野先生から、このレビューに対して高い評価を頂き、第二弾に参加して欲しいという大変光栄なお申し出を頂いた。

 その結果、第二弾は企業法務・自治体・民事編となり、最終的には、「企業法務」で頭を悩ませるような具体的な問題172問について私が文責を務めることとなった。

  なお、本書はいわゆる法律事務所所属の若手弁護士を想定読者とした1冊目(『Q&A若手弁護士からの相談374問』)の後継であることから、「読み手の目線」としては、法律事務所所属の若手弁護士を想定した記述にはなっている。

 但し、内容面については、法務パーソン(インハウスかを問わない)にとっても役に立つものにしようと頑張っている。

 よろしくお願いします!!

 

 

 

 

 

 

江頭差分が不要になった!? リーガルリサーチの最新「スタンダード」を探る

ーLegal Library、Business Lawyer’s Library、Legal Scape及びLionBolt串刺レビューー

 

 

これは、法務系アドベントカレンダー2021年度の12月18日のエントリーです。ハードルを上げに上げた柿沼先生からバトンを頂戴しました*1!

 

adventar.org

なお、12月12日には「裏」で法務系アドベントカレンダーの記事を書いております。

 

ronnor.hatenablog.com

 

 

第1 はじめに

1 お詫び

 まずはお詫びから始めたい。つまり、長年の「伝統」である、江頭憲治郎『株式会社法』改訂箇所エントリを、第8版では断念する、ということである。その理由は、江頭「差分」と呼んでいたこの改訂箇所確認の目的が、「頭の中に索引を作り、実務上問題に行き当たったらすぐに該当箇所を引けるようにする」ということにあったからである。その観点からは、既にこの問題が解決してしまった(第3の5参照)以上、断念する他ないということである。

ronnor.hatenablog.com

ronnor.hatenablog.com

ronnor.hatenablog.com

ronnor.hatenablog.com


2 法務パーソンのための「リーガルリサーチ」のコツと、リーガルリサーチツール3+1種レビュー


  そのような中で、以下では法務パーソンはどのようにリサーチを行うべきかという論点について、私見を総論(第2)と各論(第3)に分けて説明して行きたい。
 第2では、「リーガルリサーチは超重課金ゲーム」を旨とするリーガルリサーチのコツに関し、私が約10年の法務経験で自分なりに考えてきたことを公開したい。これまで #リーガルリサーチ タグで呟いた内容を踏まえ、大幅に加筆してまとめた。
 第3では、Legal Library、Business Lawyer’s Library、Legal Scape及びLionBoltを比較してみたい。

 

第2 法務パーソンのための「リーガルリサーチ」のコツ


1 ググればいいのか?


 「Googleによって知識はコモディティ化した」という言説がある。しかし、①有料データベースや図書館等にしかない情報があること、②仮にある情報がネット上にあっても、漫然とGoogleで検索しただけでは探し出せないことの2点に留意が必要である。  

 Google自体はうまく利用すれば、確かにリサーチに活用できる。しかし、たくさん存在し、適切に組み合わせるべきリサーチ手段の1つに過ぎない。現代において、検索エンジンやデータベースを利用して、法律に関する的確な知識を引き出すリーガルリサーチ能力の重要性は、増大しこそすれ、減りはしない。

 

2 法務パーソンにとってのリーガルリサーチの重要性

 

 法務パーソンの中には、リーガルリサーチを重視しない人もいるだろう。

・忙し過ぎてそんな暇はない

・リーガルリサーチをしても結論は変わらない

・もし必要なら顧問の先生にお願いすればいい

 等、一見「もっともらしい」、やらない理由はいくらでもつけられる。

 しかし、ネット上の情報でも書籍・論文の情報でも、なんなら弁護士先生との法律相談でも、「間違っている」情報が多い。ここではあえて、カッコ付きの「間違っている」としている。

 例えば、「最高裁は特段の事実がない限りAの場合にはBだとした」としよう。その場合、普通は「AならB」なのであって、そのような説明はむしろ「正しい」。しかし、法務パーソンが「一般論」を知る必要があることはほとんどない*2。基本的には個別具体的な状況に応じた「Aなんだけど本当にBなのか」が問題となっており、例えばその状況によっては「Aだけど特段の事情があるのでBにならない」ということも十分にあり得る。そして、「本件」でどうかのみが事業部(社内クライアント)が知りたいことであり、本件の結論(リスクの程度が高い/低いとしか言いようがないことも多いだろうが)こそが重要である。その観点からすると、きちんと「本件」に適用するという意味において、その情報が「間違っている」情報ではないかの検証は、法務パーソンにとっての必要な能力であり、その検証はリーガルリサーチによって行う以上、リーガルリサーチは大変重要である。

 このような「理想の法務パーソンが「特殊解を見つけることができる人」という話は、経文緯武先生のリーガルアドベントカレンダー記事にもあった。

tokyo.way-nifty.com  


3 3種類のコスト

 

 本当にリーガルリサーチをやりたくない根源的は何か。私はリーガルリサーチはコストがかかるからだ、と考える*3


(1) 金銭的コスト

 「リーガルリサーチは超重課金ゲーム」である。基本無料である程度面白い文献も読めるが、それでは絶対「課金勢」に勝てない。雑誌・書籍を買うか、データベースにお金を払うか、図書館等でコピー代を払わないと入手できない「レアアイテム」を読んで初めて文献調査が完成する。

 しかも「ガチャ」制度も導入されており、Amazonで買った書籍が「お金の無駄」だったことは枚挙にいとまがないところである。最近はソシャゲでは「天井」、つまり一定の額を注ぎ込めば必ず欲しいアイテムがゲットできる制度が導入されてきているが、リーガルリサーチにはその制度がない*4

 

(2) 時間的コスト

 しかも、その調査は、基本的には自分の時間を削って行うことになる。もちろん、昔と異なり、(データベースの対価を払い、Kindle化された本をKindleで買えば)かなりのリサーチがオンライン上で実施できるようになってきた。

 ただ、それだけではリサーチが完結しない。つまり、未だに紙の雑誌や紙の書籍を書店や図書館で入手する必要があり、それには時間がかかる。

 加えて、後述のとおり、「芋づる式」に増える、例えば、Aという文献を読むとBという文献を調べる必要があることがわかり、Bという文献を読むとCという文献を調べる必要があることが分かる等として、どんどん戦線が拡大していくことも、時間がかかる理由である。

 

(3) 労力的コスト

 上記の時間に関するが、労力という側面もバカにならない。特に、徒労や空振りに終わることも少なくないため、そのような心理的なハードルにも立ち向かわなければならない。


4 「調べ切る」ことの困難性

  上記のようなコストが非常に負担に感じられる理由は、本当の意味で「調べ切った」といえることがあり得ないからである。極端な話「実は韓国のシンポジウムで重鎮先生がその問題についてスピーチをしており、韓国語の原稿がネット上からダウンロードできた」レベルを含めた「完全網羅」は事実上不可能である。

 

5 この不都合な事実を前提としてどうするべきか?

