アホヲタ元法学部生の日常

連絡はTwitter ( @ahowota )でお願いします。アニメを見て法律を思い、法律を見てアニメを思う法アニクラスタ、ronnorのブログ。メールはronnor1あっとgmail.comへ。BLJにて「企業法務系ブロガー」として書評連載中。 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 「アホヲタ元法学部生の日常」(ブログ)、「これからの契約の話をしよう」(同人誌)、『アニメキャラが行列を作る法律相談所』(総合科学出版)等。

5年間の辛口法律書レビューを振り返る〜その1

 

5年間の辛口法律書レビューを振り返る〜その1

 

 

Business Law Journalは大変残念なことに休刊になってしまったが、大変光栄なことに、2015年2月号(2014年12月20日発売号)以来、5年以上に渡って、当初は1年に1度、その後3ヶ月に一度、そして最終的には毎月連載させていただくことになった。

 

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この年末年始に本を読まれる場合のご参考という意味で、そして、ビジネスロー・ジャーナルの「再起動」を大いに期待する者として、「革命前夜」の雰囲気を醸成するためにも、連載で取り上げた書籍を紹介したい。

 

 

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この5年でほとんどの書籍が改訂された。できるだけ、最新版を掲載しているようにしているものの、既に記載がout-of-dateになって久しいもののや、改正法の改正内容説明書籍のように、当時は重要性が高かったが、現時点ではもはや古くなっているものも含まれることにご留意いただきたい。

 

2015年2月号(No. 83)「辛口ブックレビュー(2014年分)」28頁

 湊総合法律事務所「勝利する企業法務」

 芦原一郎「法務の技法」 

法務の技法(第2版) (「法務の技法」シリーズ)

法務の技法(第2版) (「法務の技法」シリーズ)

 

 堀 龍兒・淵邊 善彦「ビジネス常識としての法律」 

 淵邊 善彦「シチュエーション別提携契約の実務」

 

シチュエーション別  提携契約の実務〔第3版〕

シチュエーション別 提携契約の実務〔第3版〕

  • 作者:淵邊 善彦
  • 発売日: 2018/03/17
  • メディア: 単行本
 

阿部・井窪・片山法律実務「契約書作成の実務と書式」

契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版

契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版

  • 発売日: 2019/09/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 大村多聞他編「契約書式実務全書」

契約書式実務全書(第3版) 第1巻

契約書式実務全書(第3版) 第1巻

  • 発売日: 2020/12/25
  • メディア: 単行本
 

 

江頭憲治郎「株式会社法

株式会社法 第7版

株式会社法 第7版

 

 

*改正本注意 「Q&A平成26年改正会社法

 

近藤 光男ほか「基礎から学べる会社法

基礎から学べる会社法 第4版
 

 

 山口 利昭「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」

渡邊岳・加藤純子「社員の不祥事・トラブル対応マニュアル」 

 

 山口利昭「不正リスク管理・有事対応」

不正リスク管理・有事対応--経営戦略に活かすリスクマネジメント

不正リスク管理・有事対応--経営戦略に活かすリスクマネジメント

  • 作者:山口 利昭
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 川口恭弘他「インサイダー取引規制と未然防止策」

 

 西村あさひ法律事務所・危機管理グループ「インサイダー取引規制の実務」

インサイダー取引規制の実務〔第2版〕

インサイダー取引規制の実務〔第2版〕

  • 発売日: 2014/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 鳥飼重和「その「つぶやき」は犯罪です」

 

 

 湯原伸一「「情報管理」に強くなる法務戦略」

「情報管理」に強くなる法務戦略

「情報管理」に強くなる法務戦略

  • 作者:湯原伸一
  • 発売日: 2014/02/28
  • メディア: 単行本
 

 

 

 福井 健策「インターネットビジネスの著作権とルール」

 

山本 孝夫「 英文ビジネス契約書大辞典」

 

英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉

英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉

  • 作者:山本 孝夫
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 大型本
 

 藤本豪「中国ビジネス法体系」

 

中国ビジネス法体系 第2版

中国ビジネス法体系 第2版

  • 作者:藤本 豪
  • 発売日: 2017/02/20
  • メディア: 単行本
 

 

 田路至弘「法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル」

法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル〔第2版〕

法務担当者のための民事訴訟対応マニュアル〔第2版〕

  • 発売日: 2014/02/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 岡口基一「要件事実入門」

要件事実入門 初級者編

要件事実入門 初級者編

  • 作者:岡口 基一
  • 発売日: 2018/05/01
  • メディア: 単行本
 

伊藤眞「民事訴訟法 」

 

民事訴訟法〔第7版〕

民事訴訟法〔第7版〕

  • 作者:眞, 伊藤
  • 発売日: 2020/12/23
  • メディア: 単行本
 
 

岡口基一要件事実マニュアル

要件事実マニュアル(第6版) 第1巻 総論・民法1

要件事実マニュアル(第6版) 第1巻 総論・民法1

  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

中山信弘著作権法

著作権法(第3版)

著作権法(第3版)

 

 岩永利彦「キャリアアップのための知財実務のセオリー」

 

 

 鮫島正洋「技術法務のススメ」

 企業人事労務研究会「企業労働法実務入門」

 

 

 水町勇一郎「労働法」

労働法(第8版)

労働法(第8版)

 

 

旬報法律事務所「 未払い残業代請求法律実務マニュアル」

未払い残業代請求 法律実務マニュアル

未払い残業代請求 法律実務マニュアル

  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 単行本
 

 

南野森・内山 奈月「 憲法主義」

憲法主義 条文には書かれていない本質

憲法主義 条文には書かれていない本質

 

吉田利宏・塩浜克也「 法実務からみた行政法

 

 大島義則「行政法ガール」

行政法ガールII

行政法ガールII

  • 作者:大島 義則
  • 発売日: 2020/11/02
  • メディア: 単行本
 

 

 以上であるが、また翌年以降に紹介した書籍を明日アップする予定である。

ビジネスロー・ジャーナルについて

Business Law Journalについて

 

 2010年代前半の最大の業績は何か、と言われると(多数の同人誌もあるが)『アニメキャラが行列を作る法律相談所』 になるだろう。

アニメキャラが行列を作る法律相談所

アニメキャラが行列を作る法律相談所

  • 作者:ronnor
  • 発売日: 2011/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  単純なブログ書籍化ではなく、ブログのネタを原作としてほぼ書き下ろすという大変な営為であったが、同人サークル「QB被害者対策弁護団」のご協力も得て、大変ご好評頂いた。

 

 では、2010年代後半の主な業績はというと、企業法務系ブロガーの名前でBLJに「辛口法律書レビュー」の連載を持たせていただいたことだろう。同世代の研究者の実名で検索しても1桁ということもある*1CiNiiで「企業法務系ブロガー」で検索すると、2桁の業績が出てくる、というのは異常事態以外の何者でもない。

ci.nii.ac.jp

 

 そもそも、毎年行っている年1度の書評特集に寄稿して欲しいという話からBLJとの関わりが始まったのであった*2。最初は年1度だったのが、3ヶ月ごとの連載になり、最後は毎月の連載となった。*3「匿名ブロガー」について、その著者名ではなく記事の質で評価して連載をさせて下さる、というのは、大変貴重なオファーであり、個人的には密かに名物連載「牛島信のローヤー進化論」の連載回数を超えられないか、ともくろんでいたところであった。

 

 一時期は、同じ会社の雑誌事業部と書籍事業部で「連載→書籍化」といういい流れができており、エコシステムが完成しているなぁと思っていた頃もあった。その後、書籍事業の中止等の経緯等を踏まえ、色々と心配していたが、150号、2020年末という1つの区切りで休刊となってしまった。

 

 BLJ休刊に対しては、反響も極めて多く、多くの方のエントリを見たが、個人的には、企業法務戦士先生の、要旨、中堅弁護士の記事は他の企業法務系の雑誌でも読めるものであり、BLJの真骨頂は「法務担当者の生の声」を拾うというところと力説するエントリが印象に残った*4

 

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

 

 どのメディアにとっても、紙の雑誌の収益化というのは困難である。最近の動きを見ると、BLJと同様休刊が相次いでおり、「書籍化に向けた連載をする」「書籍等を知ってもらう」といった、従来紙の雑誌が果たしていた目的を実現する方法として、紙の雑誌以外に活路を見出す傾向が顕著である。例えば、出版社がブログサイトを作って記事を連載してもらってそれを書籍化につなげる等、法律系においても「紙の雑誌以外」の方法で工夫しているところが見られる。

 

 ただ、「紙の雑誌」というオールドファッションなメディアにも、当然ながら、その良さがある。「必ず1ヶ月に1度締め切りが来る」という締め切り効果は、書評が継続的になんとか「形」となった大きな理由であった*5。その意味では、紙の雑誌を休刊した上で、「新企画やwebサイトなどを通じて、法曹界への貢献の道を模索していく所存」というのは、理解はできるが、率直に言って「寂しい」ところである。

 

 また、BLJ他の紙の雑誌と比較しても、企業法務戦士先生の指摘される法務担当者に寄り添った企画を実現する企画力だけではなく、編集の力量において大きな差があったと思う。編集については、「編集に校正だけではなく、校閲もやっていただける」という、いわゆる「Y斐閣サービス」を提供しており、この点はまさに圧巻であった。編集者個人の力量という側面も大きいと思われるが、「尖った記事・企画が多いにもかかわらず安心して書ける・読める媒体」という、2つの一見相矛盾する要請を調和させられたのはこの編集力あってのものであり、(執筆者、連載陣の貢献を否定するものではないものの、)BLJが築き上げたブランドや名声はこの編集者の方の毎日の努力あっての賜物だ、と私は思う。

 

 企業法務戦士先生は、自ブログ紹介に寄せて、「終わりは始まりの一歩目です。今が革命前夜。」*6という粋なツイートをされている。

 

 

 ブログやSNSにおける多くの読者の「これで終わるのは惜しい」という思いはまさに「革命前夜」を思わせる。電子雑誌、電子書籍(+POD)、紙の書籍形式の実質雑誌*7 その他形式は分からないが、何かの新たな「始まり」を期待したい。そこにおいて、「法務担当者の生の声を拾う」「尖った企画なのに安心して読める編集力」といった、他の雑誌にないBLJ独自の「強み」が復活していれば、(そのタイトルがBusiness Law Journalである場合はもちろん、違う名前になったとしても、)その新たなプラットフォームに、人はまた集うであろう。そして、できることなら、その新たなプラットフォームでの業績を「2020年代の主要業績です」と胸を張ることができる未来を期待したいところである。