 ここまで、概ね

①情報は誤っている

②でも、自分で検証しようとするとコストがかかる

③コストがかかるだけではなく、きちんと調べきって情報が誤りかどうか完璧に検証しきることはできない

 という「不都合な真実」を示してきた。

 

 では、どうすべきなのだろうか?

 

 私は、むしろ「調べ切ることはできない」という現実を自覚した上で、いかに「合理的に調べるか」を考えるべきだと考える。

 

 その観点からは、「石柱をまずは荒く削って人型を作り、その上で、案件に応じて顔が重要なら顔、手が重要なら手を重点的に整える」イメージでリサーチを行うのが適切だろう。「顔だけ頑張って整えたけど、結局『人魚』なのか『人』なのか分かりませんでした」では話にならないし、クライアント(社内クライアントも含む)のニーズは単に「今すぐ大きな方向性だけ教えて欲しい」というもののことも多い。その要請を忘れて削り込むのは単なる「趣味」であって「仕事」ではない。

 そこで、「合理的コストでに合理的な結論を得る」ことを目的としたリサーチこそが、法務パーソン*5の目的とすべきリサーチだということになる。

 もちろん、趣味で「推し論点」を調べること自体はあり得ると考えるが、そのような「調べることそのものを目的とするリーガルリサーチ」は以下では検討対象としないこととする。

 

6 正しいリサーチの始め方

(1) 「あたり」をつける

(a) 車輪の再発明を避ける

 以上を踏まえた合理的コストでに合理的な結論を得るリーガルリサーチのためには、 最初に大きな輪郭を間違わないようにする、つまり、正しく「あたり」をつけることが重要である。

 その際は、車輪の再発明を避けよう。誰も考えたことのない論点が、たまたま自分の目の前に来ているなんてあり得ない。単に自分が知らないだけだ。*6

 そして、参考になる情報は、優秀な人がまとめたもの(だけ)である。「優秀な人ならこの問題をどのように分類するだろう?」と考え、どこに情報がありそうかを推測すべきである。

 

(b) 条文・判例・文献

 基本的には条文・判例・文献を調べることになる。そこで、その案件における条文・判例・文献に正しく「あたり」をつけることになるだろう。

 そのうち、多くの場合は、条文が起点となっていくだろう。ただ、条文は思いつかないが、こんな事案についての(こういうキーワードが出ている)判例があったかもしれない、というアプローチや、こういうタイトルやキーワードの文献があるかな、というアプローチもあり得る。

 

(c)何も思いつかない場合

 その分野に全く知見がない場合、どういうキーワードで検索すればいいかすら思いつかないこともあるだろう。その場合にはまさに「異世界」にいるようなものである。

 グーグル検索のみでリサーチが完結することはないが、基本的には、調べたいことを自然言語で入れると「それが世の中でどのような言葉で表現されているか」が分かり、その結果、より洗練された表現で調査をすることができるという「検索キーワード探し」が一番基本的な使い方である。

 Googleで、事案に関連するいろいろな表現をとにかく入れてみて、(法律の話かどうかはとも角)どういう議論がされているのかをザッと理解するのが実は早いことが多い。Googleで出てきた(法律とは無関係なものも含む)記事を利用することで、その話題についてどういうキーワードがどういう表現で用いられているのかというのを理解することは、その次のステップの(条文・)判例・文献検索の事前準備となる。

 なお、Googleで探したいキーワードに"pdf"を付けて検索するという技もあるが、それで出てくる、例えば紀要論文のPDF等が単なる「とっかかり」に過ぎず、到底網羅性がないことには十二分に留意が必要である。

 実際の調査の役にはあまり立たないが、いわば異世界の「案内」はしてくれるのがGoogleである。

 

(2) 調査対象はどこにあるかを知る

 正しく「あたり」をつけられても、調査対象がどこにあるかが分からないと、調査に入っていけない。

 

(a)条文

   誰しも自分のお気に入りの六法を持ってそれを使っているだろう。

 また、六法にない法令は、e-Gov法令検索の利用が標準的である。

elaws.e-gov.go.jp  但し、改正法の織り込み等は、一部は「沿革」を押すと対応しているが、不十分なところがある。

 その場合は、①商用データベース(例えば第一法規の現行法規)を利用する、②各省庁が公開する「新旧対照表」を読む等の対応が必要である。

 

(b)判例・裁判例

 裁判所HPを使わざるを得ないこともあるが、網羅性が非常に低い。

 そこで、通常は商用判例データベースを利用することになる。

 

(c)旧法・大審院判例

 中野文庫の旧法令や大審院判例等は多くの人が読むのに難儀する「旧仮名遣い」をしている。もちろん、慣れるとだいたい分かるが、慣れるまでは「韋駄天」*7を使って、まあなんとか読めるレベルの日本語にまで直してみよう。

 旧法令は「中野文庫」が参考になる。昔はジオシティーズだったがジオシティーズが閉鎖したので移転した*8。旧法令を読む際は、中野文庫のデータを、韋駄天で現代語化するのが楽。ただし、国立国会図書館デジタルコレクション*9でしか探すことができない法令もある。


(d)文献

 文献は、ci.nii

ci.nii.ac.jp

 NDL

ndlonline.ndl.go.jp


  商用データベースの文献検索(第一法規の「法律判例文献情報」等)で検索することになるだろう。

 

 なお、 商用データベースの文献検索はあまり使っていないが、例えば、ci.niiだと理系等全く無関係の論文が大量に出るような学際的分野について「法律系のみ集めたい」というニーズには合致している。


7 実務上のドリルダウンの方法

(1) はじめに

上記6で、正しい方向に調査を進める準備はできた。さあ、調査を開始したら、どうやって、「目標」に向けて調査を進めていくかを検討しよう。

 

(2)条文からのアプローチ

(a) 条文をリサーチの起点にする

 条文がある場合、まずは条文をリサーチの起点とする。

 法務実務では、最終的に特定の条文の解釈・適用に収斂することが多い。そうすると、「これって、何か関係する法令があるのではないか、その法令の関係する条文は?」という観点で探すことで、正しいリサーチの起点に早期に立つことができ、「明後日の方向に飛び立って、お金も時間も労力も失う」という悲しい結果を可及的に回避することができる。

 基本的には、その条文の国語的意味を元に、まずは問題となっている事案をあてはめてみる。そうすると、①条文の文言が曖昧で解釈が必要になる部分や、②まだ確認・検討できていない事実関係が問題となるだろう。この①について調査をしていく訳であるが、同時に②についても事実確認が必要である。

 

(b)その条文でいいのか?