 

 

 

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*1:先ほど、とある同級生の研究者の方のお名前で検索したら9件であった。もちろん、同世代でももっと多くの結果が出てくる研究者の先生方もいらっしゃる。

*2:もちろん、それ以前から長年愛読していた訳であり、その意味では、親和性は高かった。

*3:元々匿名の法務担当者の原稿を掲載すること自体はよくなさっている雑誌ではあるものの、

*4:その他、dtk先生や伊藤先生のエントリ等も印象に残った。

*5:電子媒体の場合でも一応「締め切り」があるが、その締め切り効果の程度は必ずしも大きくない

*6:革命前夜といえば、とあるシリーズを思い出すのアニメ脳なのですが。

*7:いわゆる「行政法研究」のような感じ

#経営アニメ法友会 設立宣言&ニジガク2話に見るアニメの知見の法務への活用概論( #legalAC )

#経営アニメ法友会 設立宣言&ニジガク(主に)2話に見るアニメの知見の法務への活用概論( #legalAC )
 

*本エントリは、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のネタバレを含みます。

 

 

 

*本エントリは、法務系アドベントカレンダー第5日目のエントリです。

 

adventar.org

せこ@seko_lawさんから

プロダクトカウンセルって何だろう? - 思い出したいことがある

 の中で、「明日から続く経営アニメ法友会も楽しみです」と言っていただきました。ありがとうございます。12/6のちくわ@gigakameさんが「真打」ですが、以下、「前座」を努めさせていただきます。

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

1.  経営アニメ法友会設立宣言
 経営アニメ法友会は、アニメの知見を法務実務に活かすことを希望する法務実務*1に従事する実務家によって構成される任意団体である。
 私たちは、アニメで感動した「あの場面」が、法務実務に活きるのではないか、という仮説を立て、それを法務実務で実践してきた。その結果、「アニメは法務実務に役立つ」という結論を導き出した。
一人でも多くの法務実務家がアニメを法務実務に活かすことを希望し、そのための親睦団体として、経営アニメ法友会を設立する。
 

 加入方法は簡単。 #経営アニメ法友会 ハッシュタグでツイートすることである*2
 

 当面の目標は「後世の企業法務研究者がこの時代の企業法務実務家はアニメの知見研究が盛んだったと結論づける世界を作る」ことであるが、最終的には、各会員が法務実務にアニメを活かす「実践」を集積し、1つのノウハウとして法務実務を向上させることにある。

 

 

 

 

2. ニジガク(主に)2話に見るアニメの知見の法務への活用概論

 

上記の総論的な話だけでは、「何故に、法務実務にアニメを活かせる、と結論づけることができるのか?」という問題に対する回答にならない。よって、各論の例として、今季私が激推しのニジガク(第2話が中心だが、それ以降のエピソードも含まれる)を例に説明したい。

 

(1) ニジガクとは

そもそも、ニジガクとは何だろうか。正式名称はラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会であり「虹(ニジ)ヶ咲学(ガク)園」を略してニジガクと呼んでいる。ラブライブ!及びラブライブ!サンシャイン!!に続くラブライブ!シリーズ第3弾である。

 

当ブログでも、

ronnor.hatenablog.com

 

ronnor.hatenablog.com

 

等、ラブライブ!シリーズを取り上げてきたところである。第2弾では、秋葉原から沼津へと舞台が移り、第3弾である今回の舞台はお台場(臨海地区)である。

 

高校生の上原歩夢と、その幼なじみである高咲侑は、スクールアイドル、「優木せつ菜」のライブを観て、スクールアイドルになりたい、と考えた。しかし、自分たちの通う学校、虹ヶ咲学園では、ちょうどスクールアイドル同好会がお取り潰しになったところで...。というような感じのストーリーある。

 

 

(2) 「外」を転々とする新生スクールアイドル同好会に見る法務の役割

 ニジガク第2話では、生徒会に睨まれ、学園の「外」を、居場所(練習場所)を探して転々とする新生スクールアイドル同好会の姿が描かれている。

 

 このような、「中」に位置付けられながらも、「外」との関わりが深く、そしてその「居場所」を探している新生スクールアイドル同好会の姿というのは、法務の姿と重なって見える。

  

 営業や製造は会社の花形である「プロフィットセンター」である。人事は「ヒト」、経理は「カネ」という、企業に不可欠な明確なモノをガッチリ掴んでいる。これに対し、法務については、経産省の国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会が、「法務のあり方」を研究して報告書を出している。

 

www.meti.go.jp

 

 これをどう評価するかは見解が分かれるところであるが、私は、法務が企業に不可欠な明確なモノをガッチリ掴めていないからこそ、そのアイデンティティ・クライシスに陥り、「自分探し」をしているのだろう、と想像する。これは、活動場所を探して学園の外で、辰巳駅前こどもの広場やお台場レインボー公園等を転々としている新生スクールアイドル同好会の姿とも重なる。*3

 

 

 そのような中で、何が法務が掴んでいる/掴むべきものかというと、外部的な「法*4」と内部的な「リスク」の双方なのではないか、と考えたところである。

 

 

 つまり、企業はリスク管理を行う必要があるところ、そのリスク管理のツールが「契約書」等の法務が所管する各種法律文書である。そして、法務が機関法務を(少なくとも総務との共管という形で)司っている前提であれば、契約書等に関係がない広い意味でのリスク管理においても、取締役等の役員において善管注意義務違反がないように、そして経営判断の原則(いずれも会社法である)によって救われるように、法的な観点からサポートするのも法務の役割である。更に、いざリスクが現実化した後の対応についても、(広報等他の部門が行うべきものも少なくないが)訴訟等の対応を法務部門で行う。

  

そして、このようなリスク管理は、上記の社会規範を含む意味の法を用いて行う以上、法務は会社内の「社会に対して開けた窓」として、会社の外と中をつなぐ役割を果たす必要がある。

 

 

 だからこそ、法務は社外のセミナー、交流会、SNS等の形で積極的に社会に出るべきである。ニジガク2話における各部員たちの子どもをあやしたりお年寄りとゲートボールをする姿は、まさにこのような法務にとってのあるべき社会との関わり方の象徴なのである。

 

 

 

(3) チームビルディングと法務組織のデザイン

 ニジガクには演劇部を兼部するアイドルである桜坂しずくが登場する。法務でも、兼務・兼職はよく見られるところで、例えば法務専任一人と総務との兼任者一人の1.5人のチームといった会社もあるようである。

 

 これだけではない。ニジガクで、アイドル達はぶつかり合い、時にはスクールアイドル同好会廃部の危機に陥ることもある。これは、一種のチームビルディングの悩みであるが、この悩みは、法務組織でも同様である。

 

 

 ニジガク2話では、じぶんなりの「かわいい」を追及する中須かすみ(かすみん)が、「熱さ」を求めるスクールアイドル同好会初代部長のせつ菜と対立し、スクールアイドル同好会は、文字通り、廃部の危機に陥った。また、新たに2代目部長としてかすみんが就任し、歩夢や侑を部員にするが、歩夢に対して「ぴょん」を語尾につけたPVの撮影を強要する等、自分の考える「かわいい」を押し付けようとして、失敗する。しかし、歩夢は、「伝える相手のことを意識せよ」という朝香果林のアドバイスで、自分なりの「かわいい」を見つけ出す。自分なりの一番をそれぞれ叶える方法がある、それを探そう、その方が楽しい、という侑。かすみんも、いろんなカワイイもカッコいいも一緒にいられる世界で一番のワンダーランドに向け、一緒に頑張ることにした。

 

 

このようなエピソードは、法務のチームビルディングの「あるべき姿」を考える上で参考になるだろう。それぞれが異なるバックグラウンド、仕事観、キャリア観を持って集まってくる。でも、それぞれがこの「法務組織」というプラットフォームで自分なりの一番をそれぞれ叶えることを希求する。そして、その「法務組織」が適切なプラットフォームであれば、「いろんなカワイイもカッコいいも一緒にいられる世界で一番のワンダーランド」になることができるだろう。ここでいう「プラットフォーム」作りは法務組織のデザインの問題でもあり、法務のあり方は法務自身で決めることができる。

 

 

 このような「いろんなカワイイもカッコいいも一緒にいられる世界で一番のワンダーランド」実現に向けた具体的な対応としては、やはり、相手の個性の尊重、つまり、会社の方針の押し付けではなく、各法務部員が「じぶんらしくある」ことを認めることから始まるだろう。その上で、それぞれ違う各人が、主観的に「やりたいこと」を実現しようと前向きに進める中で、「結果的に」会社にも貢献することになっている。それは、マネージメントの差配、とりわけ、どのような仕事についてどういう説明をし、どういうモチベーションをつけさせてやらせるか等とも関係するところだろう。

 

 加えて、制度面でも、福利厚生系はもう法務が口出しできないほどガッチリしている会社も多いだろうが、例えばインハウスであれば、「もう10年以上前からいるよ」」という会社もあるが、全く新しい存在で、それに対応する新しい制度を自分で手作りできる会社もあるだろう。その中で、例えば「インハウスが希望すれば法律事務所に出向できる制度を作ろう」等と、インハウスが来たくなるようなプラットフォームにしていく努力の余地がある会社もあるだろう。法務組織は、ニジガクに学んで、多様な法務パーソンが1つのいいチームになれる、「いろんなカワイイもカッコいいも一緒にいられる世界で一番のワンダーランド」を目指すべきである。

 

 

(4) 多様!? なアイドルに学ぶ法務の姿

 ラブライブ!シリーズは、時を経てますます「キャラ立ち」が激しくなってきた。例えば、ライブ中はいわゆる「璃奈ちゃんボード」で顔を隠す天王寺璃奈や、神出鬼没の「生徒名簿上不存在」アイドル優木せつ菜等、多様なキャラクターがニジガクの魅力である。法務的には眉を潜めざるを得ないが、スクールアイドル同好会復活のために手段を選ばず同好会のネームプレートを取り戻そうと生徒会室を襲撃する中須かすみ(かすみん)も、「多様」といえば「多様」であろう。

 

 そして、このような多様性(diversity)は、法務においても重要である。

 

 