  ここで、パンデクテン体系の影響により、これだと思った条文の周囲だけではなく全然違うところに関連条文があるかもしれない。そこで、視野を広く持ち、色々な可能性を考えるべきである。

 慣れていない場合には、関連条文が豊富な六法や法令データベースを活用することも考えられる。

 

(c) コンメンタール

 問題となる条文がわかれば、実務では次にコンメンタール・逐条解説に行くのが手っ取り早いことが多い。その条文のその文言に関する判例と学説が要約されているので、問題の概要ないしは大枠を理解することができる。ただし、これはあくまでも調査の「始まり」に過ぎない。

 

 一応私の代表作の一つに『大コンメンタール失火責任法』がある。

 

mu4neta.hatenadiary.org

(3) (裁)判例からのアプローチ

(a)(裁)判例リサーチ

 その条文の問題となる文言の解釈に関する判例があれば、その判例の解釈を踏まえなければ正しいリサーチをすることができない。

 上記のとおりコンメンタールを見ると判例が出ていることが多いので、それを読むというのは1つの方法である。

  そうでない場合における条文からの判例リサーチにおいて、データベースの提供する「条文番号検索」機能は有益であるが、全部を網羅していない。つまり、条文番号が条文番号として認識されていない裁判例が結構ある。そこで、例えば「X法」と「●条」を検索すると、条文番号検索よりも多く出て来ることが多い。

 

(b)キーワード検索

 条文からリサーチできない場合においては、キーワード検索が一般的である。

 まず思いついたキーワードで判例検索をし、その上で、出て来る数が多すぎればより絞り込む(キーワードを増やしてアンド検索等)、少なすぎればより上位の概念で検索する等の調整をし、トライ&エラーで探していくしかないだろう。

 

(c)調査官解説

 最高裁判例があれば、その調査官解説を探すところまでがセットである。基本的には、

・ジュリスト誌上に「最高裁時の判例」が掲載

・法曹時報上に掲載

・書籍出版

という時系列なので、新しい最高裁判例であれば、ジュリストを調べることになるだろう。

 

(d) 複数データベースの利用

 また、1つの判例DBで出てこなくても他のDBに搭載されていることもある。この点は、既に大嘘判例八百選に「判例検索クロスレビュー」を寄稿させていただいた。

 

keisaisaita.hatenablog.jp

なお、サイ太先生のエントリとして、以下のものも判例検索の技法として参考になる。

keisaisaita.hatenablog.jp

 

(4)  文献調査

(a)  「芋づる式」文献調査

 条文がわかり、その法律に関するコンメンタールがあれば、そこで引用されている代表的な文献を収集して、これを読み込むことは王道であろう。

 ただし、(たとえコンメンタールでも)1つの文献が引用している文献を読んで調査が終わることはない。実際には、その文献に引用されている文献を更に読んでという感じで「芋づる式」に読むべき文献が増大していくことが多い。

 最近は博論についてウェブサイトで公開されることも増えているところ、「まともな」博論であれば、その前半にある学説のまとめ部分を読むと、コンメンタールよりも長めに学説をまとめており、参照すべき文献の網羅性も高いことから、有用性が高いことがある。

 そのような最初に読む文献が想定されない場合には、上述のci.niiでキーワード検索をすることが有益である。

 また、ある程度文献が豊富な分野であれば、商用論文データベースで串刺検索をすることも十分考えられる(但し論文データベースにある論文は網羅性がないことには十分に留意が必要である。)。

 

(b) site:go.jp

 政府の資料が相対的に信用性が高い*10ことを利用した技法が、


「キーワード site:go.jp」

 

である。検索結果が多いキーワードであれば、

 

「キーワード pdf site:go.jp」

 

と、PDFを入れる方法もある。類似のものに

 

「site:core.ac.uk」

 

検索や、google scholar等もある。

 

(c) Internet Archives


Internet ArchiveWayback Machineを利用すると、既に消えているものでも、探すことができる。


https://archive.org

 

(d) 「著者買い」

  複数冊の論文や本を読んで、良いこと(例えば、実務的文献なら「痒いところに手が届く記述」)を言っている著者であれば、「著者買い」もオススメしたい。特定の著者の書籍と論文を網羅的に入手すると、表題は違うように見えても実際には相互に関連し合う文献だったりする。

 

(5) 人に聞く

  ここまでは、自分1人で調査をすることを前提としているが、そもそも自分1人だけで対応しなければならない訳ではない。

「他人に聞く」というのは有益であり、同僚、上司、先輩、友人、知人、そして、監督官庁等に対し、うまく聞くことで、新たな情報を知ることができるかもしれない。もちろん、忙しい人に対してはきちんと礼儀を持った正しい聞き方をすべきである*11

 

(6)「信頼」できそうか?

  自分にとって「勘所がわからない」分野で、例えば調べたい事項がずばりタイトルにある本を買ってみたら、それはトンデモ本だったということは十分にあり得る。

 その信頼度を判断する重要なポイントは、「検証可能性」、つまり、本当なのかを検証できるかである。条文、判例、通達等、その議論の依拠するところを示していれば、そこから辿って検証することができる。

 これに対し、信頼ができない文献の場合には、例えば「●大教授がそういった」等と権威を使ったりするが、実際にその発言を辿ることができるような検証可能性が欠けていることが多い。

 いずれにせよ、自分で全く分からない分野であれば、上記(4)のとおり人に聞くのがいいだろう。

 

8 次のリサーチに備える

 リサーチをしたら「論理」と「根拠」の2つを整理し、いつでも取り出せるように保存しておくべきである。「論理」が理解できていれば、次の似た事案で「射程」を意識しながら同じ結論か違う結論か判断できる。「根拠」を押さえていれば、その判例・文献等に戻ってリサーチを深められる。

 

9 「少しの差」を蓄積する!