 ここで、「みんな同じような前提知識を持って、同じようなスキルがあって、同じようなことを考えてる方がマネージメントもしやすいし、成果も上がる」という考えもあり得る。もしかすると、伝統的日本企業はそのような方向性を志向している(つまり、新卒一括採用で研修をして、均質の従業員に育て上げる)かもしれない。

  

 しかし、法務が上記のとおり、会社における「社会に対し開けた窓」なのであれば、多様性こそが、「会社の論理」を断ち切り、社会とのつながりを取り戻す上での重要な鍵となる。

 

 

 例えば、社長肝煎プロジェクトが進んでいるというところで、法務が同質組織なのであれば、仮にそれが社会的に見ておかしくても「黙る」結果になるのは目に見えている。

 

 しかし、法務が多様であれば、ある意味において空気を読まず、「こんなことやったら、社会から批判されますよ。最低限記者会見でどう答えるかを事前に考えた上で進めてはどうですか?」といった声が出てくる可能性が高まる。このように、真の意味で、法務としての役割を果たす上では、「多様性」が重要なのである。

 

 ラブライブ!はスクールアイドルとファンにとっての最高のステージである。全国のアイドルグループとの競争に勝ち抜き、勝利するために必要なのはメンバーが1つの色にまとまることのようにも思われる。しかし、せつ菜の「大好き」が、かすみんの「大好き」を否定してしまった。その結果、一度はバラバラになってしまったものの、「必ず以前の繰り返しにならないやり方があるはずだ。それを見つけるためには、かすみんと全然違うせつ菜先輩が必要である。」このようなかすみんの発言は、物語の舞台(聖地)ではないが、まさにダイバーシティの発想だ。

 

 

(5)サポートだけれども、中の人としてのサポート

 侑は、スクールアイドル同好会に参加し、部員にはなりながらも、アイドルとしてではなくサポート(マネージャー)の役割を果たす。確かに法務自身が製造・営業等の活動に従事することはないのであって、法務はその意味では管理部門の一角としてサポートをする訳である。

 

 ここで、例えば、ダイバーシティ東京プラザにおけるライブの実施においては、外部の人(例えば、会場の担当者)の協力がなければ、ライブは成立しなかった。しかし、侑は、このような外部の人としてスクールアイドルに協力するのではなく、「中」にいて、サポートする。これこそが法務の役割である。

 

 

 「中にいる」ことの意味は、評論家ではいられないということである。「外」であれば、無責任に論評をして、後は「野となれ山となれ」ということだって理論的にはできる。しかし、「中にいる」以上、既に運命共同体である。その意味では、自分のコメントが自分の運命にも直接影響するという責任感を持ってサポートしていくことになる。

 

 

 中にいれば、「これは法的におかしいですよ!」と声を掛ければ、その瞬間に返す刀で「そうか、ありがとう。じゃあ、法的におかしくない方法で、このプロジェクトを進めるにはどうすればいいんだろうか?」と聞かれる。外の人なら「それを考えるのはあなたです」でいいのかもしれない*5が、法務としては、まさに「自分ごと」として考える責任を負うのだ。

 

 

(6)「権力者」や各部門との付かず離れずの関係

 スクールアイドル同好会2代目部長のかすみんは、生徒会に睨まれている。同様に、法務と経営の関係も非常に難しく、一歩間違えれば経営の信頼を失い、「お荷物」として疎まれてしまう。「中の人」としてのサポートである以上、経営との信頼関係は不可欠である。また、法務が、上記の「法」に基づく「リスク管理」を行うためにも、ビジネスが何を考え、何を行っているのかを把握しなければならない。

 

 しかしながら、だからといって、常に経営や各部門の意向に対し、唯々諾々の姿勢でいいか、というと、法務としての価値を発揮できないという問題がある。例えば、

 

・工場で廃液漏れが生じ、本来届け出義務があるが、今届けると来年3月に引退する予定の創業社長に花道を飾れないので、隠してもいいか?

 

・この会社は、バブル時代からの含み損を経理が様々な工夫で「飛ばし」ており、その事実は各担当者が墓場まで持っていくことになっているが、最近空気を読めない監査法人にうるさく言われている。インハウスで弁護士の資格あるんだから、弁護士の名義で監査法人に対し「問題がない」という意見書を書いてくれないか?

 

等々という事情の下において、法務担当者(インハウスローヤー)のあなたは、経営のいうとおりにするのか、というのを考えて欲しい。そのような要求は色々なパターンがある。各部門の要請のこともあるし、専務からの命令、場合によっては社長直々の命令、ということもある。

 

 

 かすみんは、いくら権力者である生徒会長でも、納得できないものは納得できない、としている。まさに「平時には良好な関係が望ましいが、止めるべき時は止める」という法務の姿勢を実践しているといえよう*6

 

 

(7)コミュニケーション

 このように、かくも法務の仕事は難しい。そのような難しい仕事をする上での潤滑剤はコミュニケーションである。ここで、果林は、歩夢に「伝える相手のことを意識せよ」とアドバイスしたが、これは決して「おせっかい」ではなく、法務が円滑なコミュニケーションをする上で不可欠である。

 

 

 例えば、法律用語の意味が分からない営業部門が勇気を出して相談してくれたのに、法律用語ばかり使ってこ難しい話をしていたら、「法務にまた相談したい」と思うだろうか

 

 

 そういう最低限の配慮に加え、例えば、営業の現場ではやりたくないが、「社長案件」なのでやらざるを得ない、という場合に、法務の「違法です」という言葉は、営業の心に響かない。むしろ、取締役会資料において弁護士なら明らかに「気付く」言葉をちりばめ、「弁護士である社外取締役」に根回しした上で(特に取締役会事務局に法務が噛んでいる場合)、その人に社長を止めてもらう、といった方法をアドバイスすると、営業の現場の信頼を掴めるだろう。

 

 

(8)「名を捨てて実を取る」

 このような、法務実務において「名を捨てて実を取る」ことは重要である。要するに、結果的に会社の利益になることが実現されるためには、あまり「メンツ」とかを考えない方がいい、ということである。

 

 例えば、本来は生徒会長によるスクールアイドル同好会の解散自体が無効であっても、そこを争って血みどろの戦いに引きずり込まれるのではなく、あえて「部員が5人以上集まったらいつでも申請して下さい」とのせつ菜の言葉どおり、「新規同好会設立申請」の対応するのが「大人の対応」なのである。

 

 

(9)先入観を捨てる

 侑は、(μ'sやAqoursがそうであったように、)ラブライブ!を目指すというのがスクールアイドル、という先入観をブチ壊し、せつ菜に、「スクールアイドルがいてファンがいる、それだけでいい」というオルタナティブを示す。

 

 法務も同じであり、それまでの先入観に基づき「無理だ」と考え、思考停止に陥るのではなく、先入観を捨てて新たな道を切り開くことが重要である。

 

 例えば、現行法上明らかにブラックでも、「そのビジネスが(単に自社にとってだけではなく)社会にとってとても利益になる」のであれば、ロビイングをやって法改正をしてしまえばいい。これからの法務担当者には、こういう柔軟な発想が認められる。

 

 

(10)コンプライアンス

 いずれにせよ、法務部門は、広い意味での法を司る部門である以上、コンプライアンス、すなわち(そのような広い意味での)法令遵守は重要である。

 

 その時ポイントになるのは、世の中には、リアルブラック、リアルホワイトは(確かに一部存在するものの)あまり法務では問題とならず、法務で問題となるのが「(いろんな程度のある)グレー」だということである。

 

 

 上記のような「止める」べき場合は「これは黒です」と言わざるを得ない場合もあるが、それ以外の場合は「ビジネスのやりたいことを実現しながら、同時にグレーをできるだけ白に近づける方策」を考えることになる。

 

 

 例えば、「スクールアイドル同好会が廃部になった、と主張して強権を発動する生徒会長を止めたい!」という目的がある場合を考えてみよう。それを実現するためには、いろいろな方法がある。

 

 例えば、デモやボイコットで生徒会長の横暴を訴えるという方法はあるだろうが、これで生徒会長が考えを改めるかはわからない。

 

 また、法的にブラックに近い方法として、かすみんが実施した、猫を生徒会長に襲わせてその隙にスクールアイドル同好会のネームプレートを盗むという方法もあるが、ある意味では「窃盗」であり、少なくとも安全な方法ではないだろう。

 

 

 そこで、果林の採用した、「生徒会長の許可を得て生徒会室に入室し(建造物侵入罪にならない)」、「生徒会長がいなくなった隙に生徒会名簿を借り(使用窃盗として無罪)」、「実は生徒会長がいう『生徒会長である中川菜々とスクールアイドル同好会部長の優木せつ菜との話合いで廃部になった』という事実が嘘であり、実際は廃部が無効であることを明らかにする」という方法は、できるだけグレーを白にする方法として大変優秀である。

 

 

 果林のような、同じ目的達成ができる範囲でもっとも法的リスクが低い方法を選択する、という発想こそが法務パーソンにとって不可欠の発想であり、法務パーソンは果林を見習うべきである!

 

 

 法務が理想とすべきアイドルは、果林だけではない。「動物の放飼い」を禁止する校則と、目の前にいる璃奈の強い思い。この双方の調和をなんとか実現するために、はんぺん(子猫)を「生徒会お散歩役員」として学校の一員に迎え入れることで「グレー」をできるだけ白に近づける、そんなせつ菜の発想もまた、まさに法務のあるべき姿だ。

 

 

 このように、ニジガクだけでも、様々な法務実務へ還元することができる素晴らしい知見が豊富に含まれている。一人でもより多くの法務実務に従事する皆様が、アニメの知見を生かして法務実務を向上するきっかけになれば幸いである。 

 

 

 

以上はあくまでも、1例ですが、来年も #経営アニメ法友会 活動を進めて参ります!! 何卒よろしくお願いいたします!!

 

 

 

*1:典型的には企業法務実務であるが、自治体法務実務等の領域が広く含まれる

*2:私も #アニメ経営法友会 という間違ったタグで呟いたことがあるが、こちらだと、某親睦団体の概要を説明するアニメ、のようなイメージなので、アニメを真ん中に持ってくるべきであろう。

*3:この点については、企業法務マン迷走記2:夜に「希望」を語れば 『希望の法務』を読んでの言及する、法務の「拠所のなさ」「 心細さ」が参考になるだろう。

*4:ただし、コンプライアンスが「社会規範」を含むなら、そのような社会規範を含むところの法である

*5:なお、そういうスタンスではない外部弁護士の先生がいらっしゃることは理解しており、大変ありがたいことである。

*6:私はあまりガーディアンとかパートナーといったバズワードはあまり好きではない。詳しくはBusiness Law Journal2018年10月号(No. 127)118頁をご覧になられたい。

リーガルアドベントカレンダー( #legalAC )Business Law Journal連載連動企画「改正民法(債権法)のリサーチどうやってますか?」

リーガルアドベントカレンダー( #legalAC )Business Law Journal連載連動企画「改正民法(債権法)のリサーチどうやってますか?」

 

 
「企業法務系ブロガー」として、ビジネス・ロー・ジャーナル(BLJ)に書評を連載させていただいているronnor(Twitter:@ahowota)と申します。

 

さて、BLJ11月21日発売号では、「辛口法律書レビュー(2020年10月)」として、民法(債権関係)改正に伴う参照すべき書籍の変化に対応した、民法リサーチの「ベストプラクティス」を模索しています*1

 

 

詳細は本誌をご覧頂きたいものの、結局本誌記事の内容は、私が個人的に考えたやり方を紹介するにとどまっており、「結局みんなはどうしているの?」という問題意識に応えられていません。(ただ、BLJ本誌記事では、部会資料首っ引きで調べていた人が、部会資料首っ引きからかなり解消されたきっかけになった書籍等を紹介していますので、是非ご覧ください。 #ステマ)

 

www.businesslaw.jp


そこで、2020年法務系アドベントカレンダー、 #裏legalAC 企画として、「改正民法(債権法)のリサーチどうやってますか?」というテーマにつてアンケートを取り、その結果を踏まえた、集合知を紹介することとしました! ご協力いただきましたツイッターの皆様、誠にありがとうございました!

 

kanegoonta.hatenablog.com

 

 

1.アンケート結果

私の独断と偏見で、多くの人が使っているだろう3種類をリストアップし、後は「それ以外の書籍のお薦めはリプしてください」という形でアンケートをしたところ、173人もの多くの方のご協力を頂きました。心よりお礼申し上げます!

 

 

輝ける第一位は筒井・村松『一問一答民法(債権関係)改正』でした。

 

 

 

62.4%(108人)もの支持を得ました。流石、立法担当者解説です。とはいえ、公刊が2018年3月、すなわち、既に2年半以上が経過している訳です。今回の書評記事とアンケートは、ある意味、「そろそろオルターナティブは出ていないのか?」という問題意識に基づくものでしたが、このアンケートでも明らかになった『一問一答』の強さは、逆にいうと、他の書籍の「弱さ」を示唆するとさえ言えるでしょう。

 

 


第二位は潮見本で、20.8%(36人)の支持を得ています。具体的には(編著を除けば)、


ラクティス民法 債権総論〔第5版補訂〕

 

 


新債権総論1(法律学の森)

 

新債権総論1(法律学の森)

新債権総論1(法律学の森)

  • 作者:潮見 佳男
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 単行本
 

 


新債権総論2 (法律学の森)

 

新債権総論2 (法律学の森)

新債権総論2 (法律学の森)

  • 作者:潮見 佳男
  • 発売日: 2017/07/12
  • メディア: 単行本
 

 


基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得 (ライブラリ法学基本講義)

 

 


辺りで、後は
民法(債権関係)改正法の概要*2

 

民法(債権関係)改正法の概要

民法(債権関係)改正法の概要

  • 作者:潮見 佳男
  • 発売日: 2017/08/14
  • メディア: 単行本
 

 



民法(全) 第2版*3

 

民法(全)(第2版)

民法(全)(第2版)

 

 


といった感じでしょうか。

 

 


そして、これに大きく差をつけられたのが改正債権法コンメンタール(法律文化社)です。

 

改正債権法コンメンタール

改正債権法コンメンタール

  • 発売日: 2020/10/05
  • メディア: 単行本
 

 

6.9%(12人)でした。2020年に公刊された改正債権法の卓上コンメンタールということで、それだけを見ると、『一問一答』に代わるオルターナティブになりそうなところですが、残念ながらあまり人気がなかったのは本誌連載記事にも記載した、「共著リスク」のせいでしょうか。ただし、「改正債権法コンメンタールを足掛かりに、部会資料にもぐったりしております。」という声も上がっており、リサーチの「足掛かり」としては使えるものの、これだけでリサーチが完結しないのが不満という感じなのではないでしょうか。 

 

 

 

 

 

2.個別コメント

私が挙げた3種類以外の「自由記載」として、コメントを比較的多く頂いたのは、日本弁護士連合会『実務解説 改正債権法 第2版』(弘文堂)及び中込一洋『実務解説 改正債権法附則』(弘文堂)です。

 

実務解説 改正債権法 第2版

実務解説 改正債権法 第2版

  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 単行本
 

 

 

実務解説 改正債権法附則

実務解説 改正債権法附則

  • 作者:中込 一洋
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 単行本
 

 

 

弘文堂が日弁連の債権法改正ワーキンググループと提携して頑張っているという感じですが、個人的には、著者が、審議会の弁護士委員をバックアップするメンバーとして、確かに立法には関与しているものの、さりとて、立法担当者ではないという立場であることが逆に中途半端になっている*4という印象をもたなくもありません。

 

 


中田裕康『債権総論第4版』(岩波書店)や、道垣内=中井『債権法改正と実務上の課題』(有斐閣)もリサーチに使うというご意見がありました。

 

債権総論 第四版

債権総論 第四版

  • 作者:中田 裕康
  • 発売日: 2020/10/09
  • メディア: 単行本
 

 

 

債権法改正と実務上の課題 (ジュリストブックスProfessional)

債権法改正と実務上の課題 (ジュリストブックスProfessional)

 

 

 

これらは私も個人的に『一問一答』と併用しております*5

 

それ以外には、鎌田薫他『重要論点 実務 民法(債権関係)改正』や平野裕之『新債権法の論点と解釈』(慶應義塾大学出版会)は、私個人としては、あまり使っていなかったのですが、たしかに「とっかかり」という意味ではあり得るかもしれません。

 

 

新債権法の論点と解釈

新債権法の論点と解釈

  • 作者:平野 裕之
  • 発売日: 2019/01/25
  • メディア: 単行本
 

 

 


更に、『一問一答』が出た後の立法者見解の補足としてNBL立案担当者解説 民法(債権法)改正の概要(1106号*6〜)及び「債権法改正に関する経過措置の解説」(1156号*7 〜)が参考になります。本誌は「書籍」の評釈であったので割愛しましたが、確かに、『一問一答』の補足になります。

 

 

加えて、大村敦志・道垣内弘人『解説 民法(債権法)改正のポイント』(有斐閣)も挙がりました。

 

解説 民法(債権法)改正のポイント

解説 民法(債権法)改正のポイント

  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: Kindle
 

 

結局、新注釈民法シリーズが出るまでは、このような「多数書籍併用」で行くしかないのではない、ということではないでしょうか。

 

 

3.そもそも某出版社のコンメンタールがもっとしっかりしていれば…。
ここで、何度も繰り返していますが、私は債権法改正まで、『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』を使っており、確かに最近の同書には最新の情報の変化に改訂が追いついていない部分等アラもあったものの、法務パーソンが机上に置いてパッと参照するものとしては最高だと思っていました。ところが、Business Law Journal2019年11月号本欄で苦言を呈した通り、最新版(第6版)が2019年に発行されたにもかかわらず、改正条文については、ポイントと称して一問一答の情報量にも満たない情報が記載されるにとどまっており、これでは改正法のリサーチには使えない訳です。

 


それ以外にも同出版社はタイトルに「コンメンタール」と付く書籍を複数売り出しており、これらが実務のリサーチに本当に使えるものであれば、こんな悩みは必要はなかったはずです*8。同社は本当に良い本を多数出されており、極めて優秀な編集者も多数いらっしゃると承知しているので、奮起*9 に期待したいところです。

 

最後に、アンケートやリプの形でご協力いただいた皆様、誠にありがとうございました!!

 

 

 

*1:はい、そこ、「顧問弁護士の先生に頼めばいいんじゃない?」という答えはNGです。全てを顧問の先生にリサーチを頼むことができず、法務パーソンが自分でやらないといけないことを前提としています!

*2:ただし、『一問一答』が出た後はあまり使われなくなっているのでは

*3:ただ、法学部の学生用の教科書という印象が強い

*4:いっそのこと、「一人の実務家」としてクライアントにどうアドバイスしているか、「踏み込んだ私見」を示します、という方向に振れた方がむしろ特色が出ていいのでは、とさえ思う。

*5:中田契約法が早期に改訂されると、中田シリーズで、「通し」で改正債権法の範囲を概ね網羅できるので、有用性は上がりそうです。

*6: https://www.shojihomu.co.jp/nbl/nbl-backnumbers/1106-nbl

*7:https://www.shojihomu.co.jp/nbl/nbl-backnumbers/1156-nbl

*8:なお、私はいわゆる「新」や「基本」等は、「学習用」コンメンタールとして売っていると理解しており、学生の学習用コンメンタールとしての意義を否定する趣旨ではありません。

*9:具体的には、『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』第7版での、真の意味における改正債権法対応

独禁法務の実践知の「索引」を勝手に作る

 独禁法務の実践知の「索引」を勝手に作る

独禁法務の実践知 (LAWYERS’ KNOWLEDGE)

独禁法務の実践知 (LAWYERS’ KNOWLEDGE)

 

 

いわゆる「おじさんライン構文」が業務用チャットで流れてくるのを見ながら、コロナは世界を変えたなぁ、という感慨に浸っています(ご挨拶)。

 

さて、今回はBusiness Law Journal連載・連動企画です。一応私ronnor(ツイッターアカウント名@ahowota)は、「企業法務系ブロガー」という呼称で、Business Law Journal誌上で「辛口レビュー」を連載させて頂いております。

 

Business Law Journal2020年7月21日発売号(書店ではなく、公式サイトからの予約をしましょう!!)においては、長澤哲也『独禁法務の実践知』をご紹介しますが、今回はその索引を勝手に作る、Business Law Journalスピンオフ企画です。

 

 

www.businesslaw.jp

 

 