 最後に、上記のとおり、実務では、そもそも調べない人ないしは調べる時間がない人も多い(自戒を込めて)。その意味では、少し調べるだけで、他の人と少し差をつけられる。調査の習慣をつけ、「少しの差」を蓄積することで、何年後には「大きな差」になるはずである!


第3 リーガルリサーチツール3+1種比較!

1 はじめに

(1) 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」のレビュー

 リーガルリサーチツールとしては、判例リサーチツール(データベース)が代表的である。ただ、判例リサーチツール(データベース)の串刺しレビュー結果については、例えば上記の「大嘘判例800選」の寄稿記事をご参照頂きたい。

 以下では、新型コロナウイルス蔓延に伴う在宅勤務の必須のツールとなった、「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」である。もちろん電子書籍そのものは広まっており、例えば10冊本があるテーマであれば体感2冊くらいはKindle化されている感覚である。ただ、例えば、会社に置いている本を家でどうしてもリサーチに使いたくなって、kindleでダウンロードすると2倍の費用になり、いくら「ホンゲル係数エンゲル係数書籍版)の最大化」を目指していても流石に辛い。最終奥義「リボ払い」まで使ってやりくりしているが、そろそろ限界である。

 そこで、「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」では、破産回避のための「救世主」として、個人的に注目している。よって、以下、比較的ポピュラーな三種の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」と1種の異なる種類のツール(検索特化型)のレビューをしたい。

  ただ、2点だけ、この「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」そのものについての感想を先行して述べたい。

 

(2) 複数社を組み合わせる!

 出版社として「サブスクに出す」と決めた本は、結構3社の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」ならどれを使っても入っていることが多い。そこで、例えば2社を使っても書籍の数は2倍にはならない。

 ただ、私の体感では3社を並行して使うと書籍の数は約2倍になる。これだけで到底全ての文献は網羅されないが、「まあまあ」の感じにまではなる*12。そこで、負担は3倍(一番安いところと比較するともっと)になるものの、是非3社を全て契約することを勧めたい。多分法務パーソンなら、1社分くらいは会社でサブスクに入って費用を負担してくれていると信じたいので、もしそうであれば、負担は3倍にならないで済む。

 

(3) むしろ保管場所問題への救世主

 2点目としては、この「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」の多分一番のポイントは、「微妙な本」を買うかどうか迷わなくなるということである。もちろん、オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)には良い本も多数含まれており、例えば、我妻民法(LegalLibraryのみ)や注釈民法会社法コンメンタール(LegalScapeのみ)等は紛れもなく「良い本」である。ただ、それは既に買っているし、オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)を導入したからといって売るかといえば売らないだろう。

 とはいえ、そうではない「微妙な本」について、買わなくて良くなるというのが重要な役割である。

 図書館派のリサーチであれば、そもそも図書館に行って関連書籍を全部調べるのだろうが、私のような購入派であれば、関連書籍を全部買って大変な出費を強いられる。「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」があれば、まずは関連書籍のうち、サブスクで読めるものが何かを知り、「良い本か微妙な本かのアタリがつけられる」のである。これは最強である。そうすれば、「良い本と、サブスクに出ていない本だけを買う」*13ことで、リサーチが完成するのである。微妙な本は、必要に応じてサブスクで読めば良い。このような、微妙な本に関する「本の保管場所と本代が浮く」というのは、サブスクの非常に大きなメリットである。

 

 この点については、北先生のツイートが参考になるだろう。

 

(1)はじめに

  多分「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」で一番ポピュラーと思われる。

 

(2)いいところ

  純粋な法務だけの前提であれば、書籍のセレクションが相対的に良い。特に、社長が弁護士で、我妻民法等、社長が好きな本を入れている姿勢は評価できる。

  また、(BLと異なり)コピぺが可能である。そこで、調べた結果良い記述が発見できたら、コピペをするだけでOKである。文献情報もワンクリックである。


(3)ここは頑張ってほしい!

 上記は本当に良いのだが、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分がマークされないのは非常に痛い。つまり、例えば「認諾」で検索して、ある書籍のあるページが出てきたとして、そのページに「認諾」があること自体はわかるが、ではいったい「認諾」がどこにあるかは、「目視でくまなく調べないといけない」のである*14。ここはBLと比較してLegalLibraryのUIの差があるところであり、改善を期待したい。

 なお、商事法務の書籍がないのは、永遠の課題かもしれないが、奮起を期待したい。


3 Business Lawyers Library(BL)

(1)はじめに

  多分 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」で2番目にポピュラーなのではないかと思われる。

 

(2)いいところ

 先ほどのLegal Libraryの悩みである、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分がマークされないという問題がない。むしろ、検索したキーワードが当該ページで出てきている部分が黄色でマークされる。この点は直感的であって、高く評価したい。

 総務・人事を含めた「広め」のラインアップになっており、また、一部雑誌も入れている*15


(3)ここは頑張ってほしい!


 BLは書籍やタイトルをクリックしても直接書籍が開かず、一度書籍紹介のようなページに飛んで、そのページから「読む」を再度クリックしないといけないのが非直感的である。とりあえず検索結果のスニペット部分か書影をクリックすることで書籍が開くので、暫定的にこれで回避しているが、いかがなものか。

 コピペができないのもいかがなものか。最低限ワンクリックで書籍情報をコピーさせてもらいたい。

 なお、商事法務の書籍がないのは、永遠の課題かもしれないが、奮起を期待したい。

 

4 LegalScape

(1)はじめに

 商事法務の書籍が入っている2021年12月現在唯一の 「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」である。


(2) いいところ

 商事法務の書籍が入っている。

 (コピーは一応できる。)


(3)ここは頑張ってほしい!

 それ以外については、テキストをベースにしたUIが使いにくい。

 Kindleのリフロー型のような形で、それぞれのデバイスに適した形で情報を示す(例えば、スマホ用アプリ、タブレット用アプリを出す)なら、テキストベースは良いのだろう。しかし、特にそういう意味がないのであれば、LegalLibraryのように、固定レイアウトにした上で、コピペはできるようにする方が使いやすいと思われる。

 

5 LionBolt

  上記3種と異なるのが、「検索」だけに特化したLionBoltである。基本的には数百〜1000冊レベルの上記3種だと、例えば「江頭株式会社法等の必須の本がない(なお、一部は前の版しかない)」という状態になり、3つを組み合わせても「まあまあ」のレベルである。これでは、リサーチの網羅性が不安である。

  その中で、「3000冊の串刺し検索」を可能とするLionboltは、調査の網羅性の観点から極めて魅力的である。ステマっぽいけどステマではない記事を公表し、現在も利用を継続している。

 

ronnor.hatenablog.com

 もちろん、Lionboltが上記の「オンライン書籍閲覧ツール(サブスク型)」と異なるのは、検索ができるだけで実際には書籍を購入しないといけないという点である。この点はもちろん限界があるが、「この本のこのページに答えがある」というのが分かるのは最強である!!

 また、例えば、本棚の設定をすると「江頭株式会社法の何頁にあるか」が一瞬で分かる! つまり、もはや江頭差分は不要になったのである(伏線回収)!

 このように素晴らしいLionBoltだが、「この検索結果ページは表示制限中です」となることがある*16。また、
横書き表示の場合にUI上見にくいのも改善していただきたい。

 

第4 書籍出版の告知ー京野哲也先生の編著の下で『Q&A 若手弁護士からの相談374問』の続編を出版します!

 来年早々に、上記の第2のリーガルリサーチ技法及び第3の各種リーガルリサーチツールを使って作成した成果物として、書籍が発売されます!! RONNOR名義では、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』に続く2冊目の商業出版です!

 

 

 現時点(2021年12月18日時点)で公表できることとしましては、京野哲也先生が編著者を務められる『Q&A 若手弁護士からの相談374問』の続編だ、というだけですが、乞うご期待!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:博論レベルを書かないとアドベントカレンダー書けないなんていうのはハードルとして高過ぎです!!

*2:資格試験を受ける場合位ではないか?事業部が「一般論として」と言ってきたら、むしろ何か隠していることが疑われる位である。

*3:オブラートに包まず言えば、「リーガルリサーチが面倒くさいから」である。

*4:要するに「金食い虫」の「クソゲーである。

*5:場合によっては弁護士であっても同様だろう。

*6:これに対し「最初から正解を探す姿勢だと、正解がない問題に対応できないのでは?」という疑問があるだろう。まあ「100%同じ問題」はないだろう。それでも、普通の法務パーソンは90%とか95%は他の人が検討済みの問題を検討しているはずである。だから、90%とか95%のところまでの先人の検討結果を早めに取得し、残り5~10%は自分の頭で考えるクセをつければ良い。

*7:http://www.kl.i.is.nagoya-u.ac.jp/idaten/

*8:https://geolog.mydns.jp/www.geocities.jp/nakanolib/mokuji.html

*9:https://dl.ndl.go.jp/

*10:統計が捏造されていた等というツッコミは、ここで入れないでください。

*11:特に監督官庁対応では、礼儀以外にも、聞き方を誤ると大きな問題が起こることもある。

*12:要するに、江頭、中山(旧版のみサブスク対象)、菅野等の最新版は自分で買って持っている前提であれば、それ以外の本がある程度掘れる、というイメージで良いだろうか。

*13:私は、本当に良い本なら、サブスクにあっても紙で買います。

*14:確かにスニペットが出てきてキーワードがマークされているが、そのスニペットの数行が、どこに相当するかは不明である。

*15:但し雑誌のバックナンバーについては、きちんと古い号も入れて頂かないと、あまり意味がない

*16:多分何度も同じ本の同じ辺りを検索することによって、その本を購入しないで済むことになる事態の可能性を避けようとしているのだろうが、大量のリサーチをすると必然的に良い本の同じ辺りが出てくるので、表示制限は困る。。。

法務パーソンがラブライブ!スーパースター!!を観るべき10の理由

法務アドベントカレンダー2021年「経営アニメ法友会」記事はラ!ス!!

 

 

さて、法務アドベントカレンダー2021年では、昨日経営アニメ法友会会長が法務に勧めるアニメ百選の第三弾を公開された。

 

kanegoonta.hatenablog.com

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

経営アニメ法友会については、昨年の法務アドベントカレンダー2020年で「設立宣言」をした、アニメの知見を法務実務に活かすことを希望する法務実務に従事する実務家によって構成される任意団体である。

 

ronnor.hatenablog.com

 

さて、昨年も、ニジガク(「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」)の布教をしていたので、同じように見えるかもしれないが、ラブライブ!スーパースター!!は、別の学校の別のユニットの物語である。経営アニメ法友会会員として、これをご紹介し、法務に活かせる知恵等についても私見を述べたい。年に10個も紹介されるちくわ会長と異なり、当方は年1個なので百選まで100年かかるが、ご容赦いただきたい。


アニメの内容は一言で言えば「学生アイドルがチームを作り、日本一決定戦(ラブライブ)に向けて頑張る」というものである(過剰な要約)。結ヶ丘女子高等学校のアイドルグループLiella!のメンバー達、澁谷かのん、唐可可、嵐千砂都、平安名すみれ及び葉月恋(順不同)の成長が綴られている。


1.「花形」と「お荷物」
どの会社にも花形部門とお荷物部門がある。法務が「お荷物」として、無能社員の左遷先になっている会社もあると聞いているが、とりあえずは「お荷物」までは行ってない会社もままあるだろう。ただ、流石に法務が「花形部門」かというと、そうでないことが多いのではないか。普通は「お金を稼ぐのに直接貢献する部門」が花形であり、バックオフィスでは「経営企画」くらいではなかろうか(偏見)。*1

 

 なお、同じラブライブ!シリーズの別の物語であるラブライブ!サンシャイン!!における合併の側面における「花形」と「お荷物」については既にブログ記事を執筆したところである。

ronnor.hatenablog.com

 そのような部門間の差別と葛藤を描くのが、ラブライブ!スーパースター!!である。花形である「音楽科」と、お荷物の「普通科」の間においては、厳然とした差が存在する。特に、音楽科出身の生徒会長葉月恋は、文化祭における音楽科中心主義を打ち出し、物議を醸した。
 主人公の澁谷かのんは、普通科在籍、しかも、音楽科は受験で落ちて普通科に入った、という立場である*2。法務パーソンが、自分は「花形」ではない、と悩んでいるのであれば、「お荷物部門」のかのんを主人公とする、ラブライブ!スーパースター!!は琴線に触れるとこころあるだろう。
 加えて、かのんの運命は、その政治力のなさによって翻弄される。ラブライブはオリジナル曲を歌うことが必要だ。かのんが楽曲作成を担当するが、歌詞が先か、楽曲が先かという「鶏卵問題」で、その「交渉力のなさ」がたたって、先にやらされることになった。
 法務がプロジェクトを行う場合でも、他の部門の方が交渉力が強く、実務では仕事を押し付けられたり、どちらが先でもいい仕事を先にやらされたりすることはありそうである。しかし、それでいいのだろうか。社内でも交渉力が弱い法務部は、「論理的な先後関係がある」等と指摘し、なるべくこのような「押し付け」回避するよう努めるべきである。