長澤哲也『独禁法務の実践知』はとても良い本である。

しかし、何が一番の不満かというと、索引機能が弱いことである。

ないなら自分で作ってしまえ」ということで、同書の「プラットフォーム」関係の内容をまとめてみた。なお【索引あり】とされている4箇所以外は、少なくとも「プラットフォーム」では索引で出てこない*1

 

なお、プラットフォームについて約1年前の情報をまとめたものとして「デジタルプラットフォーム・プラットフォーマー・デジタル市場のルール整備関係報告書等まとめ」を参照のこと*2

ronnor.hatenablog.com



1 凡例
・eコマース実態調査報告書(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jan/190129_4houkokusyo.pdf)

・飲食店ポータルサイト実態調査報告書(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/mar/200318-2.pdf)
・個人情報取引優越ガイドライン(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/dec/191217_dpfgl_11.pdf)
・データ競争政策報告書(https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/170606data01.pdf)
・デジタルプラットフォーマー実態調査報告書(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/oct/191031b.pdf)
・電気通信事業ガイドライン(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/denki_files/denkitushin190906.pdf)


2 共同購入との関係
共同購入は調達に関する競争者間での協調的取組との関係で問題となり得る他その方法として電子商取引サイト運営事業者(プラットフォーム)といった第三者を利用して行われる共同購入がその方法が例示されている(97頁)
・共通の企業間電子商取引プラットフォームを利用して供給者と購入者が個別交渉を行う場合には、その際に購入者間で購入条件に関する情報交換が行われる物でない限り、独禁法上問題とはならないとされる(98頁)

 

3 商品内容に関する競争者との協調的取り組み
・競合する複数のデジタルプラットフォーム事業者によるベンダーが遵守すべきルールの統一について平成25年相談事例集6が引かれている(108頁)

 

4 最恵国待遇条項(MFN条項)・均等待遇条項(パリティ条項)
・(取引先間の競争阻害の文脈で)プラットフォーム事業者が自らを通じて最終受容者に商品を販売する利用事業者に対して自社のプラットフォームでの価格や品揃えを他のプラットフォーム等を販売する場合と同等以上となるよう設定することを義務付けること等についてデジタルプラットフォーマー実態調査報告書第2部第4の3(1)等を引いて議論(135頁)【索引あり】
・(第三者に対する排他的拘束の文脈で)プラットフォーム事業者が、プラットフォームを通じて最終需要者に商品を販売する利用事業者に対し、自社のプラットフォームでの価格や品揃えを他のプラットフォーム等を通じて販売する場合と同等以上となるよう設定することを義務付けること等が最恵国待遇条項の類型に該当することについて公取委処理平成29年6月1日(電子商店街事業者拘束条件付取引被疑事件)を引いて説明(276頁) 【索引あり】
・(第三者に対する排他的拘束の文脈で)プラットフォームの最恵国待遇条項(MFN条項)義務付けが競争阻害効果を有することについて、デジタルプラットフォーマー実態調査報告書第2部第4の3(1)等を引いて議論(277頁)
・(第三者に対する排他的拘束の文脈で)プラットフォームが同等性条件を義務付けることで、当該プラットフォームで顧客に提供される様々な便益(情報等)につき他のプラットフォーム事業者や利用事業者自身がフリーライドすることを防止し得ることや、競争促進効果が認められるために考慮されるべき事項を電子商店街事業者拘束条件付取引被疑事件担当官解説を引いて議論(278頁)

 

5 取引先間の競争阻害
・コンテンツプロバイダによるプラットフォーム事業者への利用料金の指示について平成16年相談事例集事例3を引いて議論(149頁)
・取引先の選別・差別的取り扱いに関し、飲食店プラットフォームが恣意的にアルゴリズムを設定・運用することなどにより、特定の飲食店の店舗の評点を落とすことによって、当該飲食店をたの飲食店との競争上著しく不利にさせることも差別的取り扱いの問題となることを飲食店ポータルサイト実態調査報告書第4の3(3)を引いて論じる(183頁)

 

6 第三者に対する排他的拘束
・第三者に対する排他的拘束の、競争者に対する取引妨害として、ゲーム配信プラットフォーム事業者が、有力な一部のゲーム提供者に対し、競合するプラットフォームにゲームを提供しないことを要請し、当該要請に従わない場合には、当該ゲーム提供事業者が自社のプラットフォームを通じて提供するゲームのリンクをウェブサイトに掲載しないとすることは、当該ゲーム提供事業者の自由な意思決定を阻害し、取引先選択の自由を侵害するものであり、競争手段として不公正なものであって、競争者に対する取引妨害に該当するとした公取委命令平成23年6月9日(ゲームプラットフォーム事業者取引妨害事件)を引く(232頁)
・コンテンツプロバイダに追ってリンクを掲載されることが重要なポータルサイトにおいて要望するカテゴリへの掲載を不当に拒否したりサイトのツリー構造の最下層近辺に配置したりすること等が競争者と取引することによる不利益取り扱いの拘束手段となることについて、上記ゲームプラットフォーム事業者取引妨害事件電気通信事業ガイドラインII第4・3(1)①を引く(242頁)
・競争者と取引しないことによる有利取扱いの例として、プラットフォーム事業者が、自らのプラットフォームを利用するソフトウェアの開発メーカーに対し、特定のソフトウェアを自らのプラットフォームのみを通じて配信することを条件として、当該ソフトウェアの開発費用を一部負担したりその提供について支援を行なったりすることにつきゲームプラットフォーム事業者取引妨害事件平成29年相談事例集事例4を引いて説明(242-243頁)
・その場合の市場閉鎖効果について、取引機会の減少の十分性に関し平成29年相談事例集事例4を引いて説明(259-260頁)
・プラットフォーム事業における市場閉鎖効果について、理論的には顧客群との取引ごとに生じ得るが、プラットフォーム全体を一つの取引分野として、市場閉鎖効果を見ればよいというコラム(264-265頁)【索引あり】

 

7.競争者に対する取引拒絶等
・デジタルプタットフォーム事業者が自ら又はその関連会社と利用事業者間において手数料や表示の方法等を不公正に有利に取り扱う、検索アルゴリズムを恣意的に操作して、自ら又はその関連会社が販売する商品を上位に表示して有利に扱うなどの行為を行うことは、競合する利用事業者と消費者の間の取引を不当に妨害するものとして独禁法上問題となるおそれがあることをデジタルプラットフォマー実態調査報告書第2部第4の2(3)を引いて論じる(292頁)
・デジタルプタットフォーム事業者が利用事業者による販売によって得た顧客情報について、利用事業者に提供しないことにより、自らまたはその関連会社の販売を有利に進め、利用事業者の販売を不当に妨害する場合には、競争者に対する取引妨害等として、独禁法上問題となるおそれがあることをデジタルプラットフォマー実態調査報告書第2部第4の3(2)を引いて論じる(310頁)

 

8 有利な取引条件による顧客の獲得におけるプラットフォームの有利条件の判断
・プラットフォーム事業における有利条件の設定について、多面市場全体でのコスト割れ判断、不当に得た利益を原資とした有利条件の設定等について、平成12年相談事例集事例2や東京高決昭和50年4月30日(新聞発行業者不当廉売緊急停止命令事件)、業務提携報告書第6の3(3)等を引いて論じる(343-344頁)【索引あり】

 

9 顧客による合理的選択の阻害
・飲食店ポータルサイトが事実と異なる内容の口コミ投稿を削除等する条件として、自己のサイトの加盟店になることを義務付けることは、加盟店獲得競争の競争手段として不公正であり抱き合わせ販売等のうちの取引強制に該当するおそれがあることについて飲食店ポータルサイト実態調査報告書第4の3(4)を引いて論じている(358頁)

 

10 優越的地位の濫用
・(プラットフォームにおいては規約変更等で多数の相手方に同時に影響を与えられるところ)優越的地位の濫用の成否の判断においては、不利益を受け入れざるを得ない相手型の数が、考慮要素として重視されることをデジタルプラットフォマー実態調査報告書第2部第4の1(1)を引いて論じている(369頁)
・サービス提供事業者(デジタルプラットフォーム事業者)が消費者に対しサービス提供の対価として個人情報の提供を受ける場合に提供を受ける個人情報等の価値に対して相応でない品質のサービスを提供することが優越的地位の濫用として問題となり(個人情報取引優越ガイドライン5(1)、5(2))、不当な方法で消費者から個人情報等を取得したり利用することが正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるとされること(個人情報取引優越ガイドライン5(1)、5(2))が論じられる(371頁)

 

 

まとめ

長澤哲也『独禁法務の実践知』はとても良い本である。索引機能の弱さが不満なので、個人的に興味があるプラットフォーム(デジタル・プラットフォーム)関係について自分で索引を作ってしまったので共有したい。

興味を持たれた方は、是非Business Law Journal2020年7月21日発売号をご参照ください!

 

*1:なお「デジタル・プラットフォーム」で出てくるものがあるが、本来は「プラットフォーム ー デジタル」等として、「デ」で探さなくても見つかるような設計とすべきである。

*2:特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律の成立により、状況は大きく変わっていることは留意されたい。

法務パーソンのための地に足のついた在宅勤務論

 法務パーソンのための「地に足のついた」在宅勤務論

 

 

希望の法務――法的三段論法を超えて

希望の法務――法的三段論法を超えて

  • 作者:明司 雅宏
  • 発売日: 2020/10/03
  • メディア: 単行本
 

 


【この記事にあるエピソードは「すべてフィクション」です。某弊社がどこか分かった人が万が一存在したとしても、絶対に心の中だけに留めてください。】

 


1.はじめに
最近話題の「新型コロナウイルスに立ち向かう法務部門における新しい業務の在り方」*1 を熟読したが、残念ながら私の素直な感想は、「ポエムとしては極めて質が高いポエムである(なので、一部の人は勇気づけられる)が、結局ただのポエムに過ぎないので実務の役に立たない」、というものである。

 

このような感想を抱いたのは、「若気の至り」というか、多分一介の法務パーソンに過ぎず、管理職のような立場から物を見ることができていないことによって生じている可能性が高い*2

 

ただ、このような否定的なコメントをする以上は、何が法務パーソンにとって地に足のついた在宅勤務論なのかをきちんと示すのがフェアだろうとも思うようになった。私の中では、最近のテーマが「法務の定跡2.0」の模索なので、これに引き付けて少し検討したいと思う。

 

ここで、本書下書き作成後に、以下の論考に触れた。

 

chikuwa-houmu.hatenablog.com

これはまさに「我が意を得たり!」という論考であったので、適宜引用して進めたい。

 

2.在宅勤務の問題の本質

 

 今朝、ついつい厳しい論調のツイートをしてしまった。

 

 

 

 

 確かに、在宅勤務なら、物理的に言って「仕事中に話しかけられる」という事態はなくなる。それによって起案(資料作成、契約レビュー等)に集中できるというメリットはあるかもしれない。しかし、それは本当の意味で「メリット」なのだろうか、長期的に見ても「効率的」なのだろうか?