2.条件の明確化

 契約では、ある条件の成就をトリガーに金銭請求権その他の権利義務が発生、移転等することが多い。しかし、「ダメな契約」だと、その条件の部分が「フワフワ」している。


 ラブライブ!スーパースター!!では、かのん達のスクールアイドル活動が認められる条件が、「XXというフェスで一位を獲得したらスクールアイドル活動を認める」という、大変大雑把なものであった。フェスは、たまたまスケジュールがあった大物が「電撃参戦」する可能性がある。そのような「プロジェクトの背景になる実務的状況」を熟知している法務パーソンであれば、「要するに今参加者として見えているグループの中で1番上の順位になればいいのですね!」として、「XXXというフェスで参加するAAA、BBB、CCC・・・JJJの中で最も高い順位となる事」を条件とするべきだろう。実際には、前年度東京都代表のサニーパッションが急遽参加することになってしまった。これは、条件の明確化を怠ったことにより発生した問題と言える。

 

 このような「勝利」条件の明確化は法律家にとって重要である。ある弁護士の先生の被請求側案件(法外な請求を受けている案件)受任時に相談を受け、請求が一定期間止まった場合の「みなし成功報酬条項」を入れるようアドバイスしたところ、後でみなし成功となった旨お礼を言われたことがある*3



3.コミュニケーションツールの使い分け

 現代の企業法務のコミュニケーションにおいては、(ビジネス)チャット、メール、電話、直接対面等の方法が利用される。2021年12月時点においては、法務部門がある規模の各社では、ワクチン接種率向上・日本の感染者急減と、オミクロン株のリスクを踏まえ、在宅(を認める体制)の継続か在宅縮小かについて難しい判断が迫られていると思われる。その中でどのようなコミュニケーションツールを利用するかは、まさに実務で重視されている点である。


 ラブライブ!スーパースター!!第6話では、千砂都とは普段はライン風のチャットでやり取りをしているかのんが、違和感を覚えて電話連絡を求め、電話での対応から「異変」を察知し、千砂都の元へと駆け寄る場面が描かれる。


 チャットは気軽にコミュニケーションができ、また、リアルタイムを求められないことから、「受け手」(多くは部下)側のストレスが少ない(フランクではないが、メールにもその性質がある)。反面、電話はリアルタイム性があるコミュニケーションであり、「受け手」の集中が削がれる等、デメリットがある。そこで、「電話禁止!」のような方向に動く向きもあるようである。しかし、例外的に電話のようなリアルタイム性のあるコミュニケーションを行うべき場合もある。特に、チャットであれば時間を置けるので、「繕う」ことができる。例えば、何か隠しているのではないか、本当は何か問題があるのではないか、そういう違和感がある場合に、チャットだけでは解決しないことも多い。電話で話し、「杞憂だった」ということが分かることもあれば、「いよいよおかしい」と分かることもある。


 もちろん、全員100%出社になれば、このようなコミュニケーションツールの使い分けの重要性は相対的に低下するものの、まだまだ全員100%出社に戻るまでは時間がかかりそうであり、また、会社や従業員によっては在宅のメリットを享受し続けたいという向きも少なくない。つまり、今後も引き続き重要性があるポイントである。

 

4.成果主義における「手段」の問題
 成果主義については、いろいろな批判があるところだが、人事評価に成果主義を取り入れると、「あの手この手」で、成果を上げた外観を作出する人がいる。

 例えば、合宿で誰がどのベッドで寝るのかについて、可可とすみれは指相撲の勝敗のみしか合意しておらず、達成方法に関するルールを何ら設定していない。その中で、指相撲の直前にキス(!?)をして、可可を動揺させ、その隙に勝利を収めるすみれは卑怯だが、その程度ならば「盤外戦術」として許容されるだろう。


実務においても、
・実質的に1契約だが付属文書がある場合にそれを別の案件とすることで、5案件をやったことにする
・「教えて下さい」と、同僚に肩代わりを頼むが、公式には自分の案件のままとする(成果の横取り)
・他人に引き継ぐ際に「実質終わったようなもの」として1案件を片付けたことにして評価を求めるが、実際は何もできていない(もしくは適当にやっていて引き継いだ人が途方に暮れる)
 等様々なトラブルがある。
 そもそも成果主義がどうか、というそもそも論はあるものの、仮に成果主義にするのであれば、評価者は、その達成方法について、キチンとルールを設定することで「ズルい」等の不満をできるだけ招かないようにすべきである。

 


5. 教育研修と安全配慮
 個を強くすることは、確かにチーム力の強化につながる。しかし、そのためには、チームで「守りながら」、徐々に強化していくことが現実的である。組織的に対応すればなんとかなるのに、自分一人で対応できるようになれ、と言って「海に突き落とす」というのはリスクが大きい。失敗すると安全配慮義務に違反する危険な行為だ。

 みんなと一緒であれば歌えるが、一人では歌えないかのんに対し、一人で小学校に行って歌うことを強要している。「結果オーライ」だが、これでかのんが歌えなくなったらどうするつもりなのか。ラブライブ!シリーズは巨大なプロジェクトである。安全配慮義務違反で巨額の賠償責任を負ってもしょうがないだろう。

 実務では、いくら「その人のため」と思っていても、レベルが高すぎるタスクをフォローなしに(一応千砂都達も駆けつけて固唾を飲んで見計らっていたが)一人でこなさせるといった「昭和」の教育研修手法は通用しない。「最近の若いものは」ではなく、それが各従業員がかけがえのない存在だということを前提とすれば、本来必要だった対応と考えて、安全配慮義務を尽くすべきである。

 