 


 私は、基本的には、在宅勤務の抱える問題の本質は、「不要な」コミュニケーションがなくなるところであると理解している。

 

 

 全員が基本的にオフィスに集まるとどうなるだろうか。

 

 

 例えば、朝エレベーター、エレベーターホール、そして自分の階の自席までの道のりで、別の部署の見知った顔に挨拶する。そうすると「そういえば、ちょっと今日お時間ありますか?」と言われることがある。給湯スペースやお手洗い等でもこういうことがあり得る。法務の「島」の近くをたまたま通りがかった別の部署の人と目があったときに、そういう対応が生じることもある*3

 

 また、例えば、法務の「島」で仕事をしていると、隣の席や近くの席の同僚から「そういえば、これってどう考えるんでしたっけ?」「前似た案件をやってませんでした?」と言った声がかかることがある。


 逆に、「指導してあげてくれ」と言われた後輩の様子を伺い、「煮詰まってない?」と聞くと言ったこともあった。

 

 このようなコミュニケーションは、正規のルートではない。

 


 例えば、他部門から法務への相談や契約書チェック依頼については、「法律相談メールアドレス」「契約チェック依頼メールアドレス」に連絡することを正規のルートとしている会社も多いのではないか。そうすると、単に「たまたま挨拶した」「視線があった」ことをきっかけに、直接相談予約をする、と言ったことは*4少なくとも「正規」のルートではないだろう。
 また、隣の席や近くの席の同僚からの質問については、同じ案件の担当に指名されている中でのやりとりもあるが、全く担当外の事項であっても、「この人に聞けば何か参考になるのでは?」という信頼があると、普通に全く担当外の案件でも相談が来る。
 更に、後輩の指導については、正規の指導としては、同じ案件に入り、後輩が修正した契約書のダブルチェックをすると言ったものがあるが、ちょっとした声かけ等の非正規の指導を通じて、コミュニケーションをすることもあった。

 

「相手に触れることなく」「人間としか関与しない業務」であれば、確かに 在宅勤務でも、「正規ルート」の業務の仕事はできるのだろう。問題は「それで十分か」ということである。

 

上記のような「非正規のコミュニケーション」を、「不要なもの」、「雑物」として切り捨てれば、確かに法務の業務は「絶対に」リモートワークで対応可能なのだろう。しかし、私はこの非正規コミュニケーションが、法務の仕事を円滑に行う、とりわけ、

  • 法務の敷居を低くし、社内のコンプライアンスリスクのある案件をできるだけ広く拾う
  • 法務内で円滑にコミュニケーションを行う
  • 先輩から後輩への指導を行う

といった目的を達成する上で、重要な役割を果たしてきていたと信じている。


そうすると、そのような重要な役割を果たしてきたものがなくなる在宅勤務は「喪失」と捉えるべきであり、それが失われることをもって、「メリット」や「効率化」と捉えるべきではない

 

やはり、正規のコミュニケーションルートだけで大丈夫だ、とはならないはずであり、在宅勤務でもなんとかなる、というだけで、この非正規のコミュニケーションを補う具体的な方法を提言しない限り、在宅勤務を肯定的に評価する議論に対しては、どうしても「眉に唾」をつけて聞かざるを得ない。

 

 加えて、上記の「【法務】一法務担当者なりに在宅勤務を通して感じていること」が指摘するとおり、

 

日々の業務をこなす際に、目の前の質問そのもの以外の周辺情報をいろいろと聞くことがあると思います。今回の製品はどんなものなのか、取引先はどんなところなのか、取引先の担当者さんはどんな人なのか、利益率とかどれくらいなのか、競合相手はどんな感じなんですか等々の様々な情報です。既にそれなりの関係が築けている人であればリモートであったとしても気軽に聞くことはできるのですが、そこまでは至っていない人とのリモートでのコミュニケーションになると、こういった点を聞くのに一工夫というか、普段よりもエネルギーを使っている

「【法務】一法務担当者なりに在宅勤務を通して感じていること」

 

というような、面と向かって話すのであれば気軽に聞くことができた、「一見直接関係のない事項」について、とりわけ相談者が「一見さん」(初めて接する担当者)等であれば敷居が高くなってエネルギーを使う現象も存在する。

 


3.今は「正しい」新しい業務のやり方が何かを考えるステージ


問題は、この在宅勤務を補う方法について、私がまだ十分に「経験則」を構築しきれていないことである。


・Web会議ではワード画面共有や、ホワイトボードの代わりに手書き描画ソフト等の画面共有をして、リアルタイムで議事メモを作り共有する*5
・メールだと固いかも、と思うようなやりとりについてチャットソフト(Slack等)を利用して、声がけをしてみる
・オンライン飲み会の開催

 

等公式・正規の「メール」「Web会議」等のコミュニケーションを補うコミュニケーションを考えないといけないとは思っている。

 

また、会社によっては、内線目的で携帯電話を配布していることがあるが、携帯であれば在宅でも直接電話がかかってくる。電話でコミュニケーションをする際の「敷居」と、直接「たまたま目があったから」で話す際の「敷居」はかなり違うと思われるものの、それでも在宅でなんとか「補う」方法としてはあり得る*6

 

 

 

このようにこの1ヶ月程度、つらつらと考えているものの、まだまだ「法務の定跡2.0」までは至っていない。


いっそのこと「みんなで業務時間中に『あつ森』をやって、相互に島に遊びに来ることによる交流を通じて非正規コミュニケーションを取っては」とかも夢想するが、中々容易ではないだろう。


しかも、回線の問題やハード(Webカメラ等)等の環境の問題は、法務の上がどれだけ良い人で、なんとか整備してあげたいと考えても、「調達が容易でない」「IT部門の担当」等の理由でうまくいかないところもあると思われる。

 


加えて、「メンバーごとに流れる時間が異なる」といっても、残業申請が心理的に結構大変になる(昼間の仕事ぶりが上司に見えない中、残業申請をすると、昼間集中して仕事してたのかと言われるのではないかという心配がある)ことは間違いなく、「流れる時間」が遅い人がサービス残業を強いられていないか、という点も考慮が必要である。

 


いろいろな意味で、今はそもそも「正しい」新しい業務のやり方が何か、ということを考えるステージだろう。今「やっている」業務のやり方は、もしかすると上司にとっては良いやり方で、これをずっと続けたい、と見えるのかもしれないが、下で泥臭く働いている部下にとっては、「緊急事態の暫定ということなら耐えられるが、これが続くとまずい」やり方に見えることも十分あり得る。とりわけ、上記の非正規コミュニケーションの減少ないしは対面であれば存在しなかった障壁の出現にエネルギーを使っている部下に対するフォロー等を上司がしっかりとしないまま、「いままでの仕事のやり方に戻ろうとしてはいけない」と、今のやり方を絶賛する発言をしていれば、その上司に対する幻滅感が生まれてもしょうがないだろう。

 


4 終わりに

結局明確なオルターナティブを示すことはできていないが、以上が私の現在の暫定的「在宅勤務論」である。

 

冒頭に示したとおりこの記事にあるエピソードは「すべてフィクション」である。以上の記事を読むと一見私が緊急事態宣言の結果家(ホーム)で法務をやっている「インハウス」のように見えるかもしれませんが、実はそうではなく、ほむほむ(暁美ほむらちゃん)と家(ホーム)で同居しているだけで、インハウス(在宅)勤務形態ではないかもしれませんよ。

 

*1:

www.businesslawyers.jp 

*2:

https://twitter.com/keibunibu/status/1255070738731511808

*3: なお、本エントリ執筆後に「「ハイテク企業がマイクロキッチン(休憩室)と自由に食べられる軽食を用意しているのは、人が午前中に空腹になってしまうからではない」とボック。「そこにセレンディピティー(serendipity=素敵な偶然の出会いや発見)があるからなのだ」と言う。」(https://globe.asahi.com/article/13334225?fbclid=IwAR0M6ZanyAtEss_uS2DfOOGBHZfZyWXhrUB2Or06JtD_0BIhMYvpAinFbO8)に触れた。

*4:多分「ご指名」の依頼自体も禁止はされていないと思うものの

*5:でも落ちたりというトラブルは少なくない。

*6:

https://twitter.com/flying_biwaman/status/1256054322606993408?s=20

アニメ・漫画・ゲームの企業法務実務への活用の実践例20選

アニメ・漫画・ゲームの企業法務実務への活用の実践例20選

 

アニメキャラが行列を作る法律相談所

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  • 作者: ronnor,庄司論平,エマ・パブリッシング,リクルトスツー,執筆協力:patRIOT /たまごまご
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このエントリは、「裏」法務系アドベントカレンダー2019の企画です。

 

adventar.org

 

昨晩のwakateben先生のブログからバトンを引き継ぎました。

wakateben.hatenablog.com

 

アドベントカレンダー、とりわけ「裏」では、なぜかハンバーグ縛りが起こっているらしい(多分、

他職種に就いてから活用できた法務経験TOP10 - coquelicotlog

のおかげ)ところ、このエントリではハンバーグは出てこないので、とりあえず、ハンバーグ&アニメ&競馬*2ということで、こちらのリンクを。

ameblo.jp

 

 

 さて、本題に戻りますと、当ブログは、アニメ法律本を商業出版しているようなアニオタにより執筆されているところ、色々と流れ流れて現在は現在法務界隈に住み着いている*3。アニメと法務、「この2つを掛け合わせてシナジーを生み出すことはできないか!?」このような問題意識からこれまで行ってきた20の実践例をご紹介したい。

 

 

1 アニメを使った法務スキルアップ

 まず、日本のアニメには、北米版等の海外版が存在する。サブタイトル(字幕)のみもあるが、海外版では吹き替えがされていることがあり、リスニング力向上に役立つ。言語を学ぶ場合、「好きなもの」(テーマ、内容等)が既に学びたい言語に翻訳されているものを活用する、というのは意欲を持って当該言語を学習するための王道である。

 

 参考:ドイツ語版マリみてレビュー

ronnor.hatenablog.com

 好きなアニメの英語吹き替え版を見ることで、英語能力を向上させ、法務パーソンとして次のステージに行こう!

 

2 艦これ式メール処理法

 

 

 艦隊コレクションにおける、発生中の「任務」を消化し、1つ1つ消していく方式を応用した、メールの処理方法である。

 メールソフトには「受信トレイ」と、各案件毎に分かれたフォルダが存在する。ここで、一部の人は自動的に各案件毎のフォルダにメールを移動させるよう設定する。しかし、「艦これ式メール処理法」では、「あえて」手動で移動させる。

 なぜ手動で移動するかといえば、「自分がボールを持っている案件」と「ボールが相手にある案件」を区別するためである。受信トレイには自分がボールを持っている案件(のみ)を集約する。その上で、自分が対応すべきメールに対する対応*4を終わらせたら、「艦これ」でいうところの任務を「達成」したとして、受信トレイから別のフォルダに移動することで、「ボールが自分以外にある案件」が各案件毎のフォルダに移り、受信トレイには「ボールが自分にある案件」だけが残る。

 このような方法によって、受信トレイさえ見れば、自分が今やらなければならない案件がわかるということになり、非常にシンプルに、なすべき業務の一覧化と優先順位づけをすることができる。

 

 

 

 最近このようなツイートのやり取りがあったが、これは「艦これ式メール処理法」に近い処理方法である。

 

3 ポケモン式勉強法

 

 

 

 法クラにおいて、ポケモンに関する最も有名な「名台詞」は、以下のものだと言って差し支えないだろう。

 

民法は、ポケモンワールド。百数十のポケモンの名前や性質・得意技などを覚えたように、民法ワールドに潜む、できるだけ多くの概念や制度をゲットし、その制度理解や解釈技法に習熟することによって、民法マスターへの道をめざそう。君のピカチューは何かな?

松本恒夫他「マルチラテラル民法」v頁

 

 つまり、法律に関する諸制度、条文、判例等は1つ1つをポケモンだと考えるということである。そして、勉強(OJTと座学・書籍等双方)を通じてポケモンを1匹1匹実際の利用場面を想定しながら「ゲット」していく。

 

 実務で「バトル」、すなわち、法律を使って解決すべき状況に直面したとき、そのバトルそのバトルに最適なポケモンを選択し、


「行け、下請法!支払遅延の禁止だ!」

 

等として問題を解決するのだ。

 

眠くなり、辛い勉強も、「ポケモンゲットのための道のり」だと思えば前向きになるだろうし、書籍の購入も「課金」だと思えばいい。そして、一度押さえた内容がまとまっている江頭・菅野等の分厚い基本書は「ポケモン図鑑」として活用可能だろう*5

 

 4 まどマギPDCA

 

 

 

法務の仕事は、最初はなかなかうまくいかないことも多い。私の個人の経験ではなく、あくまでも「あるある」ネタであるが、以下のようなシーンが想定される。

 

例えば、「こんな不利な契約、全面書き換えしないと当社の利益が守れません!」と頑張って書き換えた契約について、営業から「相手から雛形なので、修正不可と言われました」として相手の雛形どおり締結したことを通知されるシーン。

 

例えば、社内のある慣行が違法だと考え、「これは是正しないと違法ですよ」と伝えたものの、「経営陣に打診したら、この慣行は経営陣の意向によるものだから、違法かどうかはともかく是正しない」と通知されたシーン。

 

例えば、今後このように業務方法を改善していきましょう、と伝え、その場では「わかりました」と言われたものの、その数ヶ月後に、全く変更がない旧態依然の業務方法が続いていたことが判明したシーン。

 

これらはあくまでも例だが、「心が折れる」寸前までいくようなパターンもないではないだろう。

 

しかし、そもそも、「動かない」「思い通りにならない」というのは、自分が社内でまだ信頼されていないだけかもしれない。また、例えば「キーパーソン」を見つけて、その「キーパーソン」の心を動かせば、実際に改善につながるかもしれない。そうであれば、単に論理的に「正解」を説明するだけでよしとするのではなく、相手の行動にまでつなげるには更にどうすべきか、仮説を立てて更に実践し、その仮説を修正することを繰り返すべきである。

 

ワルプルギスの夜に負け続けても絶対にあきらめない、魔法少女まどか⭐︎マギカにおける暁美ほむらのように、失敗してもあきらめず、日々、改善を続けよう! いつか「ワルプルギスの夜」だって倒せるはずである。

 

 

 

5 ラブライブ!式分業法

 

 ラブライブ!では、スクールアイドルグループであるμ’sのメンバーが協力をして大きな夢を実現していく。

 

 ラブライブ!を参考に、仕事上の課題を解決する上で、自分で対応できない部分は、社内外の人と協力しあって補っていく。

 スクールアイドルに必須の作詞、作曲、衣装作り等を自分でできない穂乃果が、μ’sの別のメンバーと協力してこれを実現するのと同じ。

 

μ’sのリーダー論及びそれが仕事でも通用することについては、以下のツイートが参考になる。

 

 

https://twitter.com/gigakame/status/1193162765910720514?s=20

 

https://twitter.com/gigakame/status/1193162765910720514?s=20

ht6ps://twitter.com/gigakame/status/1193162765910720514?s

6 ドラえもん式専門家活用法 

 

 

 「秘密道具」のように自分にないものを補ってくれる外部専門家。でも、適切な場面で適切に活用しないとその効果を発揮できず、失敗してしまう。

 

 基本的には、「道具に頼りきり」ないしは「専門家に丸投げ」ではなく、道具/専門家を「使う人」の方でよく考えて、「この道具/専門家にはここでこういう活躍をしてもらう」「ここは自分でやる」といった形で切り分けをしながら活用していかなければならない。とりわけ道具があるから/専門家の意見により「こういうこともできる」という状況の下「じゃあ、どの選択肢を採用するか」はこちら側が決めることであって、その判断まで丸投げすることはできない。

 

「便利な道具も使い方次第」は、外部専門家の登用においても全く一緒だ。

 

 

7 アイマス式後輩育成法

 

 

 

後輩の個性に合わせ、時間をかけて根気づよく育成し、本人が笑顔でいられるようにする。
 
 
仕事はそのものが辛いことも多い以上、先輩からの指導まで辛いものだったら、後輩もなかなか伸びないだろう。
 
先輩の方で「笑顔です」等という確固たる信念を持ち、また、必ず「輝ける」と、後輩を信じていれば、後輩もその期待に応えてくれる可能性が高まる。
 
この点は、THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLSの武内Pに学べることが多いだろう!

 

8 ハルヒ式「夢」実現法

 

 

 

仕事やキャリアについて希望があっても、声を出さないと誰も分かってくれない。

例えば、「自分は英文契約を学んで、今後留学したい」と思っているならば、そのことを声に出して同僚や上司に伝えると、「そうか、じゃあ、この英文契約の仕事はあまり急ぎではないからお願いしようか」と言った感じで自分の望むキャリアに向けた支援をしてくれることも多い。

しかし、何も言わなければ、(会社の都合で、または、場合によっては「善意」で)よく分からないキャリアに向けた仕事の振り方等をされてしまうかもしれない。

涼宮ハルヒのように、「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来なさい。」等と社内外で夢実現に向けて声を上げることで、はじめて夢を実現できる。自分は自覚できていなくても、もしかすると、周りには、既に「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者」がいるのかもしれない。

 

 9 けもフレ式「雰囲気醸成法」

 

けものフレンズ Blu-ray BOX

けものフレンズ Blu-ray BOX

 

 

チームビルディングにおいて、チーム全体で良い雰囲気を作るのは簡単ではない。特にうまくいかないフェーズ、ミスが出るフェーズ等では、ギスギスしがちである。

けものフレンズ無印のみ)は、相手の良いところを素直に「すごーい」と褒め、できないことも「へーきへーき、フレンズによって得意なことが違うから!」で全肯定する。

チームメンバーの良いところを探し、失敗についても可能な限り否定しないようにするという、このけもフレ流を採用することで、チームが前向きで良い雰囲気になるので、チームビルディングの際にフル活用しよう。

 

10 ラブライブ!サンシャイン!!式PMI

 

 合併や事業譲渡等で複数の組織が一緒になったとき、真の意味での「一つの組織」へと変えるための努力が必要である。これをPMI、ポスト・マージャー・インテグレーションという。

 

 このようなPMIの実務を学ぶ上では、現実の事例をもとに検討することが望ましいところ、映画版ラブライブ!サンシャイン!!は、まさにそのような事例であり、PMI研修の教科書として活用すべきである。

 

 この点は、当ブログのエントリーを参照のこと。

 

ronnor.hatenablog.com

 

 

11 エヴァンゲリオン式自己防衛術

 

 基本的にブラック企業は、従業員が「逃げちゃダメだ」と思うように仕向ける。

 

例えば「この会社でやれない人はどこに行ってもだめだ」「石に齧りついても3年頑れ」「辞めたらこの業界で働けないようにしてやる」等々という感じである。

 

また、逆に会社があまりにもだめ、として、責任感が強い人に「自分がいなきゃいけない」という思いを感じさせることもある。

 

しかし、実際には組織というのは「私が死んでも代わりはいるもの」という原理に基づき、誰が欠けても円滑に回るように作るべきであるし、そのように作ることができなければそれこそが経営側(マネージメント側)の落ち度である。

 

その意味では、見限るべき会社組織は早々と見限り、自分を守るべきである。最後は、会社よりも自分が大事だから。

 

12 天気の子式コンプライアンス

小説 天気の子 (角川文庫)

小説 天気の子 (角川文庫)

 

 天気の子では、穂高、そしてその周りの人たちは法を犯してでも、陽菜さんを救おうとする。このように、「法よりも重要なものがある人」がいる、というのは、映画の中だけではなく、現実社会でも重要な点である。

 

 実際のところ、「会社の論理」というのは、会社の中では、何よりも優先されることが多い。別に会社が「あえて法を犯したくてしょうがない」のではないが、会社として何らかの理由で決めた方針というのは変えることは容易ではなく、むしろ「法務の方でうまく帳尻を合わせてくれ」という形で法務に責任が押しつけられることもある。