6. フォロー方法
 同僚がミスをした時にフォローすることは一見良いことだが、残念ながら、逆に関係を悪化させることも多い。むしろ、一番身近にいて自分を助けてくれた人に対して怒りの感情をぶつけてくることが多いものである。
 可可が料理に失敗する等問題を起こし、すみれが好意で代わりに料理を作る等「尻拭い」をしてあげても、可可は感謝しない。これは実務でもよく見られることである。
 実務では、仕事の巻き取りや肩代わりでトラブルになることが多いが、責任の所在の明確化ができなくなることが一番の原因である。例えば、もともとAの責任だった仕事について、かわいそうだなと思ってBがやってあげたら、会議で期限に間に合わなかったことについてBが責任を追及される等。
 基本的には「裏」でやらず「表」でやるべきであろう。きちんと上司に「この人の仕事が滞っているので、この人のこの業務は私に移管する代わりに、今から始めることを前提に、期限を伸ばすよう上司の方で交渉して下さい」と言って、上司の責任と巻き取り元の責任を明確にする。また、その際に期限やクオリティについて巻き取り案件であることを前提に当初の予定を変更してもらうことも重要である。
 このような対応をしないで巻き取った方が悪い、とまでは言わないものの、巻き取りで「痛い目」にあった数多くの経験からすると、フォローの際の方法として留意が必要であろう。


7. 秘密保持
  先に秘密を打ち明け、後で秘密を守るよう依頼する葉月恋は情報管理の基本がなっていない。秘密に触れ得る管理区域(例えば自宅)への立入を許可するにあたりNDAへのサインを求め、サイン後初めて立入りを認め、秘密情報を提供すべきである。
 実務においては、残念ながら、NDAに「過去に開示した秘密情報も含む」と入れて対応せざるを得ない悲しい事例も存在することは否定できないが、やはり、「ベストプラクティス」としては、先にNDAを締結し、その後で秘密を開示すべきである。
 また、NDAを締結したとしても、最終的にその違反に対してどの程度の実効的な救済を受けられるかは疑問であり、NDAを締結しても出せない情報」ではないか、という観点での検討も重要である。

 


8.私的利用
 生徒会長なのに学校で百合サイトを見ていた恋。確かにマズいものの、それだけで退学処分にできるようなものではない。
 実務では、F社Z事業部事件(東京地判平成13年12月3日)、日経クイック情報事件(東京地判平成14年2月25日)、労働政策研究・研修機構事件(東京高判平成17年3月23日)等を踏まえれば、会社の通信機器等を私的に利用することが良いことにはならないものの、一定の私的利用がされることを前提に、(通常の通信内容等よりも保護が切り下げられるものの)一定のプライバシーの保護がなされる。しかも、他の従業員との平等の問題もあるので、(18禁ではない)百合サイトを見ている頻度や時間にもよるが、他の従業員と同程度の時間や頻度である限り、(注意はできても)懲戒等は懲戒権濫用の可能性がある。

 

 

9. リクルート
人をリクルートする際には、その人の琴線に触れる「殺し文句」が必要である。
センターになれないなら加入しないというすみれに対する、「センターを奪いにきなさい!」というのはかのんの殺し文句として最高であった。
実務では、そこまで「人をご指名でリクルートする」という場面は多くないかもしれないが、それでも、「エースに難しいプロジェクトチームに入ってもらう」等の場合は考えられるだろう。
そのような場合には、まず相手を熟知する必要がある。そもそもすみれにとって、かのんの「センターを奪いにきなさい!」が効いたのは、「ショービジネス」の世界の片鱗に触れながらも、うまくいかず、スカウトを待っている自分についてそれではいけないと思っていたすみれの葛藤をかのんが熟知していたから。
例えばその人がキャリアプランでほしかった経験ができる機会である等、うまく説明すれば、エースをリクルートすることもできるはず!

 

 

10「あなた自身の法務の知恵」との組み合わせを!
これらは、私がこれまで法務をやってきた経験を元にラブライブ!スーパースター!!を視聴して気づいたことをまとめたものに過ぎない。
きっとこの記事の読者の「あなた」も自分自身の経験があり、法務の知恵を蓄積していることだろう。
是非ラブライブ!スーパースター!!を視聴して、その「気付き」を #経営アニメ法友会 タグでツイートして頂きたい。それでもう、既にあなたは経営アニメ法友会の会員である!

 

 

 

 

 

 

*1:もちろん、法務も間接的に、会社が長期に渡ってお金を稼ぎ続けられるように、会社をサポートするのだが、なかなかその価値が正当に評価されない…。

*2:なぜ音楽科に落ちるようなかのんがスクールアイドルグループでセンターを張っているのか、についてはネタバレになるので、是非本編をごらんください。

*3:但し、実際に成功報酬をもらった後に請求が再開した場合にどうするか別途問題となり得る

LION BOLTのステマっぽいけどステマじゃないエントリ

法律書沼にハマる!? 法律書横断検索サービスLION BOLT

 

 

1. リサーチ系リーガルテックに新鋭現れる!?
これまでのリサーチ系のリーガルテックというのは、主に法律書サブスクサービス等が念頭に置かれていた。特に、コロナ禍によって、我々法務が在宅勤務を余儀なくされる中、このような法律書サブスクリプションサービスは、極めて不十分*1ではあるものの「ないよりまし」という感じであった。
ここに突如として、新しいリサーチ系のリーガルテックが登場した。これがLION BOLTである。

lionbolt.jpすごく簡単に言えば、著作権法の改正により、所在検索サービスが著作権者の同意を得ずに実施可能となり、検索キーワードとして入力した単語が含まれるのはどの書籍の何頁かが分かるサービスが適法となったと言われている*2。これを法律書分野で具体的に実装したものが、このLION BOLTである。


2. 「一芸集中型」サービス

 このサービスの特徴は、ひたすら「一芸集中型」である。つまり、リーガルリサーチのとっかかりである「どの本の何頁を見ればいいか」について最強の効果を発揮するが、逆に言えば、それ以外は事実上何もやってくれない。


 つまり、このサービスにおいては、3000冊の書籍を著作権法上の例外(権利制限規定)に基づきスキャン・OCR化して検索可能としている。そこで「検索」自体はできる。しかし、例えば「法律学小辞典」をOCR化し、単語を検索するとその項目が表示されるというサービスだと、「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書の要件を満たせないだろう。そこで、スニペット*3は最小限しか表示されず、あくまでも「この本を持っている人は、自分の本の●頁を開いてください」「持っていなければ至誠堂書店、Amazon及び出版社のリンクをつけておいたので、リンクをクリックして買ってください」という形で「別途自分でその書籍を買うことを前提としたサービス」となっているのである。