 

 グレーの色をほぼ白にまでできる代替手段がある場合もあるが、グレーやかなり濃いグレーにしかならない場合がある、そして、最後は黒という場合もある。「黒」の案件にゴーサインを出すか、それとも辞めるかといった究極の選択を迫られることは多くはないとしても、ゼロではない。

 

 穂高は、家庭裁判所少年審判を受け、保護観察という処分を受けた。この場合には、更生という選択肢を取ることが可能であった。ただ、会社の場合には、コンプライアンス違反が最悪倒産を招くという事実を前提に、判断をしていかなければならない。

 

 なお、以下はあまり関係がないが参考リンクである。

ronnor.hatenablog.com

 

13 青豚式法則性発見法

 

  青春ブタ野郎シリーズでは、思春期症候群と呼ばれる一見不合理な現象に対し、双葉理央が主人公の梓川咲太の相談に乗り、(自らも思春期症候群にみまわれながらも)法則性を発見し、その現象を解明する。

 

 会社法務において、相手が一見「場当たり的」で「不合理」な対応をすることがある。例えば、ある対応がコンプライアンス違反だから直すように指摘しても「直せない」という部門であるとか、契約文言が矛盾していて、問題があるから適切な文言にして矛盾をなくそうと提案しているのに「この契約雛形以外では当社は契約できません」という相手方等々。

 

 こういう一見不合理な対応についても、その「理由」や「過程」をよく考えれば、そのような対応には法則性やそれなりの背景があることが分かることも多い。

 

 例えば、「直せない」という理由は、当該部門の絶対権力者であるとか、社長等が何らかの理由で「こうするように」と指導したからであって、その人に配慮しているであるとかそういう理由があることがある。また、例えば雛形を修正するなら法務に相談するというルールのある会社で、法務に相談したくないから、営業限りで「これは変更できない」と言っている相手方がいる場合、「お互いに法務入れて電話会議でもしません?」と言ってみると、「法務に確認しました。修正受け入れます」と一瞬で態度が変わる可能性がある。

 

 こういう、青豚の双葉理央のような法則性や背景を探る営為は、少なくとも法務ライフ(ホムホムライフではなく)を快適にするためにはとても重要である。

 

14 スタァライト式「ルールクリエイション」

 

少女☆歌劇 レヴュースタァライト Blu-ray BOX1

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少女⭐︎歌劇レヴュースタァライトは、「契約書レビューしときます」といった日常的メールが「契約書レヴューしときます」に予測変換されるというような形で、法務生活に若干の支障をもたらす反面、それ以上に重要なことを教えてくれる

 

 キリンのオーディションを戦い、そのオーディションを勝ち抜くことで「トップスタァ」を目指す、聖翔音楽学園の舞台少女たち。そこには「オールオアナッシング」ないしは「勝者総取り」のルールがあった。

 

 愛城華恋は、オーディションへの乱入から始まり、既存のルール全てをぶち壊し、新しい境地を切り開いた。

 

 これこそ、まさにゲームそのものをチェンジする「ルールクリエーション」であり、今後の法務に必要とされる、会社がビジネスをする上で守るべきルールを絶対的なものと思い込まず、必要に応じてルール自体を変革することも辞さない態度をとることの必要性を語ってくれる。「わかります。」

 

15 ケムリクサにみる転職の重要性

 

ケムリクサ 1巻[上巻] [Blu-ray]

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 けものフレンズ(無印)の後の2期を作ろうとした際のたつき監督の身に生じた事態については、既に多言を要しないだろう。

 

 しかし、たつき監督は、けものフレンズシリーズへの関与をやめ、ケムリクサを作ることで、世に再び評価された。

 

 このことが分かるのは、元いた場所にいることに固執する必要はなく、別の場所におい輝くことができることである。

 

 これを法務パーソンに敷衍して見ると、ある会社で仕事をしていて、そこで目がでない、上司から評価されていない、会社の方針に納得できないと言った場合には、その会社に泣きながらしがみつくよりも転職をすることがより良い人生に近づけるということである。

 

16 よりもい流ダイバーシティ

 

  宇宙よりも遠い場所は、女子高生が南極を目指すアニメである。それぞれ個性的な登場人物が出てくるが、一人だけだと多分南極にいけなかっただろう。

 

 小淵沢報瀬は母親のため南極に行こうと100万円貯める積極性があるが、なけなしの100万円を落とすような抜けているところがあり、また、南極観測隊からは変人扱いされる。キマリ(玉木マリ)は普通の女子高生で青春をしたいが、具体的に何をするかに悩んでいた。この二人が出会い、そして、三宅日向と白石結月とあわせて四人が協力しあうことではじめて南極に行くことができた。

 

 組織も同じであり、強い目標を持つ人、その目標に共感して引っ張る人等、多様な人材が協力することで、大きな目標を達成していく。その意味で、多様性(diversity)は大変ではあるが、重要であり、そのような多様な人物を包含すると共に、その多様な人物が、その良さを生かして同じ目標を達成できるように進めるようにすることが現代におけるマネジメントだろう。

 

17 プリンセスプリンシパル流「スパイ」術

 

 

 プリンセス・プリンシパルは、スパイ×女子高生×スチームパンクという、まさに私のような人の琴線に触れる作品である。

 

 ここで、重要なことは「スパイ」の特徴すなわち、複数の身分を持つことの重要性である。実際には、複数の身分を持つことで、一つの立場がうまくいかなくとも、一時的にもう1つの立場に身を隠して生活し、再起を図ると言った方法がある。

 

 もちろん、スパイ「行為」のようなリスキーなことをする必要はない。あくまでも、一つの身分だけではなく複数の身分を持つことの重要性に過ぎない。

 

 例えば、法務パーソンとブロガー(&ツイッタラー)というのは、1つのあり方である。

 また、社会人大学生等もあり得るだろう。

 更に、最近副業をする人も増えてきている。

 

 もちろん、本来の法務パーソンとしての仕事がおろそかになってはならないが、その範囲で別の「身分」を持つことは重要である。

 

 

18 とあるシリーズで学ぶ「レベルゼロ」の勝ち方

 

  とあるシリーズは、開発された超能力のランクによってレベル0からレベル5まで区分された学園における科学と魔術の争いがテーマとなるが、面白いのがレベル5の一方通行であってもレベルゼロの上条当麻にコロッと負けることである。

 

 「法務のレベルファイブ」というのが一時期流行ったところ、一つの「ものさし」によって上下を区分することはできるが、それはあくまでも当該「ものさし」による上下関係であって、それ以外の観点では、また別の結果があり得る。

 

 例えば、司法試験の知識ではインハウスに全然かなわないような無資格の法務パーソンが、うまく「キーパーソン」とコネクションを作って法務の案件を回して行く、というのは、「ものさし」を、司法試験の点数から「企業の法務部門における実務能力」に変えることで、成功している事例であろう。

 

19 グリッドマンで学ぶ温故知新

 

 

  SSSS.GRIDMANは、電光超人グリッドマンという円谷プロの古典的特撮を、スピンオフという形で現代に蘇らせた温故知新のアニメである。

 温故知新というのは、法務でも重要である。法務の中で古い時代の話というのは、あまり注目されないことも多い。

 そこで、昔のトラブルとその教訓から作られてきた雛形の文言が、時代と共に「なぜその文言になっているか分からない」と言った形で承継されないこともある。

 それぞれの会社の法務部門には、それぞれの歴史がある。その歴史的な背景に再度光を当て、例えば、「自社はこういうトラブルが過去にあったので、こういう点を重視してコンプライアンスをやっている」等という形で若い人に歴史を承継することは、自社の法務部門の「原点」に立ち戻るという意味でもあり、重要であろう。

 

20 ガルパン式チーム内意識統一法

 

 

 

 ガールズ&パンツァーでは、大洗女子学園の西住みほ隊長が、必ずしも強いとはいえないメンバーをまとめ上げて実力以上の結果を出している。

 一人ではなく、チームで対応する場合、適切な「作戦名」を考えて共通認識を形成しやすくする。「下請法の範囲内で最大限押し込む作戦」とか「瑕疵担保条項だけは守る作戦」とか「コソコソ作戦」とか。チーム内で意識を統一し、一丸となって戦う上で効果的である。

 

昔「法務のノウハウ」という記事を書いたことがある。

 

ronnor.hatenablog.com

 

「法務のノウハウ」記事で紹介したミニノウハウも

・ついで作戦

・一応のプロセス作戦

・駄目元作戦

・柔軟な方法作戦

・合理的期間作戦

・改善計画作戦

・次の改定時期作戦

等という「作戦」にすると、いいかもしれない。

 

 このように、アニメ、漫画、ゲームには、多くの「知恵」が詰まっている。これらは、法務パーソンの日常生活を改善し、よりよい人生を導いてくれる。

 

 最近では、「思い」を共有してくださる方も増えてきた。

 

 

 皆様も、アニメ、漫画、ゲームの知恵を企業法務実務に活用しませんか?

 

まとめ

このような、アニメの知恵を法務に持ち込むことにご賛同下さる「ちくわ」さんが明日、裏LegalAC のバトンを引き継がれる。「法務に役立つかもしれなくもないアニメ10選」だそうである。大変楽しみである。 

 

追記:12月12日

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

ちくわさんの記事が期待をはるかに上回る素晴らしさで、感動しましたので、ご紹介。私の記事は「前座」であり、本編がちくわさんの記事とお考えください。なお、何個アニメが被るかを想像してみて頂けるとより楽しみが増えるかと! アニメ法務の奥深さを示している記事だと思います!

 

 追記:2020年12月6日

 

#経営アニメ法友会 設立しました。

ronnor.hatenablog.com

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

*1:これをやらないと「刺される」ご時世と理解しております。怖いですね...。

*2:競馬を選んだ理由は、某戦士先生の影響かもしれません。

*3:資格の有無は公表していませんが、某企業法務部で働いている現役法務パーソンです

*4:典型的には「返信」であるが、返信をしなくても、「転送」すればいい場合や、何もしなくても良いという場合もあるだろう。

*5:つまり、例えば江頭であれば、その内容を理解しない状態では、ポケモン図鑑が埋まっていない状態。内容を理解し、1つ1つポケモンをゲットしていくことで最終的には江頭の内容を全理解し、「ポケモン図鑑会社法編」が完成すると言うイメージである。