 

 法律書サブスクリプションサービスは、いずれも収録冊数が数百冊からせいぜい1000冊程度であって、調査の網羅性という意味では全くお話にならない。これに対し、3000冊以上というLION BOLTは、「やっと調査ツールとしてまともに使えるようになる」というレベルである。(もちろん、将来的には書籍・雑誌をあわせて最低でも1万冊は欲しいところである。)その意味では、「初めてリサーチ系リーガルテックで『使える』ものが登場した」と言っていいだろう。


しかし、上記のとおり網羅的に読むべき本とその頁数が分かるという「一芸」に特化したLION BOLTは、自分の手元に検索対象の書籍のほとんどがある状況の人*4であれば有益であるが、そうでないと「どうやってその本を調達するか(ロジスティックス&お金)」という問題が生じてしまうところ、LION BOLTはこの問題を解決してくれないのである。基本的には、どうもこの本の●頁を見ればリサーチで調べていることの「答え」が書いていそうだ、と分かれば書いたくなるし、LION BOLTにはアマゾン等へのリンクもあることから、「ユーザーを法律書沼に突き落とす」サービスという評価も可能かもしれない。

 

3. 「β版」としてのオススメ度の高さー「リサーチ革命」の実現
 2021/10/31までLION BOLTは「ユーザ登録さえなしに」試用可能である(但し、10以上の検索結果が出た場合の11番目以降の閲覧等は試用アカウントを作成する必要がある)。
 リサーチの網羅性を合理的な範囲で確保できるというLION BOLTサービスの効用に鑑みると、とりあえず「気軽に試してみる」、という価値は絶対にあり、是非適当なキーワードを入れて試すことをオススメしたい。特に「それだけ」をテーマにした書籍ができるにはまだまだマイナー・マニアックなキーワードでも、LION BOLTで検索すると10冊とかそれ以上の本が出てくるので、リサーチ漏れが防げるのは素晴らしいと言える。

 私が約1週間LION BOLTを試用した結果、「文字通りの「リサーチ革命」が起こったと感じるのは、以下の調査方法である。

 

LION BOLTで検索

   ↓

「この本の●頁に『答え』があることが判明」

   ↓

LION BOLTのAmazonリンクからAmazon商品サイトに飛ぶ

   ↓

Kindle本がある

   ↓

Kindle本を購入しダウンロード、該当頁を表示

   ↓

前後の文脈を踏まえて引用(なお、Kindle本のうちコピーができるものの場合、コピーをすると勝手に書籍名等をあわせて引用してくれる)

 

この方法では、リサーチが爆速で完了し、ただただ驚異的である。もちろん、この「リサーチ革命」にはデメリットもある。つまり、次々と新しいKindke本を購入することになり、目の玉が飛び出るほどお金がかかる、ということであるが。。。

 

 4. 「正式版」に向けての提言

 このように LION BOLTは少なくとも無料で使える「ベータ版」としては極めて強くお薦めすることができ、また、正式版に期待している。そして、期待の裏返しとして、以下の提言を行いたい。

 ただ、大量に検索結果が出るキーワードだと10個しかない大きなジャンルでドリルダウンするか、雑誌ばかりが出る場合に「書籍のみ」を選ぶかくらいしか*5できないので、この辺りは、「出版日順」とか「定評のある順」とか「関連度順」といった検索方法の機能向上が望まれる。後はコンメンタール・逐条解説だけから検索する、「コンメンタール検索」等もぜひ実現してほしい。
 また、基本的には、自分の本棚を探すかネットで購入することを想定していると思われるが、真の意味で利便性を考えるなら、Amazon法律書サブスクサービスと提携して、自分のkindle上に既にあるとか自分が加入している法律書サブスクサービスで閲覧できるとかであれば、理想的にはそこにワンクリックで飛べるとかであると最高であろう。また、出費の可及的な軽減という意味ではカーリル*6等図書館DBとの連携も望ましい*7
 なお、雑誌が判タ、法セ、法時、後はジュリスト位しか検索対象になっておらず、いわゆる学術的リサーチをするという観点からすると圧倒的に不足している。その意味では、やはりビジネスユース(企業法務部門と法律事務所)を念頭に置いているのだろうと思われるが、反面、ビジネスユースなら、商事法務、ビジネス法務、NBL、BLJ、金融商事法務等入れるべき雑誌がまだまだあるだろう。また、新たにスキャンすると大変ということであれば、(玉石混交ではあるものの、)オープンアクセスの論文を検索対象に追加した上で、クリックすると元の論文のURLに飛ぶようにしてはどうだろうか。これだけで数千本の論文が追加で収載可能と思われる。

  更に、インタフェースはパソコンならまだしもスマホだと非常に見にくい。スマホで検索し、図書館や書店で探して買う、という方向性を考えているのであれば、スマホ対応は必須である。

 上記のとおり「β版」としてのオススメ度は高い。ただ、正式版は毎月2980円である。Amazonと提携して、Amazonのprimeに入っているとそこにLION BOLTの費用が含まれるとかであれば全然OKであるが、本当に毎月2980円の価値があるか、10月31日まで引き続き利用を継続して慎重に判断したいところであるし、読者の皆様にも是非ご試用の上、ご判断頂きたい。少なくとも「試用の価値」は絶対にあります(断定的判断の提供 *8 )!

 

 

*1:数百冊の本しか読めないなんて、全然リサーチにならないですよね?

*2:「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な 権利制限規定に関する基本的な考え方」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf)、特に20頁以下参照

*3:最決平成29年1月31日民集71巻1号63頁でいうところの「抜粋」

*4:私の個人的な体感だと約7割はeasily accessibleであるが、逆に言うと「残り」は事実上買わざるを得ないのでお財布が辛い…。

*5:なお「本棚」機能は、要するに既に手持ちの中から探したいというニーズに合わせて限定した範囲で検索できるということだが、それではリサーチの網羅性が保てないので、あまり意味はないだろう。

*6:https://calil.jp/

*7:なお、この辺りは、同サービスのアドバイザーである弁護士の先生の「態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」という著作権法47条1項柱書該当性に関する判断にもよるところで、買ってもらうor既に買っているならOKだが、借りさせるのであればOUTという判断もあり得るかもしれない。

*8:なお、私は消費者契約法5条に該当しません。